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「ハッピーアワー」   (2015年 日本映画)

2018年11月21日 | 映画の感想・批評
 神戸で暮らす桜子、純、あかり、芙美。4人のアラフォー女性の友情と反発、危機的な夫婦関係や恋愛関係が赤裸々に描かれている。5時間17分に及ぶ長尺の作品だが、それほど長さを感じさせないのは、演劇的な会話によって生み出される不協和音が物語を引っ張っているからだ。登場人物は一様に饒舌であり、ワークショップや朗読会の後の打ち上げで自分や他人のプライバシーを暴露し、相手を鋭く攻撃する。およそ打ち上げという局面では考えられないような激しいバトルがあり、穏やかなパーティがディスカッションの場となってしまう。修羅場を見ているような緊張感を覚えながら、観客は映画の中に引きこまれていく。不協和音からドラマが動き出し、混迷が作品を推し進めていく。
 4人のうち桜子と純は中学時代からのつきあいであり、30歳以降のつきあいであるあかりは純が桜子だけに離婚調停中であるという秘密を打ち明けたことに激怒する。純は離婚裁判に負けて行方をくらますが、離婚調停中であるにも関わらず夫の子供を妊娠する。桜子の息子は同級生の女の子を妊娠させるが、夫は仕事を理由に子供の問題に対峙しようとしない。桜子は芙美にセックスレスであることを告白し、ワークショップで知り合った若い男性と性的関係をもつ。職場のストレスを抱えたあかりは恋人を求めてさまよい、芙美は夫の女性関係を非難し離婚を決意する・・・ドラマは次々と展開していくが、女性たちの言動には利己的で不可解と思えるところも多い。また女性の描き方が細やかなのに比して、男性の描き方が紋切型であるという印象は拭えない。それでもこの映画がそれなりの説得力をもっているのは、逆説的だが人間関係の矛盾が物語の原動力になっているからだ。
 この作品はドラマの展開が映像で示されるのではなく、会話の中で説明されるところに特徴がある。それでもラストに近づくにつれテンポが速くなり、映像で見せるシーンが増えてくる。長尺になった理由のひとつは、直接ストーリーとは関係のないシーン(ワークショップ、純がバスの中で会う滝好きの女性との会話、あかりと鵜飼の妹の恋愛談義、こずえの朗読会等)をコラージュのように貼り付けているからだ。ゴダールの「中国女」で哲学者のフランシス・ジャンソンとアンヌ・ヴィアゼムスキーが列車の中で行う長い議論を思い出させる。個々のエピソードは面白いが、ストーリーの流れを停滞させる原因になっているのが残念だ。
 多くの問題を抱えたまま映画は終わる。結末は描かれていないが、ある種の希望を感じさせるラストではある。4人の女性の友情は盤石ではなく、それぞれの夫婦関係や恋愛関係も危ういが、絆は保たれている。紆余曲折がありながらも関係性は断たれておらず、別離も描かれていない。おそらくこの作品は結果を求める映画ではなく、不調和というプロセスを楽しむ映画なのだろう。(KOICHI)

原題:ハッピーアワー
監督:濱口竜介
脚本:濱口竜介 野原位 高橋知由
撮影:北川喜雄
出演:田中幸恵 菊池葉月 三原麻衣子 川村りら


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