ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

大野病院事件 第4回公判

2007年04月28日 | 大野病院事件

コメント:

昨日、大野病院事件の第4回公判があり、手術に立ち会った看護師と病院長の証人尋問が行われました。

いろいろチェックしてみましたが、まだ、現時点(4月28日午前2時)ではネット上に詳細な記事はみつかりませんでした。例のごとく、しばらく待てば、周産期医療の崩壊をくい止める会サイトに、詳細な傍聴録が載ると思います。

追記(4月29日):

その後、全国紙の地方版、地元紙などの情報が続々とネット上に公開されました。それらの記事をざっと見た印象では、今回の公判でも、裁判の流れを大きく変えるような新事実は特にでなかったようです。

警察への異状死の届け出義務に関しては、この病院の院内マニュアルで院長が異状死を届け出ることになっていて、『異状死ではないという院長の判断によって、マニュアルに従い、県の担当者とも協議の上、異状死の届け出は行われなかった。』という事実が、院長の証言によって再確認されたようです。

また、院長の「当時は医療過誤にあたるとは思わなかった。」という当初の認識が、県の事故調査委員と話している時に、「動揺した。やってはいけないことをしたのではないかと思った。」という認識に変わったとの院長の証言もあったようです。

参考:

福島県立大野病院事件第四回公判【天漢日乗】

ロハス・メディカル ブログ
   福島県立大野病院事件第四回公判(2)
  福島県立大野病院事件第四回公判(1)
  福島県立大野病院事件第四回公判(0)

周産期医療の崩壊をくい止める会
      第四回公判について(07/4/27)
  第三回公判について(07/3/16)
  第二回公判について(07/2/24)
  第一回公判について(07/1/26)

大野事件第4回公判(産科医療のこれから)

院長が事件当日の詳細を語る「21条違反なかった」 福島県立大野病院事件、第4回公判 (OhmyNews)

大野病院事件についての自ブログ内リンク集

****** 福島中央テレビ、2007年4月27日

大野病院裁判 看護師などが証言

Hukushimachuoutv  大熊町の県立大野病院で帝王切開の手術を受けた女性が死亡した事件の裁判で、手術に立ち会った看護師と病院長の証人尋問が行われました。

 業務上過失致死などの罪に問われている県立大野病院の産婦人科医、K被告は、2004年の12月に、当時29歳の女性の帝王切開の手術をした際、生命の危険があったにも関わらず、無理に癒着した胎盤を引き剥がして死亡させたなどとされています。

 きょうの第4回の公判では証人尋問が行われ、手術に立ち会った看護師は「手術中の被害者が大量に出血し、不安があった」と語り、「手術の間、K医師にあわてた様子は見られず、冷静な状態だったと覚えている」と証言しました。

 また、大野病院の病院長は、手術直後にK被告がうなだれた口調で「やっちゃった」と話し、とても落胆した様子だったと証言しました。

 さらに、警察に「異状死」の届出をしなかったことについては「当時は、医療過誤にあたるとは思わなかった」と述べました。

 次の第5回の公判は、5月25日に開かれます。

(福島中央テレビ、2007年4月27日)

文中、K医師名を伏せさせていただきました。

以下、追記: 公判翌日(4月28日付)の報道

****** 読売新聞、2007年4月28日

大野病院事件、院長が出廷、証言

「過誤なしの認識変わった」

 大熊町の県立大野病院で2004年、帝王切開手術で女性(当時29歳)を失血死させたなどとして、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医、K被告の第4回公判が27日、福島地裁(○○○○裁判長)であり、検察側の証人として同病院の△△△△院長が出廷した。

 K被告が子宮から胎盤をはく離する処置に手術用ハサミを用いたことについて、「出血をコントロールできなくなる」と県の事故調査委員が話したのを聞き、△△院長は「過誤はない」との当初の認識を翻したと明らかにし、「動揺した。やってはいけないことをしたのではないかと思った」と述べた。

 弁護側は公判後、「麻酔記録からも胎盤はく離中は大量出血していないのは明らか。その時点で、はく離を継続するとした判断に過失はない」とした。

 一方、医師に異状死体の届け出義務を課した医師法の規定に関し、△△院長は「病院の安全管理マニュアルでは院長が警察に届け出る。医療過誤がないので届ける必要はないと考えた」と自身の判断だったことを説明した。

(読売新聞、2007年4月28日)

文中、K医師名を伏せさせていただきました。

****** 朝日新聞、2007年4月28日

大野病院事件 院長「届け出不要」

-術後の対応公判で証言 院内の手引きに従い-

 県立大野病院で04年に女性(当時29)が帝王切開手術中に死亡した事件で、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪に問われた、産科医K被告の第4回公判が27日、福島地裁(○○○○裁判長)で開かれた。同院の院長は、病院のマニュアルに従い、院長が警察に届け出る必要が無いと判断したと証言した。

 公判には、検察側の証人として、△△△△院長と、手術に立ち合った看護師が出廷した。

 △△院長の証人尋問によると、女性が亡くなった04年12月17日の午後10時半ごろから、院長ら3人が、K医師と手術に立ち合った麻酔科医の2人から事情を聴いた。K医師らは「過誤にあたる行為は無かった」と報告したという。

 このため、院長は「医療過誤による死亡の疑いがある場合、院長が警察署に届け出る」という院内マニュアルの規定にあたらず、届け出の必要が無いと判断。マニュアルに従い、県の担当者と電話で協議した上、届け出ないことを決めたという。

 医師法は、死体を検案した医師に24時間以内の警察署への異状死の届け出を義務づけており、検察側は、K医師が届け出義務に反していると主張。一方、弁護側は病院のマニュアルに基づいて院長が判断しており、K医師が届け出る期待可能性は無いとする。

 院長によると、手術3日後の20日には、院長やK医師、麻酔科医らが参加する院内検討会を開いたが、そこでも医療過誤では無いとする結論に至った。

 院長は、その後に開かれた産婦人科医3人からなる県の事故調査委員会で、委員から「器具を使用して胎盤を無理にはがしたのは問題」と指摘され、初めて「医療過誤にあたるのではないか」と認識したという。

 院長が後日、K医師に対し、「クーパー(医療用はさみ)を使うのはいけないのでは」とただしたところ、「そんなことはない。ケースバイケース。剥離した時に筋っぽいところをちょっと切っただけ」などと話していたという。

 クーパーを使用した胎盤の剥離については「安易に使用し、無理やりはがしたのは問題」とする検察側と、「妥当な医療行為」とする弁護側が対立している。

 また△△院長が手術室に入った際、女性が大量に出血していたため、K医師に応援の医師を呼ぶか尋ねたところ「大丈夫です」と断られたという。だが、輸血によって女性の血圧が回復したため、「生命の危機を脱した」と判断し、1時間後に退室した、としている。

(朝日新聞、2007年4月28日)

文中、K医師名を伏せさせていただきました。

****** 毎日新聞、2007年4月28日

大野病院医療事故:院長「医療過誤でない」判断、事故調指摘で揺らぐ--地裁 /福島

 県立大野病院で起きた帝王切開手術中の医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、K被告の第4回公判が27日、福島地裁(○○○○裁判長)であり、証人尋問が行われた。事故を医療過誤ではないと判断した同病院の院長は、県の事故調査委員会で手術の問題性を指摘された際に「やってはいけないことをやってしまったのではないかと思った」と自身の考えが揺らいだことを明らかにした。

 同病院のマニュアルでは、医療過誤やその疑いがある時は院長が富岡署に届け出ることが規定されており、医師法でも医師自身が24時間以内に警察署に届け出ることが義務づけられている。院長は事故当日の夜、加藤被告と麻酔科医に事情を聴いたが「医療過誤にあたる行為はなかった」と答えたため、警察への届け出をしなかった。

 しかし事故調では、委員を務める産科専門医から「教科書的に言うと、器具ではがしてはいけない」とクーパー使用の妥当性を否定されたという。【松本惇】

(毎日新聞、2007年4月28日)

文中、K医師名を伏せさせていただきました。

****** 福島民友、2007年4月28日

院長「過誤の認識なかった」 大野病院事件

 大熊町の県立大野病院で2004(平成16)年12月、帝王切開で出産した女性=当時(29)=が死亡した医療事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医K被告の第四回公判は27日、福島地裁(○○○○裁判長)で開かれた。検察側証人として同病院の男性院長と手術に加わった女性看護師の2人の尋問が行われた。

 院長は検察側の尋問で「当時、医療過誤の認識がなく、県の了解を得て警察に届けないことにした」と述べ、事件3日後の院内検討会でも問題を指摘する声がなかったことも明らかにし、異状死の届け出義務を定めた医師法21条に該当する認識はなかったと証言した。

 院長は大量出血が起きるまで帝王切開手術が行われていたことを知らず、知らせを受けて手術室に駆け付け、K被告にほかの医師の応援を提案したが「大丈夫です」と断られたことも証言した。

