本作は、写真界の芥川賞と呼ばれる(らしい)木村伊兵衛写真賞を、『浅田家』という自身の家族写真集で受賞した浅田政志氏が、カメラに触れる幼少期から30歳の頃までを描いている。
全編を通して、涙が途切れることが無かった。「泣き」がほしい人には是非お薦めである。
二ノ宮和也演じる主人公は、父親からカメラを誕生日祝いでもらうことで、カメラの虜になり、専門学校に入学する。決して、優秀な学生ではなかったようだが、その学校の先生から、「あと一生に1回しかシャッターが切れないとしたら、何を撮る?」を問いかけられたところから、「家族写真」を撮り出すことになる。その写真を引っ提げて、三重から東京に出たものの、あまり稼げていない状況の中で、幼馴染の家に転がり込んで悶々としていたが、前述の賞を受賞したことで、家族写真を撮影する写真家として、全国から撮影に呼ばれることになった。一つ一つの家族に事前インタビューし、ただ単に写真を1枚撮るだけではなく、その家族の想いまで1枚の写真に込めてしまう魔力で人々を幸せにしていた。ここまでのシーンだけでも涙が止まらない。仕事で忙しくしている中で、東日本大震災が発生し、以前、撮影した東北の家族は無事なのか心配で東北を訪れた際に、被災した家から出てきた写真を水で洗って、持ち主にお返しするボランティアに出会う。そこで、出会った少女から、「家族写真を撮っているプロであれば、(亡くなった)お父さんも一緒の家族写真を撮ってほしい」と頼まれるのである。彼女の中ではまだお父さんは生きているのである。実際は、地震で亡くなっておられるので、「僕には撮れない」を断っていたのだが、あることが切っ掛けで、家族写真を撮ることに成功するのである。撮影に成功した少女の笑顔を観ながら、涙が止まらなかった。あの笑顔は本当の笑顔だったと思う。浅田政志氏が撮っていたのは、「1枚の写真」ではなく、その写真を撮った時の状況や気持ちを含めた「家族そのもの」なのである。哀しみを抱える人達ばかりの中で、折れそうになる心をお互いに支えながら、それでも生きていく。商業映画に仕上がっているが、今なお、深い傷跡が残る被災地に対する深い想いが詰まった脚本だと感じた。中野量太監督は「湯を沸かすほどの熱い愛」以来だったが、今後も観続けたい。
エンドロール最後にはほっこりする1枚の写真が出てくる。是非、劇場が明るくなるまで観ることをお勧め致します。
(kenya)
監督:中野量太
脚本:中野量太、菅野友恵
撮影:山崎裕典
出演:二ノ宮和也、妻夫木聡、平田満、風吹ジュン、黒木華、菅田将暉、北村有起哉他
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます