先日入手した古本を、ゆっくり少しずつ読んでいる。
薄クリーム色の紙に活版印刷の活字は、ゆっくり読むには最適だ。
美味しいチョコレートをちびちびかじっている気分。
著者は子供向きの本も何冊か書いた人だから、
けっして難解ではなく、読みやすい文章だけれど、
読むペースが遅いので、まだ半分くらいしか読めていない。
いよいよ知りたかった核心部分にさしかかって面白い。
しかし、例によって、本題とは離れたところで
ちょっとした小さなエピソードに興味をひかれる。
たとえば、12歳の少年が海岸の避暑地ですごす夏。
13歳年上の美しい従姉への初恋。
それから、ダダという愛称で呼ばれていた大好きな伯母のこと。
ダダ伯母さんは、よく少年にこんな歌をうたってくれた。
「メリーゴーランドにのって バンベルガーへ
行こうよ 行こう バンベルガーへ・・」
何年も後になって、少年は町の中心地にあるバンベルガー百貨店に
メリーゴーラウンドなど存在しないことを知り、がっかりする。
ダダ伯母さんは、65歳を過ぎてから遅い結婚をした。
誰も彼女が結婚するなんて夢にも思わなかった。
相手はそれまでに3人の妻と死別したヘンリー・コネリー。
ヘンリーは小柄な男で、高めの椅子にかけると足が床に届かない。
少年はドアの隙間にこっそり目をあてて、訪ねてきた男が
椅子で足をぶらぶらさせているのを覗き見ている・・。
ときどき、カポーティの小説を読んでいるような錯覚にとらわれる。
著者はカポーティより20数年早く生まれ、作家としてはあまり成功せず、
この本を出版した翌年に、処方薬を大量服用して亡くなった。
この本は小説ではなく、父の伝記として書かれたノンフィクションだ。
しかし、ページのあちこちからくっきり浮かび上がってくるのは、
町へ出かけて「ピアノをふたつ」買ってくるような成功者の父と、
そんな父に振り回されつつも自分の世界を失うまいとする母を
交互に見つめる、やせっぽちで繊細で少し神経質そうな少年の姿だ。
書くということは、つまり、そういうことなのだろう。
(上の画像は、アスパラガスの花。
実物はとても小さくて、5ミリくらい。
そうか、アスパラガスって、ユリのなかまなんだ・・)