 女性看護師も手術台から血液が落ちるほどの大量出血が起きた様子を証言し、「その日の朝の術前会議でどのような事態になったら応援要請をするか明確ではなかった」と述べ、深刻な状態が起きた場合の病院内の態勢が不十分だったことを述べた。

 また、公判の冒頭で弁護側は、検察側が被告の過失を証明するため提出した文献について文献執筆者に意見照会したことを明らかにし、「クーパー(手術用はさみ)の使用は有用であり多様」などとする見解を提出した。

 次回公判は5月25日午前10時から。検察側証人で病理鑑定医が証言する。

(福島民友、2007年4月28日)

文中、K医師名を伏せさせていただきました。


大野病院事件 第3回公判

2007年03月17日 | 大野病院事件

コメント:

昨日、大野病院事件の第3回公判がありました。前回の公判に引き続いて、検察側の証人尋問があり、証人の麻酔科の先生が、「ミスと呼べるところがあったかは疑問だ」と弁護側に有利な証言をした模様です。

しばらく待てば、周産期医療の崩壊をくい止める会サイトに詳細な傍聴録が載ると思います。

参考:

福島県立大野病院事件第三回公判(1)、ロハス・メディカル・ブログ

福島県立大野病院事件第三回公判(2)、ロハス・メディカル・ブログ

OhmyNews 麻酔科医 「出血時、記憶にない」、調書揺るがす発言繰り返す

大野病院事件についての自ブログ内リンク集

****** 読売新聞、2007年3月17日

大野病院事件公判 被告の処置など証言

 大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開手術で女性(当時29歳)を失血死させたなどとして、業務上過失致死罪などに問われた産婦人科医、K被告の第3回公判が16日、福島地裁であった。

 前回に続いて検察側の証人尋問が行われ、手術に立ち会った麻酔担当医と助産師の2人がK被告が行った処置や女性の出血状況などについて証言した。

 麻酔担当医は子宮内の出血状況について、胎児を取り出すまでは「通常よりやや多いという印象」と述べ、その後出血量が増えたと証言。「水面がスーッと上がるように下からわくようだった」と説明した。

 弁護側の反対尋問では、K被告の過失の認識を問われ、「ミスと呼べるところがあったかは疑問だ」と弁護側に有利な証言をした。

(読売新聞、2007年3月17日)

****** 毎日新聞、2007年3月17日

大野病院医療事故:証人尋問で麻酔科医、刑事責任追及を疑問視--地裁公判 /福島

 ◇「明らかな過失ない」

 県立大野病院で起きた帝王切開手術中の医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、K被告の第3回公判が16日、福島地裁(○○○裁判長)であり、証人尋問が行われた。手術に立ち会い、自身も被疑者として警察の取り調べを受けた同病院の麻酔科医は「ミスと呼べるようなことがあったかは疑問」と、K被告への刑事責任追及に疑問を投げかけた。

 麻酔科医の証人尋問では、助手として立ち会った同病院の外科医も被疑者として取り調べを受けたことが明らかになり、麻酔科医は「逮捕を覚悟した」と述べた。その上で手術について「他の臓器を傷つけるなど明らかな過失はなかった」と証言した。また、術中に「わき出るような出血があった」と証言したが、胎盤剥離が原因だったか「時期については記憶があいまい」として明言しなかった。

 この日は手術に立ち会っていた助産師に対する証人尋問も行われた。助産師は、県立医大病院で行われた同様の症例の手術で大量出血があったことを術前に聞いていたため、「うちの病院(大野病院)で対応できるのか不安だった」と述べた。【松本惇】

(毎日新聞、2007年3月17日)

****** 朝日新聞、2007年3月17日

院内採取血液使わず

 大熊町の県立大野病院で04年に帝王切開手術中の女性(当時29)が死亡し、産科医K被告が業務上過失致死などの罪に問われた事件の第3回公判が16日、福島地裁(○○○裁判長)で開かれた。血液センターから輸血用の血液が届く前に、病院の職員から採血して血液を集めていたにもかかわらず、使用していなかったことが、同院の麻酔科医の証言で分かった。

 この日、検察側の証人として、手術に立ち会った同院の助産師と麻酔科医の尋問が行われた。

 麻酔科医の△△△広医師によると、女性の出血が増えたため、いわき市のいわき赤十字血液センターに輸血用の血液を発注。看護師長からは「職員から血液を集めましょうか」などと申し入れがあり、発注した血液が到着する前に、約3千ミリリットルの新鮮血が集まった。だが、△△医師の判断でこの血液は使われなかったという。

 △△医師は、その理由について「GVH病という合併症の恐れがあるので、新鮮血は使わなかった」と証言した。GVH病は、供血者のリンパ球が輸血を受けた患者の体内で増殖し、患者を攻撃することで起きる。日赤の輸血用製剤は、それを防ぐために放射線照射して供給されている。

 ただし、厚生労働省の「輸血療法の実施に関する指針」によると、血液の搬送が間に合わない緊急事態の場合、院内で採取した血液を輸血に用いることができるとされている。

(朝日新聞、2007年3月17日)

****** 福島民友、2007年3月17日

麻酔科医「過失なかった」/大野病院事件

 大熊町の県立大野病院で2004(平成16)年12月、帝王切開で出産した女性=当時(29)=が死亡した医療事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医K被告の第3回公判は16日、福島地裁(○○○裁判長)で開かれた。検察側証人の尋問が行われ、手術に加わった麻酔科医と助産師の2人が証言した。麻酔科医は「手術ミスはなかった」とし検察側証人にもかかわらず、前回証言者と同様に弁護側主張に沿う発言をする一方、助産師は手術前から不安を持っていたことを述べた。

 弁護側からの尋問に、麻酔科医は「血管やほかの臓器の損傷はなく、(被告に)過失はなかったと思う」と証言。「専門外だが、はがした方が止血できると思う。クーパー(手術用はさみ)の使用も違和感はなかった」と弁護側主張に沿う発言をした。
 一方で検察側の主尋問に対し「剥離(はくり)中、わき上がるような出血があった」と証言。死因は出血性ショックだったとし、検察側が主張する「剥離の継続の結果、大量出血させ死亡させた」に沿うような発言もあった。

 助産師は「福島医大でも前置胎盤で大量出血を招いて大変だったことを聞いていた」とした上で「産婦人科医が加藤被告一人の大野病院で手術するのは不安だった」と証言した。

 この日の公判では、胎盤の剥離による出血量と時刻に関して、検察、弁護側双方が長く尋問時間を割いたが、証人のあいまいな証言が続き、午後5時の閉廷時間が約1時間ずれ込んだ。

(福島民友、2007年3月17日)

****** 福島民報、2007年3月17日

「手術前から不安」 大野病院医療過誤で助産師証言

 福島県大熊町の県立大野病院医療過誤事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医K被告の第3回公判は16日、福島地裁(○○○裁判長)で開かれた。帝王切開手術に立ち会った女性助産師と男性麻酔科医に対する証人尋問を行った。

 女性助産師は、手術前の気持ちについて「福島医大で似たような症例があり大量出血で大変だったと聞いたので、うちの病院で対応できるか不安だった」と証言した。被害者から取り出された胎盤について「(子宮と接していた)母体面がぐちゃぐちゃで、見たことがない胎盤だった」と述べた。

 女性助産師は、帝王切開手術の経験が5回から10回程度で、前置胎盤や癒着胎盤の症例は事件まで未経験だった。

 一方、男性麻酔科医はK被告について「産科医として未熟では全くない」と評価し「(手術中に)ミスと呼べるところがあったか疑問」と、K被告が刑事裁判に問われたことに疑問を投げ掛けた。手術中の出来事に関する質問には「覚えていない」との答えが目立った。

 質問方法などをめぐり検察、弁護の双方が異議の応酬となり、公判は予定より1時間以上延びて約7時間に及んだ。

 次回は4月27日午前10時からで、手術に立ち会った別の助産師と大野病院の男性院長への証人尋問を行う。

(福島民報、2007年3月17日)

****** 河北新報、2007年3月16日

「手術ミスなかった」 大野病院事件公判 福島地裁

 福島県立大野病院(大熊町)で2004年12月、帝王切開手術中、子宮に癒着した胎盤を剥離(はくり)した判断の誤りから女性患者=当時(29)=を失血死させたとして、業務上過失致死罪などに問われた産婦人科医K被告(39)の第3回公判が16日、福島地裁であり、手術に立ち会った麻酔科医が検察側証人として出廷した。

 麻酔科医は「剥離手術中には、間違えて血管を切るなど明らかなミスはなかった。立件されるだけのミスがあったかどうかは疑問」と証言。一方で、大量出血については「剥離した面からお湯が漏れ出るような大量の出血があった」と、剥離と出血の因果関係をうかがわせる供述をした。

