新しい絵本ができました。
『なんでもモッテルさん』(あかね書房 2019年10月刊)
絵はアヤ井アキコさんです。
カッテル・モッテルさんは大金持ち。
立派なお屋敷には、世界中から買い集めたお宝がいっぱい。
車庫には高級車がずらーり。金庫の中にはお金がぎっしり。
奥さんのマーダさんも、子どものテルルちゃんとモットくんも、欲しいものは何でも、いくらでも手に入るのです。
うらやましい、でしょ?
だけど、表紙に並んだこの家族、むすーっとして、ぜんぜん幸せそうじゃないんだなあ。
わたしとしては珍しいタイプのお話かもしれません。
2年ほど前、編集のKTさんと、とりとめのない雑談をしていて(ということ自体かなり珍しい)、いろんなモノがい~っぱい描きこんである絵本って楽しいですよね、という話から、家族全員がそれぞれ何かのコレクターで、集めたモノで家がいっぱいになってしまう…という設定が浮上し、「それ面白いですよ!」ってKTさんがおっしゃるもんだから、帰りの電車でメモ帳に書きとめたのが、この話のもとになっています。
わたし自身、ビー玉とか貝殻みたいなこまごましたものを集めてためこんでしまうパックラット体質なので(パックラットという動物については、以前こちらに書きました)、コレクター心理はよくわかるのですが、問題は、集めたあと、どうするかです。
大事にしまいこんで、それっきり…では、どうにもならない。おはなしには「転」と「結」がなくちゃ。
集めたものでお店やさんを始めるとか、どこかに寄付するとか…そういう現実にありそうな話だったら、わざわざ書く必要もないし。
だいたい、モノに対する執着の強い人が、どうしたらあっさり手放す気になるかっていうと、たぶんそれは無理。絶対無理。
そうすると、やっぱりこれしかないだろう、ということで、こうなったのが、このお話。
いつものことですが、
「とけいが100こ、ぼうしが100こ、ネクタイは なんと365ほん!」
などと、文章担当はさらさらと書くだけですみますが、大変なのはそれを絵に描く人です。
アヤ井さん、原稿を読んで「うえぇぇ~っ!」と思われたに違いない。しかも、それを実際に描いていただいたのは、あの記録的猛暑の最中。本当に申し訳ありません。。。
子ども部屋の散らかりっぷりを、ちらっと。
とにかくお屋敷じゅうモノがいっぱいで息苦しいという状況が前半ずっと続くのですが、アヤ井さんはそれを非常にていねいに、美しく描いてくださっています。
それぞれのモノが、いかにもふさわしい姿かたちで、あるべきところにあり、ひとつひとつ、まるで手に取るようにして眺める楽しみがたっぷり味わえる。
「目に嬉しい絵本」になりました。
まったく、この子どもたちのかわいくないことったら(笑)
今回、アヤ井さんには、特にお願いしたことがありました。
上の絵に出ている、この家の飼い犬の「ワンダ」。この子も、じつはひそかに何かを集めてためこんでいて、それが何かということは最後のほうになってわかるんだけど、それについて文章では一切書かず、絵だけで見せるようにしたい…と。
何をどんなふうに集めるか、アヤ井さんが考えてくださって、とても楽しいことになっていますので、ぜひごらんくださいね。ワンダ、かわいい。
もうひとつ。
これは実際に手にしていただかないとわかりにくいのですが、「みしみし めりめり ばきばきばきっ!」と大きく書かれたページが右側にありまして、そのページをめくろうとすると、まさに「ばきばき」と音を立ててはがれてくるような感じが…するんですよ、ほんとに。
次の場面は、見開きいっぱい大混乱になっているのですが、それをまためくると、紙のシュッというかすかな音とともに、すべてがはるかかなたに飛び去って、あとに清浄な空気と明るい光に満ちた世界があらわれる…
そう、これこそ「絵本にしかできないこと」!
わたしが絵本をつくりたいのは、アニメーションにも電子本にもない、この「紙をめくるシュッというかすかな音」があるからなんだと思います。
なんでもモッテルさん | |
竹下文子・文 アヤ井アキコ・絵 |
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あかね書房 2019年 |