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灼熱 (2015年クロアチア・スロベニア・セルビア)

2017年09月11日 | 映画の感想・批評

 クロアチアといえば世界遺産のドゥブロブニクをはじめとする古代、中世ヨーロッパの雰囲気を残す歴史的街並み、豊かな大自然が人気で、世界中から多くの旅行者が訪れ“アドリア海の真珠”と呼ばれている。ジブリ作品の「魔女の宅急便」でもキキが箒に乗って跳び回る美しい街並みは、ドゥブロブニクが舞台といわれている。
 しかし、1989年のベルリンの壁崩壊から始まった東ヨーロッパの社会主義体制の崩壊がもたらした混乱の波が押し寄せ、1991年~95年、クロアチアではユーゴスラビアからの分離独立と、クロアチア人とセルビア人の民族対立をめぐる紛争が起きていた。昨日まで一緒に食事をしたり酒を飲んだり、歌ったり踊ったりしていた隣人同士が、民族が違うという理由で銃を向け合う事態が起きていたのだ。
 1991年クロアチア紛争前夜、セルビア人のイェレナと恋人のクロアチア人のイヴァンに訪れた悲劇。2001年紛争終結後、紛争で破壊された家に戻って来たクロアチア人のナタシャとその家を修理することになったセルビア人のアンテ。2011年平和を取り戻した現代、セルビア人のマリアのところに別れたクロアチア人のルカが会いにやってくる。3つの時代の2つの民族の1つの愛の物語を描いているが、それぞれの時代の恋人同士を、同じ俳優が演じるという斬新な表現が絶賛され、第68回カンヌ国際映画祭で「ある視点」部門審査員賞を受賞した。2001年のエピソードの導入に、大きな荷物を抱えたナタシャと母親が戻ってくる道中に映し出される家々の崩壊や壁の生々しい銃弾痕は、今の観光国クロアチアからは想像もできない。破壊と混乱の後、戸惑いながらも再生を予感させるラストに、心温かいもいのを感じた。
 多感な時期に紛争を経験したダリボル・マタニッチ監督の「争いを止め、憎しみの連鎖を断ち切るのは、人間にそなわる【愛】の力だ。」というメッセージは、いまも世界中のあちこちで起きている争いを止める力が私たちの中にはあるのだよ、絶望よりも勇気を!と呼び掛けているようだ。京都では9月9日(土)~22日(金)、京都シネマで2週間だけの上映なのが、もったいない。(久)

原題:ZVIZDAN
監督:ダリボル・マタニッチ
脚本:ダリボル・マタニッチ
撮影:マルコ・ブルダル
出演:ティハナ・ラゾヴィッチ、ゴーラン・マルコヴィッチ、ニヴェス・イヴァンコヴィッチ、ダド・チョーシッチ、スティッペ・ラドヤ、トゥルピミール・ユルキッチ、ミラ・バニャッツ


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