元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「裸足のピクニック」

2008-08-04 06:36:45 | 映画の感想(は行)
 93年作品。「ウォーターボーイズ」や「スウィングガールズ」などで今やその動向が注目されるようになった矢口史靖監督だが、デビュー当時はこんなにもレベルが低かった。処女作であるこの映画は、まさにどうしようもない駄作だ。

 平凡な女子高生(芹沢砂織)がキセル乗車を駅員に見つかったことをきっかけに、坂道を転がり落ちるように不幸な出来事に巻き込まれ、学校からは追放、家庭は崩壊、生死の境をさまよい、ボロボロになっていく・・・・、というストーリー。これをコメディ・タッチで笑い飛ばそうという魂胆だ。ただし、それをモノにするには悲劇を喜劇に転化できるほどのパワーある演出と、キメ細かい描写力が必要。ブラック・コメディは通常のコメディの倍以上の慎重さと巧みなプロットの組み立てがなければならないと思う(一歩間違えば悪趣味に終わるからね)。ところがこの作品には何もない。もう見事なほどスッカラカンの内容だ。

 主人公の女子高生はじめその家族、クラスメート、教師、その他、どこをどうすればこんなに不快な連中を集められるのか。人間味のかけらもない、嘘とイヤミで固めた畜生以下の奴らが画面をウロウロする様子は見ていて反吐が出そうになった。もちろん、感情移入できないキャラクターばかりが出てくる傑作映画を知らないわけではない。しかしこれは完全に問題外。この作者は上っつらだけで人物が描けると思っている。映像が面白いとか、セットが凝っているとか、そういうのも一切なし。演出も実に稚拙で話にならない。

 しかし、月日の流れとは恐ろしいもので、こんなガラクタを撮っていた人間も精進すれば数々の快作を作り上げる人材へと成長してしまうのだ。彼の場合一足飛びにそんな境地に達したわけではなく、この映画の後も迷走が続いている。そんな中でも粘り強く彼を起用してきたプロデューサー側の手柄でもあろう。「男子、三日会わざれば刮目して見よ」という諺を地で行くようなケースである。
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「帰郷」

2008-08-03 06:52:55 | 映画の感想(か行)
 2004年作品。片岡礼子の復帰第一作ということで期待したが、残念ながら彼女は脇役。そして作品も低調。

 母親の再婚で久しぶりに郷里の千葉県富浦町に戻った男(西島秀俊)が、昔の女(片岡)の子供(守山玲愛)の相手を2日間するハメになるという話。付き合っていくうちに、非社交的な主人公も頑なな子供も互いに打ち解けてゆくというお決まりのパターンになるが、この映画のダメなところは、リアリズムを狙った演出にもかかわらず筋書きやディテールがわざとらしい点だ。

 その子がひょっとすると主人公の実子かもしれないという前振りや、立ち寄った神社がちょうどお祭りで(爆)子供がそこで迷子になるとか、果ては子供が熱を出して駆け込んだ先の病院での“登場人物勢揃い”など、まるで田舎芝居のようなネタが並ぶ。

 しかもキャストのほとんどが“自然な演技”とやらに専念しているおかげで、そんな人情ドラマ的なシークエンスが見事に宙に浮いているのだ。結果、1時間40分ほどの上映時間が限りなく長く感じられることになる。

 監督は萩生田宏治という新鋭だが、それより脚本に利重剛の名前があるのが目を引いた。彼がスタッフとして関わった映画にロクなものはないが、今回もそう。今後は俳優に専念していただきたい。
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「アウェイ・フロム・ハー 君を想う」

2008-08-02 06:56:36 | 映画の感想(あ行)

 (原題:Away from Her )どうにもパッとしない出来だ。44年間も連れ添った仲の良い老夫婦が、妻のアルツハイマー病発症をきっかけに変化していく様子を追う本作、展開が説明不足でワザとらしい。

 夫は物忘れが目立つようになるという初期症状の段階で早々に妻を施設に入れてしまう。どの病状のレベルでの入院が適当なのかは素人の私には分からないが、その施設には高圧的な主任やら人生投げたような看護婦やらが待ちかまえており、どう考えても妻を任せたくなるような雰囲気ではない。百歩譲って、そこが住居から一番近いという利便性を勘案してのことであっても、なおのこと早期の入所には疑問符が付くではないか。