 捜査時の調べについては「特に警察の取り調べで細かなニュアンスを無視された。断言していないのに断言した内容になり、(供述調書は)かなり不快な表現だった」と述べた。

 起訴状によると、K被告は04年12月17日、女性の帝王切開手術で胎盤と子宮の癒着を確認して剥離を開始。継続すれば大量出血で死亡することを予見できる状況になっても子宮摘出などに回避せず、クーパー(医療用はさみ)を使った剥離を続けて女性を失血死させた。

(河北新報、2007年3月16日)


大野病院事件 検察側証人が被告に理解示す証言 (読売新聞)

2007年02月24日 | 大野病院事件

コメント(私見):

昨日(2月23日)、大野病院事件の第2回公判が福島地裁で開催されました。

最大の争点になっている、『癒着胎盤と判明した時点で、胎盤を剥離する処置を止め、ただちに子宮摘出手術に移行する義務があったかどうか?』について、『検察側証人が、弁護側の主張に沿うとも受け取れる一般的見解を述べた』とのことです。

要するに、検察側証人が、フタを開けてみたら、いつの間にか弁護側証人に早変わりしていた!ということのようです。

今回、周産期医療の崩壊をくい止める会のメンバーが公判を傍聴できて、第2回公判内容の詳細をホームページに掲載してくださいました。

次回の公判は来月16日とのことです。

参考:大野病院事件について(自ブログ内リンク集)

****** 読売新聞、福島、2007年2月24日

大野病院事件 検察側証人が被告に理解示す証言

 大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開手術で妊婦を失血死させたなどとして、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪に問われている産婦人科医、K被告(39)の第2回公判が23日、福島地裁であった。検察側の証人尋問が行われ、証人が検察側の主張と食い違う見解を示す場面があった。

 証人は、手術に先立ちK被告から相談を受けていた双葉厚生病院(双葉町)の産婦人科医と、手術で助手を務めた外科医の2人。

 最大の争点になっている、子宮に癒着した胎盤をはく離する処置をやめ、子宮摘出手術に移行する義務があったかについて、産婦人科医は「胎盤のはく離を完了すれば、子宮の収縮が期待でき、止血できるかもしれない」と弁護側の主張に沿うとも受け取れる一般的見解を述べた。この産婦人科医は、胎盤が子宮に癒着した患者の帝王切開手術で子宮の摘出手術に移行した経験があり、検察側が証人申請していた。

 胎盤のはく離に手術用ハサミを使った妥当性について、2人の証人は「切るのではなく、そぐように使うなら許容できる」などと理解を示す証言をした。福島地検は公判後、「無理にはく離して、大量出血を招いたことが問題」と反論した。

(読売新聞、福島、2007年2月24日)

文中、K医師名を伏せさせていただきました。

****** 朝日新聞、福島、2007年2月24日

大野病院事件 争点の処置「効果的」

-検察側証人 捜査時供述翻す-

 大熊町の県立大野病院で04年、帝王切開手術中に女性(当時29)が死亡し、産婦人科医K被告(39)が業務上過失致死などの罪に問われている事件で23日、第2回公判が福島地裁(大澤廣裁判長)で開かれた。争点となっている、子宮に癒着した胎盤をはがす際のクーパー(手術用ハサミ)の使用について、検察側証人の医師が、「むしろ効果的かもしれない」と、弁護側の主張を裏付けるような証言をした。

 この日の公判では、双葉町の双葉厚生病院の産婦人科医で、手術当日に被告のK医師から緊急時の応援を要請されていた○○○○・副院長が証人に立った。

 ○○副院長は捜査段階の地検の聴取に対し、「手で剥がすのに比べて、微妙な感触を確かめられない器具を使うのは危険」などと供述していた。しかしこの日、「当時はK医師がどのような方法でクーパーを使ったかという説明を受けておらず、(胎盤を)切るためにクーパーを使ったと考えていた。しかし(K医師のように)自分の目で見て、刃を閉じたクーパーで胎盤をはがすように使うのであれば適切な場合もある」「クーパーであれば、剥離(はくり)部分も視野に入るので、手で剥離するよりもむしろクーパーの方が優れているかもしれない」などとし、クーパー使用の妥当性を指摘した。

 クーパーの使用については「安易にクーパーを使用し、無理やりはがしたのは問題」とする検察側と、「すばやく剥離するための妥当な医療行為」とする弁護側が対立し、争点の一つになっている。

 ○○副院長はまた、32年間の臨床経験で癒着胎盤患者の帝王切開を実施した例などを踏まえつつ、「胎盤をはがすことで止血効果が得られることがあるので、胎盤の剥離を始めたら中止せずに完了するべきだ」などと指摘。「剥離が難しいと分かった時点で直ちに中止すべきだ」とする検察側の主張に反する主張を展開した。

 県立大野病院の外科医として手術に加わった県立医大の△△△△医師も検察側証人として立ち「癒着部分の剥離にクーパーを(こうした方法で)使うのは、外科ではよくあること」などと指摘した。

 検察側は、「あくまで胎盤を無理やりはがしたこと自体を問題としており、クーパーを使ったからいけないとは一言も言っていない」としている。

 次回の公判は来月16日。

(朝日新聞、福島、2007年2月24日)

文中、K医師名を伏せさせていただきました。

****** 毎日新聞、福島、2007年2月24日

大野病院医療事故:胎盤はく離継続は妥当 証人、尋問で指摘--福島地裁

 県立大野病院で起きた帝王切開手術中の医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、K被告(39)の第2回公判が23日、福島地裁であり、証人尋問が行われた。争点である「胎盤のはく離を中止すべきだったか」について、K被告が急変時の応援を依頼していた産科医は「はく離を始めたら完了しなければならない」とはく離継続の妥当性を指摘した。

 双葉厚生病院(双葉町)の産婦人科医は、自身が帝王切開手術中に癒着胎盤であることを認識した際、はく離を継続し、胎盤をはがし終えた後も出血が止まらなかったため、子宮を全摘出した経験を明らかにした上で、すぐに子宮全摘出に移行しなかった理由を「はく離が完了すれば子宮が収縮し、止血できると考えた」と述べた。

 また、争点の一つの手術用はさみ(クーパー)の使用の妥当性について、はがす部分が見えない手によるはく離に比べ「歯を閉じた状態で、(はがす部分を)視野に入れながらやるのであれば、優れているかもしれない」と証言した。

 一方、事故当日の手術に立ち会った県立大野病院の外科医は、子宮の全摘出に移行する際、自身と院長が計3回、大野病院の外科部長に応援を要請するか尋ねたが、K被告はいずれも「大丈夫」と断ったことを明らかにした。【松本惇】

(毎日新聞、福島、2007年2月24日)

文中、K医師名を伏せさせていただきました。

****** 河北新報、2007年2月24日

「被告の処置は適切」検察側証人の医師ら証言 大野病院事件

 福島県立大野病院(大熊町)で帝王切開手術中、子宮に癒着した胎盤を剥離(はくり)した判断の誤りから女性患者=当時(29)=を失血死させたとして、業務上過失致死罪などに問われた産婦人科医K被告(39)の第2回公判が23日、福島地裁であった。手術前、緊急事態に備えて応援を要請されていた産婦人科医と、手術に立ち会った外科医が検察側証人として出廷したが、いずれもK被告の判断や処置は適切だったとする趣旨の証言をした。

 最大の争点となっているK被告が癒着胎盤を確認した時点で胎盤剥離を続けた判断が妥当かどうかについて、産婦人科医は「胎盤の剥離を完遂すると出血が止まることがあるため、剥離を進める。自分も癒着胎盤の症例に出合った際は、重症だったが剥離を続けた」と証言。「K被告が罪に問われた手術の出血量では、血液の準備があれば剥離をする」と供述した。

 検察側が大量出血の原因とするクーパー(医療用はさみ)を使った剥離についても、産婦人科医は「クーパーの使用は危険」とした捜査段階の供述を撤回。「クーパーの刃を開いて剥離すると考えていたため危険だと言ったが、K被告のように刃を開かず、外側でそぐように剥離するならば、手を使うより安全かもしれない」と述べた。

 外科医も「外科手術で使っており、クーパーを使うリスクが高いとは思わなかった。クーパーを使った剥離によって大量出血したという感じではなかった。胎盤もスムーズにはがれた」と証言した。

 一方、K被告が事前に危険性を認識して手術に臨んだとする検察側主張について、産婦人科医はK被告から応援を頼まれたことを認めた上で「応援要請は初めてだった。癒着胎盤とも考えた」と、検察側立証に沿う証言をした。

 起訴状によると、K被告は2004年12月17日、女性の帝王切開手術で胎盤と子宮の癒着を確認して剥離を始めた。このまま続ければ大量出血で死亡することを予見できる状況になっても子宮摘出などに回避せず、クーパーを使った剥離を続けて、女性を失血死させた。

(河北新報、2007年2月23日)

文中、K医師名を伏せさせていただきました。

****** 福島民友、2007年2月24日

事実関係立証で対立 大野病院事件第2回公判

 大熊町の県立大野病院で2004(平成16)年12月、帝王切開で出産した女性=当時(29)=が死亡した医療事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医K被告(39)の第2回公判は23日、福島地裁で開かれ、証人尋問が行われて本格的な審理が始まった。

