シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「ファントム・スレッド」    (2017年 アメリカ映画)

2018年07月04日 | 映画の感想・批評
 1950年代のロンドン。オートクチュールの仕立て屋レイノルズ(ダニエル・デイ=ルイス)は、ある田舎町で出会ったウエイトレスのアルマ(ヴィッキー・クリープス)に一目惚れし、二人はたちまち恋に落ちる。レイノルズにとってアルマは理想の体型であり、彼女をモデルにして、創作のイメージを膨らませていく。
 レイノルズは超一流のデザイナーであるが、気むずかしく、自己中心的で、プライドが高い。自分のためだけに時間を使いたいと、初老の現在まで独身を貫いてきた。レイノルズは亡くなった母への思慕が強く、また仕事のパートナーである姉が公私にわたって干渉してくる。音に敏感で、アルマが立てるがさつな音が気になって仕方がない。アルマはレイノルズを愛しているが、彼の気持ちがよくわからない。二人だけのディナーの席を設けても、アルマの手料理に文句を言うばかりで少しもいいムードにならない。挙句の果ては罵りあいが始まってしまう始末。思い悩んだアルマは、ある日、里山で見つけた毒キノコをレイノルズの食事に混ぜるのだが・・・
 最初は田舎娘をレディに仕立て上げる「マイフェアレディ」のようにも見えた。レイノルズ家の事情が描かれていくにつれ、「レベッカ」のようなゴシック・ロマンの不気味さが感じられ、ヒロインが毒を盛るに至ってドロドロの愛憎劇の様相を呈してきた。一体どうなるのかと思いきや、事態は意外な方向へ展開していく。
 高邁な恋愛哲学や救いようのないトラウマがあるわけではない。レイノルズは亡くなった母の幻影や分身のような姉の影響下にあるとしても、けして自分を見失っているわけではない。仕事一筋で融通が利かず、恋愛の機微に疎いところがあるだけである。アルマは故意に無作法な振る舞いをして、神経質なレイノルズを挑発する。レイノルズの怒りが爆発すると、アルマはさらに過激に攻めてくる・・・まるでゲームのように繰り広げられる恋愛バトル。結局、この映画はラブコメディーではないか。ブラックなラブコメディーというか、ユーモアのないスクリューボールコメディというか、喧嘩ばかりしている二人であるが、本当は相思相愛なのである。
 レイノルズにはこれまで何人も恋人がいたが、みんな彼の自己中心主義に音を上げて去って行った。アルマだけがめげずに最後までがちんこで闘った。都会派の気むずかしい独身主義者が、田舎娘の愛の熱量に圧倒され、打ちのめされて、屈服した・・・そんなラブストーリーである。(KOICHI)

原題:Phantom Thread
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
撮影:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ダニエル・デイ=ルイス
   ヴィッキー・クリープス
  



最新の画像もっと見る

コメントを投稿