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「青春18×2 君へと続く道」(2024年 日本・台湾映画)

2024年05月22日 | 映画の感想・批評

 
 藤井道人監督の作品は第43回日本アカデミー賞で最優秀作品賞を含む6部門を受賞した「新聞記者」(2019年)以来、注目し心待ちにしている。今作は台湾との共同プロジェクト作品である。公開初日に日本と台湾の映画館で舞台挨拶の中継があった。藤井道人監督と主演二人を含む五人が登壇し和やかな空気に包まれて進行し、撮影現場の様子が伝わってきた。そこで「青春のイメージは何色?」との質問に、日本では青、台湾ではオレンジとの回答があり、台湾パートでオレンジ色が散見したことに納得。
 物語の始まりは18年前の台湾。大学進学を前に怪我でバスケットボール選手になる夢を断たれ、カラオケ店でアルバイトをするジミー(シュー・グァンハン)は、日本から来たバックパッカーのアミ(清原果耶)と出会う。財布を失くしカラオケ店に住み込みで働くことになった年上のアミにいつしか惹かれるジミー。一緒に映画館で「ラブレター」を観て夜市をバイクで走り抜け、ランタンを飛ばし展望台からの夜景に見蕩れる。二人の距離は近づいていくが、ある日突然アミが帰国することに。ジミーは気持ちを伝えられないまま、アミの「お互いに夢を叶えたらまた会おう」との言葉に頷くしかなかった。
 ダブル主演をつとめるシュー・グァンハンという台湾の俳優をこの作品で初めて知る。最近台湾で公開されたスタジオジブリ「君たちはどう生きるか」(2023年)のアオサギ役の吹き替え声優をつとめていると聞く。第一印象は地味だが、観ているうちに徐々に目が離せなくなってくる不思議な魅力がある。何より18歳から36歳までを演じるのは俳優にとっては挑戦だと言えるだろう。実年齢は30代前半だが、青年の初々しさと痛々しさがストレートに伝わってきた。一方の清原果耶は魅力的な俳優だ。可愛らしさも凛とした佇まいも併せ持っている。ジミーのバイクに乗って街中を走るシーンでは、ジミーの両肩に手を添えて乗っている姿がいい。恋人未満の二人の距離感を絶妙に表している。
 物語の後半、舞台は日本に移る。36歳のジミーが初恋の記憶を胸に、出会った人々の善意に包まれながらアミの実家を目指す。それは自分の生き方を見つめ直す旅でもあった。東京を起点に鎌倉→長野→新潟→福島と旅を続けるが、改めて日本の美しさに目を見張る。漆黒の松本城は圧巻だ。トンネルを抜けると一面雪景色という光景にも目を奪われる。車中で出会う18歳のバックパッカーの幸次(道枝駿佑)との雪合戦の場面では、幸次のダウンジャケットがまるで菜の花が咲いたように映える。やがて辿り着いたアミの実家でジミーは思いがけない運命を知る。
 藤井道人監督の「余命10年」(2022年)との共通点がこの作品にはある。共に女性が難病を患い長期間の闘病を余儀なくされる。一方、男性は自分の道を見つけて歩み出すという、男性の成長物語。いつか、女性の成長物語も観てみたい。
 エンドロールで流れるMr.Childrenの「記憶の旅人」の歌詞に心をつかまれ、いつまでも座席に留まっていたくなる。(春雷)

監督:藤井道人
脚本:藤井道人、林田浩川
原作:ジミー・ライ「青春18×2 日本慢車流浪記」
撮影:今村圭佑
出演:シュー・グァンハン、清原果耶、ジョセフ・チャン、道枝駿佑、黒木華、松重豊、黒木瞳


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