 手術当日に応援のため待機していた医師と手術の助手を務めた医師の2人は、K被告とのやりとりや手術室の当時の状況などを証言。争点のうち胎盤癒着の剥離(はくり)中止義務の有無や手術用はさみ「クーパー」の使用の妥当性を中心に検察、弁護側双方が尋問を展開した。事実関係の立証をめぐって双方の異議が飛び交うなど、たびたび尋問が中断され、対立の構図が表面化した。

(福島民友、2007年2月24日)

文中、K医師名を伏せさせていただきました。

****** 福島民報、2007年2月24日

癒着胎盤の可能性認識 大野病院公判で応援の産科医証言

 福島県大熊町の県立大野病院医療過誤事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医K被告(39)の第2回公判は23日、福島地裁で開かれた。関係者の証人尋問を行い、K被告が手術前に癒着胎盤の可能性を認識していたことを示唆する証言があった。

 証人尋問は、手術前にK被告から緊急時の応援を頼まれていた双葉厚生病院の男性産婦人科医と、手術で助手を務めた当時の大野病院の男性外科医の2人に行われた。

 産婦人科医は、K被告から依頼を受けた時、「『前回の帝王切開創部に胎盤が掛かっているかもしれない』と言われた」と証言。外科医は手術前の打ち合わせで「(K被告が)『癒着があるかもしれない』と言った。どの部位の癒着かは言わなかった」と述べ、K被告が手術前に胎盤の癒着を予見した可能性をうかがわせた。

(福島民報、2007年2月24日)

文中、K医師名を伏せさせていただきました。


あれから1年

2007年02月18日 | 大野病院事件

2.18企画(新小児科医のつぶやき) 
共通メッセージ:

我々は福島事件で逮捕された産婦人科医師の無罪を信じ支援します

コメントを寄せられる方で上記趣旨に賛同される方は「私も賛同する」と冒頭に付け加えてください。御記入はハンドルネームでもかまいません。また、医療関係者であるかどうかも問いません。賛同してくださるブログ管理人の方はブログのタイトルとアドレスも一緒に記入お願いいたします。

県立大野病院事件について

新小児科医のつぶやき
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20070207
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20070218

勤務医 開業つれづれ日記
http://ameblo.jp/med/entry-10025165057.html

健康、病気なし、医者いらず

シロのほら穴  産医師異国に向かう

元 院長の独り言  Toshikun’s Diary

五里霧中於札幌菊水  道標 Guideboard

textpot  ある町医者の診療日記

回り道をしながら理想の地域医療を目指す

A Fledgling Child Psychiatrist

なんだかな。  エレキも医療も整備しなきゃ。

今日手に入れたもの  読影室の片隅から

ほんのり科学風味な日  へなちょこ内科医の日記

カブシキ!  Follow My Heart  趣味の生活

さよなら独身貴族  にょろすけの雑記帳 

オルタナティブメディスン  ある内科医の嘆息

freeanesthe  医療事務員mycatの日記

東京日和@元勤務医の日々  百八記

Drさいぞうの日記帳  side Bの備忘録

The Man  [es] Miscellary written in tedium 

いなか小児科医  あきちゃんの雑記帳

Nobody ask me but....  駅弁医学生の戯言

ザウエリズム  サッカーと地域医療の部屋

医療報道を斬る  ステトスコープ・チェロ・電鍵

雑記帳  日々のたわごと  NATROMの日記

サイバーキッズクリニック  ポンコツ研究日記

404 not found  月の光に照らされて

三十六計不如逃  Dr.Poohの日記

お決まりの日々?  friedtomatoの日記

君の瞳に恋してる眼科  まゆりん気まま日記

天漢日乗  Dr.rijinのギモン  vvvfの雑感

産科医療を考える  斑鳩の箱庭  

漂流生活的看護記録  24Gいんさいと

a legal alien in london

与太跳ばしてりゃ世話ないやね

るなのひとりごと  Babies's Hearts

ふか&もけ  雲のように

賛同コメントのリスト【医師(医学生も含む)】

賛同コメント【医師以外】

******

非常に多くの皆様からこのプロジェクト(2.18企画:新小児科医のつぶやき)に賛同していただけて、たいへんうれしく、私にとっても大きな励みになりました。本当に有難うございました。

裁判はまだまだ始まったばかりです。裁判というものがこれからどういう手続きで進行してゆくのか?については、素人の私には、正直に言って、全く分かりません。見当もつきません。

しかし、私も、皆様とともに、精一杯、これからも加藤先生を支援し続けていきたいと思っています。

今後ともよろしくお願い申し上げます。

(管理人)


加藤先生の初公判後のインタビュー記事について

2007年02月10日 | 大野病院事件

コメント(私見):

子持ちししゃも様のコメントからの情報で、加藤先生の初公判後のインタビュー記事がネット上に掲載されてました。

気力体力とも人生で一番充実している39歳の医師が、長期間にわたり臨床の現場から離れざるを得ない状況に置かれ、本当につらい日々だと思います。これは、地域にとっても、本当に大きな損失だと思います。

思えば、私も同じ年齢の頃は、加藤先生と同様に僻地の一人医長でした。毎日毎日、外科や泌尿器科などの病院の同僚の先生方に手術の助手をお願いして緊急手術で明け暮れていました。忙しすぎて1週間以上にわたって1度も帰宅できず、自宅を守る家内から、「生きてる?」という電話がかかってきたこともありました。

今回の裁判は他人事とは思えません。

トラックバック:速報 大野病院初公判傍聴記

*** 以下、ネット上のインタビュー記事の一部抜粋

(前略)

--逮捕されたときの状況とそのときの気持ちを聞きたい。
加藤医師 インターネットなどでいろいろな情報を見ていると、診療中に逮捕されたとの記載もあったが、そうではない。逮捕されたのは土曜日で、その3~4日前に警察から病院に連絡があり、家宅捜索に入るため、朝から待機するように言われた。土曜日は外来が休みだが、急患などに備えて近隣の病院の先生に応援に来てもらうよう手配もした(編集部注:当時、福島県立大野病院の産婦人科医は、加藤医師一人)。午前中に2時間くらい家宅捜索があり、「警察署で話を聞く」と言われた。その前にも3回くらい警察署で話をしており、それと同じかなという感覚だった。(所属している)大学にも電話し、「警察に連れて来られた。逮捕されたら、どうしようか」などと冗談で言っていった。ところが警察の取調室に入ったら、突然逮捕状が読み上げられた。「これは、こうだからこうしたんですよ」などと説明もしたが、もちろん聞き入れてもらえなかった。

--今日は法廷だけに出て記者会見に出ず、そのまま帰るという選択肢もあったが、公の場に出た理由は。
加藤医師 逮捕当初は、逮捕されたという事実、その後のマスコミの報道、インターネットなども見て、遺族の思いも考えながら、私自身、かなり落ち込んだ。話をする踏ん切りが付かなかった。今回も、私は言葉に詰まるタイプであり、言いたいことを言えるのかという不安もあった。また、物事にはいろんな見方があり、変な受け取られ方をすると遺族が傷付くと思った。けれど、逮捕からほぼ1年がたち、気持ちの整理もでき、周囲の状況もやっと理解できるようになった。また私を支援してくれている医療従事者に元気でいることを伝えたかった。今日も、昼食前までは記者会見に出るとは全然思っていなかったが、記者の方から質問状を受け取り、弁護士の先生方の説得もあり、記者会見に出ることを決めた。
主任弁護人 彼は昼前までは出るつもりもなかった。ただ初公判は新聞で報道され、顔写真も出る。これを機会に自分の気持ちを話しておいた方がいいのでは、と説得した。

(中略)

--全国の産婦人科医などから支援の声が数多く寄せられているが。
加藤医師 本当にありがたく、心強く思っている。

--産婦人科医は今、志望する医師も少なく、厳しい現状が伝えられているが、そのことをどう思うか。
加藤医師 私も産婦人科医であり、いろんな現状を聞くが、今回の裁判が一因になってしまったと申し訳なく感じてもいる。

--今日の裁判の特徴として、検察側が遺族の心情が書かれた供述調書を読み上げることに時間を割いた点が挙げられる。加藤医師には非常につらい時間だったと思うが。
主任弁護人 あの調書は加藤医師にとって不利なものであるという認識はあったが、遺族の率直な気持ちであるとして証拠として採用することに同意した。同意しなければ、遺族の何人かは法廷に呼ばれ、証言することになる。それは遺族にとって二重の悲しみであり、負担、心理的な圧迫となる。われわれも非常に悩んだが、結局、これ以上は遺族に迷惑をかけたくないと思い、証拠として同意した。しかし、本件で問われているのは医療行為の過失の有無であり、検察官が朗読したことは公正とはいえないだろう。
弁護人 予期せぬ結果、死に常に向き合わなければいけないのは、医師の務めである。いつ何時、自分の患者さんを意思に反して失うか、その「まさか」に向き合わなければならず、常にそれにさらされているのが医師という職業だろう。遺族がどんなに悲しみ、どんなに憤っているか、それを私たちが受け止めなかったら、弁護はできない。