 妻が施設に入って1か月も面会禁止が続き、やっと旦那が訪れてみると彼女は夫の顔も忘れており、あろうことか患者仲間の男を愛し始めている。別に映画の筋書きとしては病状が進んでそうなっても構わないのだが、なぜその男なのか明確な理由は示されない。セリフで滔々と説明する必要はないとしても、何らかの暗示や伏線は用意すべきではないか。

 主人公の二人には子供がないようだが、それは仕方ないとしても親族さえ出てこないのはどういうことか。それどころか友人や知人さえ顔を見せない。夫は若い頃に随分と女たらしだったことが示され、妻と一緒になったこと自体も必ずしも周囲から祝福されるような状況ではなかったらしいことを匂わせるが、作劇上それで十分とは言い難い。

 妻の“愛人”となった男の家内と懇ろになるくだりにしても図式的で、切迫した感情の発露が感じられない。極めつけはラストシーンで、取って付けたような御都合主義を見せつけられて呆れるばかり。もっとマジメにやってほしい。

 これらの不手際は監督のサラ・ポーリーが20代の若さだということが関係しているのかもしれない。老人問題に対して“自分にはまだ先のこと”だという本音があり、深い洞察を経ないまま頭の中だけで考えた設定をなぞっているだけ。情緒的に流されるのは嫌いなのでシニカルな風味で仕上げてやろう・・・・といった割り切ったスタンスだけが先行し、観る者に感銘を与えようという真剣味は希薄であるように思える。

 本作でオスカー候補になったジュリー・クリスティは年老いた今でも往時の美しさを感じさせるし、オリンピア・デュカキスの貫禄ぶりも見逃せない。しかし、夫役のゴードン・ピンセントの演技はつまらない。まあこれは年若い女流監督らしく、男性キャラクターに対する共感度が足りないためかもしれない。凍てついたカナダの自然風景とジョナサン・ゴールドスミスによる音楽こそ美しいが、ドラマの練り上げが足りないのでそれだけで“観る価値あり”とは言えない。
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「ラバーズ・ラヴァー」

2008-08-01 06:25:26 | 映画の感想(ら行)
 96年作品。塚本晋也の「鉄男」の助監督でもある福居ショウジンのメガホンによるサイキックSF。ある科学者グループが、某大企業の依頼で人間の脳細胞を破壊して再構成し、超能力を生みだそうという研究を進めていたが、結果は失敗。被験者の肉体がフッ飛んでしまう。依頼者からの非難をかわそうと、口うるさい研究メンバーの一人(川瀬陽太)を実験台にして、試作段階である“第二の皮膚”ラバーコスチュームを無理矢理作動しようとするが、これもうまくいかない。ところが、研究所にやってきていきなり科学者たちにレイプされてしまう大企業の秘書(奈緒)の悲鳴にラバーコスチュームが連動し初め、被験者は怪力のサイボーグとして復活。研究所は修羅場となる。

 モノクロ作品で、全編これ絶叫と血しぶきと耳をつんざく効果音とロック・サウンドの洪水。私は決してこういう世界は嫌いではないが、途中から目が点になったのは、ストーリーが支離滅裂で意味不明のシーンがあったり展開が時系列的にデタラメになったり、自己陶酔的なアングラ演劇芝居が延々と続いたかと思うと、キャラクターの性格が突然変わったり、とにかく映画が破綻していくこと。ほとほと呆れた。

 なお、私は当作品を某映画祭で観たのだが、舞台挨拶に出てきた福居監督はロック・ミュージシャンもやってるらしく、いかにもそれっぽい雰囲気の人だったが、会場からの否定的な感想に対し、何の反省も釈明もコメントもしないのには困った。彼の首ねっこを押さえつけて、興行的に通用する作品に仕上げるプロデューサーでもいれば良かったのだが、製作はあの駄作「SCORE」と同じ人だから何言っても無駄。それに福居自身が“ロックンローラーは人の指図は受けないんだ!”みたいな奴だから、見通しは相当暗いようだ。

 なお、封切り当時は宣伝期間が短かったため、監督自身がチンドン屋に扮してPR活動をしたらしい・・・・というエピソードも残っている(笑)。
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