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「MOTHER マザー」(2020年 日本映画)

2020年07月15日 | 映画の感想・批評

 
まずは、映画館がコロナ対策を講じながら再開したのは素直に嬉しい。やはり、映画が映画館で観たい。私も久し振りに映画館に出向いた。ただ、まだ不安もあったので、混雑していたら遠慮しようと思っていた。蓋を開けると、幸か不幸かガラガラだった。ソーシャルディスタンスが保てた一方、封切1週間の土日の午後でこの状況かと、これからも映画が観られるのか心配になるという複雑な気持ちであった。
 長澤まさみが初の汚れ役の「MOTHER マザー」を観た。その場しのぎの生活を送るシングルマザーの秋子(長澤まさみ)と、その息子・周平(奥平大兼)と内縁の夫でホストの遼(阿部サダヲ)を中心に物語は展開する。2014年に実際に起こった殺人事件を元に製作された。
 秋子のダメ母親振りが凄まじい。全く働かない。生活保護はパチンコ代へ。ゆきずりの男を家に入れて、周平に夕食を買いに行かせる。留守番をさせて、自分は旅行へ。因みに、家の電気ガスは止められている。周平を使って、親類や周平の勤め先から借金をする。もちろん、返す気はない。遼と組んで恐喝をする等々。
 そんな生活をしていると当然行き詰ってくる。そこで、秋子が周平に最後の指示を出す。「殺してでもお金を取って来い」と。但し、劇中でははっきりと明言はしない。でも、それを忠実に実行する周平。向かった先は、祖父母の家。何も知らずに家に招き入れる祖父母。響き渡る悲鳴。その後の静寂。返り血を帯びた周平。それを見た秋子の怪訝で不満に満ちた目。
 唯一の救いだったのは、周平が殺人に手を染める前に、児童相談所の亜矢(夏帆)がこの家族に救いの手を差し伸べるシーンである。が、秋子には響かない。亜矢の行動が周平を秋子から離れようと思わせたが、それも秋子と遼によって、閉ざされてしまう。落胆の気持ちだけが大きくなる。
 そして、ラストシーン。留置所で秋子が弁護士に言う。「私の子供ですから、どう育てようが勝手」。周平が亜矢に言う。「お母さんが好き」。周平は秋子からの指示はなく、自分の意志で殺害をしたと主張し実刑が下る。手を下したのは周平なので、刑期は周平の方が長い。秋子は指示していないと主張し、刑期が短く執行猶予付き。歪んだ親子の愛情劇というだけでは足りないと感じるが、何が足りないのか分からない。また、何故、題名が『MOTHER マザー』なのか。「MOTHER」でもなく「マザー」でもないのか。各々が求める母親が違うからなのだろうか。兎に角、分からないことばかりで、共感は出来ずに、最初から最後まで後味の悪い映画だった。
 長澤まさみの怒り狂った顔は歪んでいて印象的だった。「素晴らしい汚れ役」とも云うべきか。また、息子役の奥平大兼の自然体で良かった。大物俳優に囲まれながらも、堂々としていた。監督の演出が良かったのでは。出番は少ないが夏帆も存在感があった。
(kenya)

監督:大森立嗣
脚本:大森立嗣、港岳彦
撮影:辻智彦
出演:長澤まさみ、阿部サダヲ、奥平大兼、夏帆、皆川猿時、仲野太賀、木野花他


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