シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「君たちはどう生きるか」(2023年 日本映画)

2023年08月23日 | 映画の感想・批評


引退宣言を撤回しての、宮崎駿監督10年ぶりの最新作。タイトルが何とも壮大。戦前にかかれた吉野源三郎の著書から触発されての創作という。哲学者の本だけあって、この映画も簡単には評せないし、理解できたかも難しい。若い世代ではなくても、何度でも観て考えたくなる哲学的作品。

名だたる俳優たちが声を担当しているのも注目。お一人様だけ、すぐにわかって、ファンには悪いけど興ざめした。この人に「戦争のおかげで儲かる!」というセリフを言わせているのも面白いのだけど。
エンドロールで出演者の名前を見て、え、何処にいたの?まったくわからないというのも、それだけ役になり切っている、その人の顔を浮かばせない熱演だったと評したい。特にアオサギ、素晴らしかった。主人公を誘いだす老獪な声や、窮地に追い詰められて助けを求める哀れな声、これからも楽しみな役者さんである。

主人公の少年真人は空襲で入院中の母を亡くす。やがて父と地方にある母の実家に疎開をするのだが、そこには母によく似た妹のナツコが既に父の子どもを宿している。母の実家は大きなお屋敷で、沢山の使用人が控えている。庭の池にはアオサギが住んでおり、スーッと家の中にまで入ってくる。
真人はさっそくに家の周囲を探検すると古い塔に行き当たる。
翌日、地元の小学校に転校するが、都会から来た、しかも裕福な家の子ども、級友たちからははじかれてしまい、帰り道、真人は自分で大きな石で頭を殴りつけ、大けがを負う。
当然のように、父は「誰にやられた?」と学校に抗議に行き、お金で学校を黙らせてしまう。
真人は「自分がやった」とは言えないまま、学校にも行かず、静養することになる。
ある日、ナツコの姿が消えた。真人は人間の言葉を話すアオサギにそそのかされるように、「父が好きな人、ナツコ」を探すため、足を踏み入れてはならないと言われた搭に入っていく。
そこからが異世界への旅となるのだが、愛らしい「わらわら」の登場にホッとしたのもつかの間、ペリカンの集団にわらわらは食べられてしまう。少年真人はインコの王国では命を狙われ、それまでも何度も火を扱う若き日の母ヒミに助けられたり。
やがて敵対していたはずのアオサギと協力して、ナツコの救済に突き進む。ナツコの産屋に足を踏み入れた真人は、「ナツコ母さん」と呼べるくらいに気持ちの変化を起こしていく。
最後に行きついたのは母たちの大伯父、この世界の均衡を保つ存在。この大伯父に異世界の救世主としての後継ぎを依頼されるが、真人はナツコを連れ、現世へと戻る選択をする。若き日の母は、「やがてこんな素晴らしい少年を産めるなんて!」と喜び、異世界に留まる。
アオサギの「あばよ、友だち!」の言葉には涙が出た。

この作品を取り上げようと決心してから、3回目を見に行った。
1回目は公開1週目に1人で。当初は声の出演者を追いかけたが、そんなことはどうでもよい、ストーリーを追いかけるのに夢中になった。
2回目は息子と。声の出演者を見届けたく、かつストーリーをおさらいしたくて。
3回目、もっと深く考えたかったのに、意に反して後半の要所をかなり寝落ちして、本当に悔しい。「アニメは必ず寝るもんな」と、息子に大笑いされた。彼は彼で、出演者と役名がことごとく外れたことが相当悔しかったらしく、キャストが公開されたのを機に、喜んで付き合ってくれた。
視点はそれぞれに違いながらも、何度でも観たくなる、そこは宮崎マジックにかかってしまったか。

パンフレットも公開から一か月という異例の販売。宮崎監督の自筆製作メモが載っている。2016.7.1付け
「手書きでやる」と決意に満ちた文字。しかし、「小生78才生きてるかな?」の囲み。3年で制作とあるが、実際には7年を要した。
「今の、ボンヤリと漂っているような形のはっきりしない時代は終わっているのではないのか。もっと世界全体が揺らいでいるのか。戦争か大災害か、あるいは両方という可能性もある」
2023年、今この時、世界全体は戦争と感染症と地球沸騰という大災害の両方に見舞われている。悲しいかな、監督の予想は当たっている。
本作品は宮崎監督の思いがあふれている。読み取るのは難しいが、何とか受け止めたい。
「君たちはどう生きるのか」大きな問いかけをもらった気がする。

声を担当した俳優さんの名前と役の答え合わせだけでも、ひとまず楽しめた。
懐かしいジブリ作品の、これはあの背景作家さんかな、ここはあの作品のオマージュかな。
それも楽しかった。観方はいろいろあっていいのだが、これ以上、私にはレビューを書けるような代物でないことがわかったことを白状しておく。
(アロママ)

監督:宮崎駿
脚本:宮崎駿
撮影:高間賢治
出演(声):山時聡真、菅田将暉、柴咲コウ、あいみょん、木村拓哉



最新の画像もっと見る

コメントを投稿