(以下、略)


緊急特集 揺れる産科医療/周産期医療の悪循環に警鐘 (Japan Medicine)

2007年02月03日 | 大野病院事件

コメント(私見):

今、周産期医療に従事する者が激減しつつあり、日本中で分娩施設が急激に減っています。医師が集中している東京や大阪などの国の中枢都市でも、分娩施設がどんどん減っています。

本来、人間の分娩は非常に危険なものであり、ほんの数百年前の江戸時代では、産科の最高権威が担当した将軍のお世継ぎの分娩であっても、その多くが母体死亡、死産となっていました。近年の産科学の進歩により、分娩が格段に安全になってきたとは言え、現代においても、人間の分娩が非常に危険なものであることには全く変わりがありません。

分娩では一定確率での不良な結果は絶対に避けられず、分娩での不良な結果のたびごとに、殺人者を厳罰に処すのと全く同じ手法で、助産師や産科医を厳罰に処していたら、すぐにこの国から助産師や産科医は消滅してしまうでしょう。

大野病院事件の教訓は、『今後、日本では、マンパワーや設備の不十分な施設では、産科は絶対にやってはいけない!』ということだと思います。これは、今、全国の産科医が肝に銘じていることです。今後の地域の産科医療が生き残っていくためには、産科施設の重点化・集約化を進めていくことが必要と感じています。

産科施設の重点化・集約化に失敗した地域では、その地域から産科施設が消滅してしまうことは避けられません。いつまでも古い慣習にしがみついていたのではただ滅亡あるのみだと思います。時代の要請に従って、地域の周産期医療システムを根本から変革してゆく必要があると私は考えています。

*** Japan Medicine、じほう、2007年1月29日

緊急特集 揺れる産科医療/
周産期医療の悪循環に警鐘

県立大野病院産科医の公判始まる

 福島県立大野病院(福島県大熊町)で、帝王切開の手術中に女性(当時29歳)が死亡した問題をめぐり、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、加藤克彦被告の公判が26日、福島地裁で始まった。医療行為の過失を問われて医師が逮捕・起訴されたことで、医療関係者も公判の行方をかたずをのんで見守っている。重要なのは「なぜ起きてしまったのか」という背景。関係者すらも「周産期医療の現場がこんなにひどい状況になっているとは知らなかった」と漏らす。公判は、今後繰り返される「産科医療の悪循環」に警鐘を鳴らしている。

現場の実情を知る者ほど悔しい

 「経過をかたずをのんで見守っている。彼も数少ない産科医の1人。身の潔白を証明して早く現場に復帰してほしい」-日本産婦人科医会の関係者は初公判のあった26日、本紙取材に対し、裁判に対する思いをこう語った。

 現場の実情を知る者ほど、悔しさをにじませる。

 産科では赤ちゃんが正常に生まれることが「当然」と期待されるだけに、事故が起きると訴訟に発展しやすい。さらに昨今の医師不足が加わったことで、労働環境そのものが過酷になり、労働面、医療事故のリスクといった点から分娩の取り扱いを中止する産科医療機関が相次いでいる。

 新たに発足した新医師研修制度で初期研修を終えた医師が2006年4月、2年ぶりに大学病院などの産婦人科に勤務することになったが、全国の大学付属病院の産婦人科に入局した医師はおよそ170人で、新研修制度が導入される2年前と比較しておよそ半減したとの報告もある。

「医療訴訟」のイメージが産科医確保の障壁に 無過失保障制度など早期対応必要

 日本産婦人科医会が研修医を対象にまとめた産婦人科をめぐる意識調査(05年12月-06年3月)によると、調査対象者約1200人中、産婦人科の専攻を希望する研修医は1割程度にとどまる実態が浮かび上がった。

 残り9割の研修医に専攻を希望しなかった理由をたずねたところ(複数回答)、「他にやりたい診療科がある」との回答が全体の9割を占めたものの、「医療訴訟が多い」が24%と2番目の理由として位置付けられており、トラブルに対するマイナスイメージの影響がこうした部分にも現れ始めていた。

 こうした見方が医師不足の一因となっている状況を、同医会も深刻に受け止めており、医療対策委員会では、「無過失保障制度などの対応が早急に必要」との認識を示している。なお、同調査で産婦人科専攻を「希望する」と答えた132人中、大学の医局入局を希望した人は53%とおよそ半数で、そのほかは大学以外の研修病院での後期研修を希望していた。

 同医会は、大学病院の研修医からの回答が少なかったためとも考えられるが、初期研修を終えて産婦人科を専攻した多くの医師が、後期研修と称して全国各地の病院へ散らばっている様子がうかがえると分析。厚労省は医師不足対策として産科の集約化を今年度中までに検討するよう都道府県に通知を出しているが、「この状況は産婦人科医師への集約化を考える上で、今後大きな問題となりそうだ」との見方を示している。

緊急特集 揺れる産科医療/
業務上過失致死と医師法違反をめぐる裁判の初公判弁護・検察の主張が初公判で対立

「できる限りのことをやった」加藤医師

 帝王切開手術中の死亡事故で業務上過失致死、医師法違反に問われた福島県立大野病院の産婦人科・加藤克彦医師の初公判が26日、福島地裁で開かれ、加藤被告は、「切迫した状況で、冷静に、できる限りのことを精いっぱいやった」と述べ、罪状を否認した。それに対し検察側は冒頭陳述で、本来選択すべきだった子宮摘出に移行せず、胎盤剥離を継続したことが失血死を招いたとするなど、両者の主張が真っ向から対立した。

 大野病院事件をめぐっては、公判前に論点を整理する公判前整理手続きにより、胎盤剥離を認識した時点で速やかに子宮摘出手術などに移行すべきだったかという点が、最大の争点になっている。

 そのほか、胎盤剥離に伴う大量出血の予見可能性、手術用ハサミ(クーパー)使用の妥当性、医師法21条による異状死の届け出義務違反に該当するかどうか?などが争われることになる。

 初公判で加藤被告は手術の経過を説明し、「胎盤剥離を継続したのは適切な処置だった」との認識を示した。

 死亡した女性には哀悼の意を示して「忸怩(じくじ)たるものがある」とした上で、「切迫した状況で、冷静に、できる限りのことを精いっぱいやった」と話した。弁護側も、「行為の継続はまさしく適切」との見解を提示した。一方で検察側は、「剥離を直ちに中止し、子宮摘出に切り替える必要があることは明らか」と主張した。

弁護側は異状死の定義が不明確と主張

 胎盤の癒着部分をクーパーで剥離したことの妥当性では、「(帝王切開のため)十分な視野を確保できており、危険性はなかった」とした加藤被告に対し、「器具を使って剥離するのは極めて危険」(検察側)とするなど、ここでも両者の主張は対立。そのほか、医師法第21条に基づき、異状死として警察に届け出るべきだったかという点をめぐり弁護側は、異状死の定義が厚生労働省や警察庁でも不明確な現状を説明。侵襲を伴う医療行為は常にリスクを伴うとして、「癒着胎盤という疾患に起因する死亡で、異状死には当たらない」と主張した。

緊急特集 揺れる産科医療/
<FOCUS 公判の争点>弁護側は医師の裁量権を主張医師法第21条は基準が不明確

 胎盤剥離を継続するか、あるいは中止するかは臨床現場の医師が、現場の状況に即して判断し、最良と信ずる処置を行うしかないのであって、事後的に生じた結果から施術の是非を判断することはできない」-。26日の初公判で弁護側は検察側の冒頭陳述に、真っ向から反論した。

 今回の争点は公判前整理手続きにより、<1>子宮と胎盤の癒着の部位と程度<2>手術中の出血の部位と程度<3>女性の死亡と手術との因果関係<4>胎盤剥離に手術用ハサミ(クーパー)を使った方法の妥当性<5>異状死の届け出をめぐる医師法第21条<6>捜査段階の供述の任意性-などに絞られている。

 初公判で弁護側はこれら争点を以下(要旨・本紙編集)のように説明した。

胎盤の剥離を継続したことの当否

 胎盤の剥離継続したのは、子宮収縮を促すことで、胎盤剥離中に生じた出血を止めることと、止血措置を行うためである。この処置は、<1>癒着の程度が軽かったこと<2>クーパーの使用は子宮と胎盤の構造からして、母体からの大量出血を招く行為でないこと<3>止血のためには胎盤の剥離が不可欠であったこと<4>医学文献等においてもクーパー等による剥離の継続は認められている-ことを挙げ、病理鑑定などの後に判明した事実やその他事情を考慮しても、極めて適切で妥当な処理であったと強調している。

