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「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(2016年アメリカ映画)

2017年07月01日 | 映画の感想・批評


 主演のケイシー・アフレックが今年のアカデミー賞で最優秀主演男優賞に輝いた話題作である。実兄のベン・アフレックは娯楽作品の華やかなスター俳優として活躍しているが、弟はどちらかというと内面的な、微妙なこころの綾を表現するような役どころを得意とする演技派として定評がある。
 主人公のリーはボストンのアパートの便利屋を生業とし、トイレが詰まったとか、水が止まらないというようなトラブルが起きると修理に走る。仕事は堅いのだけれど、愛想がなく、ただ黙々と作業に励み、ほとんど会話らしい会話もせずにさっさと引き上げる。だから、慇懃無礼だという苦情が多い。
 ある日、雪かきをしていると携帯電話が鳴り、故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーに暮らす実兄が急死したというので、あわてて帰郷する。病院で変わり果てた姿となった兄の遺体をいとおしそうに見つめる弟。たったふたりの男きょうだいで仲がよく、兄はまわりの連中に慕われる好人物だったらしい。離婚した兄には16歳のひとり息子がいて、遺言によると自分に何かあったときは弟のリーを息子の後見人に指名するということだった。
 しかし、後見人になると故郷に戻らなければならない。甥にボストンで暮らそうと提案するが、甥は友達やクラブ活動や父が残してくれた小型船があるので容易にはこの地を離れられないと拒む。便利屋なんて商売だったら何もボストンで暮らす必要は無い、おじさんこそこちらへ来ればいいと甥は主張する。
 リーという男にもかつてこの町に暖かい家庭があった。それが、なぜ孤独なボストン暮らしをしていて、故郷に足を踏み入れることを頑なに避けたがるのか。実はこの映画の核心がそこにある。やがて、この「なぜ」が解き明かされたときの衝撃はかなり胸にこたえる。胸をえぐられる。
 償っても償いきれない贖罪を背負って自らを罰するごとく禁欲的に生きる男が、今では数少ない血縁者の甥と新たな生活をはじめ、過去とどう向き合っていくか、戸惑うばかりだ。ときどき過去の想い出がカットバックで挿入される。
 それでも人間は生きて行かねばならない。その厳かさを教えてくれる一編である。(健)

原題:Manchester by the Sea
監督:ケネス・ロナーガン
脚本:ケネス・ロナーガン
撮影:ジョディ・リー・ライプス
出演:ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ、カイル・チャンドラー、グレッチェン・モル、ルーカス・ヘッジズ、C・J・ウィルソン


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