三種の神器の「八尺(やさか)の勾玉」と「鏡」は、天岩戸に隠れた天照大御神を招き出した時、榊に飾ったもの、「草薙の剣」は須佐之男命(スサノオノミコト)が八岐大蛇を退治した時、大蛇の体から出てきた剣のことです。
この神代の宝物になぞらえて、昭和30年代庶民のあこがれの家電製品3種を「三種の神器」と呼びました。
このうち2つ、チエちゃん家の「
テレビ」「
洗濯機」については既にお話しました。
残るは「冷蔵庫」のお話です。
「テレビ」と「洗濯機」は昭和30年代末に購入したのに対して、「冷蔵庫」は2・3年後の昭和41年か、42年頃だったように思います。当時はそれだけ高価だったということでしょうか。
この冷蔵庫によって、チエちゃんの夏休みの生活は一変しました。
それは何といっても「氷」です。
汲み出した冷たい井戸水といっても、氷の冷たさにはかないません。
金属製の製氷皿に水を入れ、冷凍室の中で凍ったら、仕切り板についているレバーを起すと四角い氷がバラバラと落ちてきます。
それを水で溶いた粉末ジュースの中に入れるのです。ああ~、ゴクラク、極楽。
炭酸のメロンジュースの中に入れれば、ジュワ~っと、泡が盛上がってコップからこぼれそうになる所をすするのもまた、楽しみでした。
それから、アイスキャンデーを保存しておけるということです。それまでは買ったなら、すぐに食べなければならなかったのですから、一々遠藤商店に出かけなくてもよいのです。
そして、冷蔵庫の思い出の中で欠かせないもの、コカ・コーラ。
チエちゃんが初めてコーラを飲んだのは何時だったのかしらん?
やはり、冷蔵庫がやって来てからのことでしょう。
薬臭いような何とも変な味のコーラはたちまち、チエちゃんのお気に入りになったのです。
当時、発売されていた500ml瓶のキャッチフレーズは「三杯飲んでも、まあーだ余る」でしたが、これは150mlのコップで飲んだ場合であって、何だか騙されてるなあと感じたものでした。
冷蔵庫が来てから、チエちゃん家では、それまで農家の土間作りになっていた台所に床を張り、改修したのです。ステンレス製の流し台が入り、手押しポンプが電動ポンプに変わって、蛇口をひねれば水が出てくるようになりました。
チエちゃん家も、やっとホームドラマに出てくるようなお家の台所になったなあとうれしく思ったものでした。