医師法第21条

 第164回国会参院厚生労働委員会においても、医師法第21条の解釈指針が問題にされたとき、当時の警察庁幹部も厚生労働大臣も、異状死の範囲を示すのは難しいと答弁している。

 第21条は、通常の判断能力を有する一般の医師に対する関係で、禁止される行為とそうでない行為とを識別するための基準たり得ていない。その基準を明確化するはずの各種ガイドラインも混乱を極めており、逆に基準を不明確にしている。したがって第21条は明確性の原則に反しており、憲法第31条に違反し、違憲無効な法律である。

【Japan Medicine、株式会社じほう、2007年1月29日】


福島県立大野病院事件、冒頭陳述の要旨 (OhmyNews)

2007年02月01日 | 大野病院事件

コメント(私見)

検察側、弁護側、双方の医学的な見解の相違点は、以下の通りと考えられます。

検察側の見解:全前置胎盤で、胎盤は子宮の前壁から後壁にかけて付着し、前回帝王切開の創痕にもかかっていた。従って本症例は手術前に癒着胎盤を強く疑うべき状況であった。

弁護側の見解:全前置胎盤ではあるが、胎盤は主に子宮の後壁に付着し、そもそも前回帝王切開の創痕にはかかっていなかった。摘出子宮の病理検査でも、胎盤の癒着部位が子宮後壁であることが確認されている。従って、本症例が癒着胎盤である確率は通常の前置胎盤と同じと考えられ、手術前に癒着胎盤を強く疑う状況ではなかった。

検察側の見解:大出血は予見可能であった。

弁護側の見解:大出血の予見は困難であった。

検察側の見解:癒着胎盤と判明すれば、その時点で、ただちに子宮を摘出すべきである。クーパー(手術用ハサミ)の使用は禁忌である。

弁護側の見解:癒着胎盤であっても、状況によっては、剥離により子宮収縮を促し止血できる場合もある。今回のようなケースで、クーパーの使用がむしろ有用の場合もありうる。

検察側の見解:癒着胎盤の程度は高度で、癒着剥離は禁忌の状態であった。

弁護側の見解:癒着胎盤の程度は軽度で、癒着剥離が可能な状態であった。

検察側の見解:死因は出血性ショックであった。

弁護側の見解:子宮摘出後しばらくは血圧安定していたが、突然、心室細動となり、麻酔科医による蘇生にも反応しなかった。死因に不明な点もある。

           ◇   ◇

検察側の見解は、婦人科腫瘍学の専門家および一般病理医の意見に依存している。すなわち、検察側の見解は、周産期医学の専門家および胎盤病理・子宮病理の専門家の意見に基づいてない。

弁護側の見解は、周産期医学の専門家および胎盤病理・子宮病理の専門家の意見に基づいている。

参考:

福島県立大野病院事件・初公判の報道

県立大野病院事件、初公判の翌日の報道

第一回公判について(07/1/30)

****** OhmyNews、2007年1月28日

福島県立大野病院事件、冒頭陳述の要旨(検察側)

 26日に福島地裁で初公判が開かれた福島県立大野病院事件で、検察側が述べた冒頭陳述の要旨は以下の通り。

◇本件の概要

 2004年12月17日、福島県立大野病院で産婦人科専門医として勤務していた被告人が、帝王切開手術を行い、女児分娩後子宮内壁に癒着していた胎盤を、手術用はさみであるクーパーを使うなどして無理に剥離(はくり)し、その結果として大量出血を引き起こして失血死させたという業務上過失致死と、異常死について警察に通報しなかったという医師法違反の事案である。

◇前置胎盤および癒着胎盤について(疾患の定義、種類、原因については略)

 産婦人科医の鑑定書や、被告人の自宅から押収された専門書に示されているように、用手的剥離が困難になった時点で、癒着胎盤の判断を行う。この場合、胎盤を無理に剥離すると、癒着の程度や部位にかかわらず短時間のうちにコントロール不能な大出血にいたる可能性があるため、ただちに操作を中止し、胎盤が残った状態のままで、出血源である子宮を摘出するなどする必要がある。

 この件の被害者の胎盤は、子宮口全体を覆う全前置胎盤であり、子宮前壁から後壁にまたがって付着していた。病理学鑑定では、被害者の胎盤は絨毛(じゅうもう)が子宮筋層内まで侵入する嵌入(かんにゅう)胎盤であり、癒着部位も子宮前壁から後壁まで及んでいたことが判明した。

◇経緯

 大野病院は医師12人、看護師89人、ベッド数146床の規模で、産婦人科の診療には、被告人と外科の常勤医3人であたっていた。同病院は、高度の医療を提供できる第三次救急医療機関の指定を受けておらず、特定機能病院の基準も満たしていなかった。また、待機用の貯血はなく、輸血が必要な場合は、いわき血液センターにファクスで発注し、約1時間かけて自動車で搬送を受けることになっていた。

 被害者の女性は、前置胎盤の管理目的のため2004年11月22日、大野病院に入院した。被告人は、超音波検査の結果から、被害者の胎盤は子宮の前壁から後壁にかけて位置し、内子宮口全体を覆っており、一部は前回の帝王切開創(きずあと)にかかっていると考えていた。

 このような場合、突然の大量出血が起きる危険があるが、大野病院は大量出血した場合の輸血の確保が物理的に困難である。そのため従来、前置胎盤患者は、より設備の整った磐城共立病院に転院させるなどしてきたが、被告人は被害者の帝王切開手術を大野病院において行う旨の言動を、大野病院産婦人科職員に対しするようになった。

 同院の助産師は、大野病院での出産は不適切であると助言したが、被告人は「なんでそんなこと言うの」などと言い、この助言を聞き入れようとはしなかった。助産師が、ほかの産婦人科医の応援を要請した方がよいのではないかと申し入れたところ、被告人は問題が生じた場合には双葉厚生病院の医師に来てもらうと返答した。

 このほか、被告人は手術前に、福島県立医大産婦人科の先輩医師から、同大病院において、前置胎盤・帝王切開既往の妊婦の帝王切開時に大量出血を起こして、その処置に困難を来したことを教えられ、大学から応援を派遣してもらった方がよいのではないかと言われていたが、その場でこれを断った。

 被告人は産婦人科専門医として、帝王切開手術の既往がある前置胎盤患者で、胎盤が前回の帝王切開創にかかっている場合の癒着胎盤の確率は24パーセントであることを学んでいた。

 被告人はまた、12月6日までの各種検査から、被害者が全前置胎盤であること、前壁側に付着した胎盤が前回帝王切開創におよび、癒着胎盤を発症している可能性があることなどを診断していたが、被害者の帝王切開術は大野病院で行うことに決めた。

 その上で、癒着胎盤を前提としない前置胎盤症例で最小限準備すべき量である濃厚赤血球1000ミリリットルを用意すること、場合によっては単純子宮全摘術を行うことを決め、カルテに記載した。

 12月9日までには麻酔科医に、「手術中の出血が多くなる可能性があります。前回の帝王切開の創部に胎盤がかかっているので、胎盤が深く食い込んでいるようなら、子宮を全摘します」などと説明し、これを聞いた麻酔科医は、通常は1本のみ確保する点滴ラインを2本確保することに決めた。

 被害者と被害者の夫に対しては、12月14日に説明を行った。その際、「前置胎盤で、前回も帝王切開の場合は、前回切ったときの傷に胎盤が癒着しやすいんです」と被害者が癒着胎盤を発症している危険性があることを告げ、「出血があるときには、出血の源になる子宮を取ることになります」などといって、子宮摘出の可能性を説明し、同意を得た。

 この時点までに双葉厚生病院へは連絡していなかったが、被害者と夫には「何かあったら双葉厚生病院の先生を呼びます。もう先生には話してありますから」などと話した。

 被告人は手術当日の17日、双葉厚生病院の勤務医に電話をかけ、これから手術をする被害者について、前置胎盤であり、前回の帝王切開のきずあとに胎盤の一部がかかっている可能性があること、何か異常があれば午後3時ごろに連絡がいくかもしれないことを告げ、大量出血などが生じた場合の応援を依頼した。

 これを聞いた産婦人科医は、被告人が癒着胎盤の可能性を考慮して応援依頼をしてきたものと理解し、急変時の応援を了承した。

◇手術状況

 手術は2004年12月17日午後2時26分に始まった。腹部を切開したところ、子宮表面には血管の怒張(血流が悪くなり、はれ上がること)が認められた。被告人は超音波検査で胎盤の位置を確認し、子宮をU字型に切開した。

 午後2時37分、順調に女児が娩出された。女児は、直後は泣き方が通常より弱々しかったものの、じきに元気な産声をあげて被害者と対面した。被害者は女児の手を優しくつかんで「ちっちゃい手だね」などと言っており、この時点では被害者の意識はしっかりして、血圧なども正常の範囲であった。

 被告人は子宮切開創の止血をし、子宮収縮剤を注射した後、臍帯(さいたい)を手で引っ張って胎盤の剥離を試みたが、胎盤は剥離しなかった。胎盤に子宮が引っ張られて持ち上がってしまう状態であった。

 このため、被告人は2時38分ごろに用手的剥離を開始。左手で胎盤をひっぱりながら、右手手指を胎盤と子宮のあいだに差し入れ、指先で胎盤を押すように剥離を試みた。

 開始時は容易に右手の3本の指を差し入れることができ、容易に剥離することができたが、徐々に指を差し入れることができなくなり、力を込めなくては胎盤をはがすことができなくなった。3本指を入れることもできなくなったため、指2本にして剥離を継続。しかしそれも困難になり、やがて1本の指も入らなくなった。

 被告人はこの時点までに被害者の胎盤が子宮内壁に癒着していることを認識し、剥離を中止して子宮摘出の措置をとるべきであることを知っていた。子宮摘出の同意は得られており、摘出を回避しなければならない事情は全く存在せず、胎盤の剥離を継続すべき必要性・緊急性もなかった。

 被告人は、輸血の追加発注などもしないまま、「胎盤を手で剥離することができない場合に剥離を継続しても、大量出血しない場合もあり得るだろう」「指より細いクーパーであれば胎盤と子宮内壁のあいだに差し込むことができるだろう」などと安易に考え、2時40分ごろにはクーパーでの剥離を開始した。 この時点での総出血量は、羊水込みで約2000ミリリットルだった。

 クーパーのはさみを閉じた状態にして持った被告人は、先端部を胎盤と子宮内壁のあいだに差し入れ、閉じた状態の刃の部分で癒着箇所をそぐように剥離を行ったが、クーパーによる胎盤剥離を開始したころから、子宮の広い範囲で次々とわき出るような出血が始まった。看護師らは出血量を計量し、医師らに総出血量を口頭で報告していた。2時45分ごろには被害者の血圧は低下し始めた。

 この間、被告人は、剥離困難な部分をクーパーのはさみを開閉して切った上、そぐようにして剥離して、2時50分頃胎盤を娩出した。

 娩出された胎盤は表面が崩れた状態であり、一部分は欠損していた。その後の病理検査の結果、被害者の子宮内壁の胎盤剥離部分には肉眼でも分かる凹凸がみられる上、子宮内に胎盤の一部が残存して、断片にはちぎれたようなあとがあった。

 2時52分の出血量は2555ミリリットルだったが、その約13分後の午後3時5分過ぎごろまでの出血量は7675ミリリットルに増加していた。血圧は、2時40分時点で上100下50強であったが、2時55分には上50弱、下30弱に急落した。脈拍数はいったん下がったものの、午後3時ごろから急上昇して、出血性ショック状態に陥った。

 麻酔科医は、2時55分ごろから輸血を開始したが、使い尽くしたため3時10分ごろ、被告人からの指示を待たずに追加輸血を発注した。被告人はその後も完全に止血することができず、ようやく子宮摘出を考えたが、追加輸血がなければ摘出ができないため、血液製剤の到着を待った。午後4時10分ごろに総出血量は約1万2085ミリリットルに達した。

 この間、被告人は被害者家族への説明を行わなかった上、心配して手術室にかけつけた院長から応援要請をするかと尋ねられたが、これも断った。

 追加輸血が到着し、午後4時30分頃から単純子宮摘出術を行って子宮を摘出した。しかし午後6時5分ごろ、被害者は心室頻拍となって脈も触れない状態に陥り、麻酔科医らが蘇生措置を行ったものの蘇生しなかった。被害者は午後7時1分ごろ、クーパーを用いた胎盤剥離による剥離部分からの出血により失血死した。

 蘇生措置の途中、被告人は被害者家族に状況を説明するためいったん手術室を出たが、その際顔を合わせた院長に「やっちゃった」、助産師に対しは「最悪」などと述べた。

 被害者の死亡後、被告人は死因が癒着胎盤の剥離面からの出血に起因する出血性ショック死であったと診断した。8時45分ごろから被害者の夫らに対する説明をし、癒着胎盤であったこと、癒着胎盤をはがす際に出血が増加したことなどを説明した。

 院長には10時30分ごろに院長室で報告し、「癒着胎盤であった。胎盤を剥離するとき、最初は手で剥離できていたが、下の方に行くに従ってはがれなくなり、クーパーを使って剥離したら出血した」と説明した。

 被告は、胎盤を子宮から剥離するときにクーパーを使用する症例を聞いたことがなく、「クーパーを使用したのは不適切だったのではないか」と感じていたものの、院長にはミスはなかったと報告し、院長は専門医である被告人の「ミスはなかった」との言葉を信用して医師法に基づく警察への届け出を不要と判断した。

 福島県警は、県により設置された医療事故調査委員会が、この件は癒着した胎盤を無理にはがしたことによる出血性ショックなどによる医療ミスであったとの調査結果を公表した2005年3月31日付新聞報道を端緒に、捜査を開始した。

◇その他情状

 被害者の夫は、被告人について、被告人のことは絶対許せない、厳重な処罰を望みますとの被害者感情を述べている。

OhmyNews、2007年1月28日)

****** OhmyNews、2007年1月28日

福島県立大野病院事件、冒頭陳述の要旨(弁護側)

 26日に福島地裁で初公判が開かれた福島県立大野病院事件で、弁護側が述べた冒頭陳述の要旨は以下の通り。

◇はじめに

 本件は、赤ちゃんは帝王切開により無事に生まれたものの、術前には予期できなかった子宮後壁に胎盤が癒着するという極めてまれな疾患が一因で、患者が死亡するという痛ましい結果が生じた事件である。

 被告人は、患者に帝王切開手術歴があり、全前置胎盤であったことから、前回創痕(そうこん)に胎盤が癒着しやすいことに特に留意し、術前に何度も超音波およびカラードプラを用いて子宮前壁に癒着がないことを確認した。開腹後も子宮に直接、超音波をあてて、癒着がないことを確認している。

 その後無事に児を娩出(べんしゅつ)し、胎盤の晩出をはじめたところ、子宮後壁に予期せぬ癒着があり、出血が続いたことから、止血を急ぐために胎盤剥離(はくり)を継続したものの、剥離後の多量出血が一因となって死の転帰を見た。

 これは通常の医療行為そのものであり、薬の種類や量を間違えたり、誤って臓器や血管を切ったり、医療器具を体内に残したという明白な医療過誤事件とはまったく異質である。

 検察官は、胎盤剥離が困難となった時点で、ただちに剥離を中止し、子宮を摘出すべきであったと主張するが、継続するか、中止するかは現場の医師が、現場の状況に即して判断し、最良と信じる処置を行うしかないのであって、生じた結果から施術の是非を判断することはできない。

 そうでなければ、単なる結果責任の追及にすぎないことになる。被告人の逮捕や告訴が医療現場に混乱をもたらし、産科医の減少に拍車をかけ、医療関係者から強い非難を寄せられているのは、医師の通常の医療行為を検察官が問題にしているからに他ならない。

 検察官の請求証拠には問題が多い。胎盤癒着の部位、程度、癒着胎盤の予見可能性や剥離の是非などの専門的な行為の相当性が争点となるのに、産科ではなく、婦人科腫瘍の専門家の意見や供述に依拠している。

 検察官はまた、癒着胎盤に関する教科書に、検察官の主張に沿う記述があるとしているが、その記述が本件に適応するかについては、執筆者や編集者のだれからも意見を聞いていない。

 検察官は、被告人の過失を認めるかのような記載がある医療事故調査委員会の報告書に依拠していた可能性があるが、同報告書は、再発防止と損害賠償に配慮して作成されたものであり、被告人の刑事責任につながる過失を認めたわけではない。

 一方、弁護人の証拠は、胎盤病理の専門家の鑑定書により、癒着の部位、程度を明らかにするものである。癒着胎盤の予見可能性や、医療行為の相当性については、周産期医療の鑑定意見により、被告人の医療行為が相当であり、過失がないことを明らかにする。教科書の記述については、執筆者や編集者の意見を収集し、教科書の記述が被告人の刑責を裏付けるものではないことを明らかにする。

 検察官が専門的な医療事件について、患者のために尽力してきた被告人をかくも安易に提訴し、医療現場を混乱させたことの不当性を明らかにしたい。

 また、異常死報告義務を定める医師法21条に違反しているとされることについては、同法が違憲無効な法律であるとともに、被告人に異常死の認識がないことから、同法の適用がない。

 証拠調べ請求に対する検察官の不適当な対応についてもひとこと述べたい。検察官は、このような専門的な医療事件で、きわめて困難な疾患を持つ患者に対する施術の当否が争点となっているにもかかわらず、弁護人の提出する証拠の取り調べを不同意としている。

 さらに検察官が作成した調書のなかに、被告人に有利な部分を削除して証拠請求するという前代未聞の措置を講じている。検察官の基本的職務に反する不公正な対応として強く非難されるべきである。

◇被告人の身上経歴

 被告人は1996年5月に医師免許を取得。2006年2月に起訴されるまでのあいだ、福島県立医科大学病院、公立岩瀬病院、二本松社会保険病院、県立大野病院などで約1200例の分娩を取り扱った。そのうち200例が帝王切開術だった。2001年には産婦人科専門医の認定を受けている。

◇事実経過

 県立大野病院は病床数150床の中規模病院。産婦人科の常勤医は1人で、被告人はいわゆる一人医長であった。被告人は、同病院で勤務していた1年10カ月のあいだに約350件の分娩を扱い、このうち約60例が帝王切開術であり、そのうち50例は臨時手術だった。2004年には今回と同じ全前置胎盤患者の帝王切開手術を行い、無事に終えている。

 患者は、2004年5月当時29歳で、第2子を妊娠していたが、不正出血したことで県立大野病院を受診した。同じ5月に再びの不正出血で一度入院。10月22日には後壁付着の全前置胎盤であると診断された。

 子宮摘出の可能性がある疾患であったことから、被告人は診断時にその話をした。このとき、患者に今後の妊娠予定などを聞いたところ、患者はもう1人は子供がほしいと答えたため、被告人は、患者夫妻は基本的に子宮温存を希望していると理解し、カルテにその旨記載した。帝王切開の手術日は12月17日に決まった。

 前回帝王切開創痕に胎盤がかかっていた場合、癒着胎盤が生ずる可能性が高くなる。このため、被告人は術前の管理を十全に行っていた。もっとも、胎盤が創痕にかかっていない場合には、癒着胎盤の可能性は通常の前置胎盤と同じ程度であることから、被告人は検査を慎重に行い、その把握に努めていた。

 11月22日に患者は入院した。11月29日、12月6日、13日の3回経腹超音波断層検査を、12月6日には超音波カラードプラ法検査を実施した。このころには子宮が大きく、筋層が薄くなっていたため、前回創痕を画像で確認することはできなかった。しかし、胎盤は子宮後壁、子宮口付近、子宮前壁の低い位置にあり、前回創痕があると推測される場所に付着している状態ではなかった。

 それらの検査結果から、胎盤が前回創痕にかかっている可能性はなく、癒着胎盤はないと判断した。MRI検査は、超音波検査で子宮前壁への癒着がないと判断したため行わず、準備輸血量は、前置胎盤の症例についての文献を参考に、濃厚赤血球5単位(1000ミリリットル)とした。

 手術については、癒着胎盤ではないと判断していたし、輸血用血液も1時間で到着することから、同病院で手術をすることにした。念のために、双葉厚生病院の加藤謙一医師に、術中何かあったら手伝ってもらうことにして、12月17日に電話で依頼し、どうしてもというときは呼んでくれという返答をもらった。

 12月14日に、麻酔科の医師と、患者の症状、胎盤娩出後、止血困難であれば子宮摘出術に移行する予定であることを打ち合わせた。患者夫妻への術前の説明は、12月14日午後7時から行った。病状、病中何かあったら応援医師の依頼予定であること、子宮摘出の可能性があることなどを説明し、手術同意書、輸血同意書に署名をもらった。

 このように、被告人の手術の準備は万全と評価できるものである。前回帝王切開創痕および子宮前壁には被告人の診断通り癒着胎盤はなかった。このことは後日の鑑定によっても裏付けられている。

 12月17日の手術は、医師3人、助産師2人、看護師4人の体制で行われた。のちに看護師3人が加入し、12人体制となった。午後2時26分に開腹。子宮表面の色は通常通りピンク色だった。超音波検査装置のプローベを子宮筋層に直接あて、胎盤実質の位置を確認し、胎盤のない子宮の右下方をU字型に切開した。

 検察官は、被告人は胎盤が前回創痕にかかっていたことを認識していたと主張するが、そもそも当該部分に胎盤はかかっていなかった。

 午後2時37分、胎児を娩出。子宮収縮剤を投与し、子宮のマッサージを始めたところ、胎盤が剥離するような傾向があり臍帯(さいたい)を引いてみたが胎盤は剥離しなかった。しかし、剥離しにくいことは帝王切開分娩ではよくあるため、子宮収縮不良により胎盤が剥離しないのだと考え、右手を子宮後壁上部に差し入れ、用手剥離を開始した。この時点の出血量は羊水込みで2000ミリリットル前後であった。

 しかし、半分程度剥離したと思われるころから、胎盤が子宮からはがれにくくなったのを感じた。このあいだは通常の出血量であったが、胎盤剥離面からにじみ出るような出血が継続していたため、胎盤剥離を終え、子宮収縮を促すことで出血を止めようと考え、早く胎盤を剥離するために、先端が丸い曲がりクーパーを用いた作業に切り替えた。

 子宮後壁下方を剥離すると、残りの子宮前壁部分はするりとはがれた。胎盤娩出が完了してから2~3分経過した午後2時52分ごろの出血量は2555ミリリットルだった。

 胎盤病理の専門家による病理鑑定の結果では、癒着の程度はもっとも深い部分でも子宮筋層の5分の1程度の深さで、この程度の癒着であれば剥離を行うことがより適切だった。また、子宮と胎盤の構造からして、クーパーの使用は母体からの大出血を招く行為ではない。

 逆に、胎盤を出さなければ子宮収縮が進まず、母体が危険になる。この場合のクーパー使用は、むしろ素早く胎盤を取り出し、その後の止血措置をやりやすくすることで有用といえる。

 午後2時50分、胎盤を娩出。子宮が収縮しにくいだらりとした状態であったため、収縮剤を再投与したが、出血は収まらなかった。午後4時30分、輸血用血液の到着を待って、子宮摘出手術を開始し、1時間後に子宮摘出を終えた。午後6時5分ごろには血圧が安定し、被告人は安心して手術終了の準備をしていたところ、突然、患者に心室細動が起こった。約1時間蘇生を継続したが、午後7時01分患者は永眠した。

◇医師法21条

 同法は、医師に異常死届け出義務を課しているが、文言上「異常」としているだけで、解釈の手がかりがない。各種ガイドラインの解釈もバラバラで、同法は明確性の原則に反しており、憲法31条違反で違憲無効な法律である。

 また、安易な合憲限定解釈も避けるべきである。医師にあらゆる患者の死亡を届けさせることになれば、医療行為に対する委縮効果になる。マニュアルに従えば通常は事故の起こりえない航空機や自動車の運転とは異なり、医療行為には「こうすれば必ず死なない」というマニュアルはない。常にリスクと隣り合わせであり、あえて治療を行った医師の届け出の範囲は無限に広がりうる。

 さらに、21条は医師に犯罪事実の自己申告を強制するもので、黙秘権を保障した憲法38条に反する。

 当該事件では、被告人は7時30分ごろ、患者は出血性ショックによって死亡したと判断している。さらに10時30分頃、麻酔科医とともに院長室で患者が亡くなったことを報告し、院長から過誤はなかったのかと聞かれ、過誤はなかったと答えると、院長は異常死の届け出はしないでいいという判断を述べている。

 仮に同法が合憲だとしても、被告人には過失がなく、患者の死亡も癒着胎盤という疾患に起因する死亡であるから異常死にあたらない。異常死との認識はないから同法違反は成立しない。厚生労働省の指針は、医療過誤でない場合、届け出は行わないとしており、被告人に届け出を期待することはできない。

 医療行為は、本質的に身体への侵襲(外科手術で人体を切開したり、薬の投与をしたりすることで身体に変化を与える行為)であり、一定の確率で予期せぬ結果を避けられないものである。

 そのような業務に従事する者の、しかも高度に専門的な判断に過失があるかないかを判断するときは、検察官、裁判所、弁護人も正しい基礎的な医学知識とさまざまな医療技術を学び、その上で被告人が行った行為を法的にどう評価すべきか吟味・検討しなければならない。

 本件で、そのような吟味・検討が十分なされたかは疑問であり、全国の医師会や学会、医会からは危惧があがっている。

 社会的背景を無視して、刑事裁判は成り立たない。問題にすべきは、患者の死の結果だけではなく、その死をどう見るのか、関与した医療従事者たちの行為と努力をどう見るかである。

 刑事司法が、医療事件を予見可能性だけで論ずるとすれば、医療従事者は医療行為を常に刑事訴追と一体に考えざるを得ない。それは、地域医療の現場から立ち去っている日本の医療の崩壊につながり、国民にとっての損失となる。

OhmyNews、2007年1月28日)


第一回公判について(07/1/30)

2007年01月31日 | 大野病院事件

福島県立大野病院事件・初公判の報道

県立大野病院事件、初公判の翌日の報道

*** 周産期医療の崩壊をくい止める会より引用

県立大野病院事件 第一回公判内容 
(2007/1/30更新)

文責 佐藤 章

 平成19年1月26日(金)、福島地方裁判所第一法廷において、県立大野病院事件の第1回公判が開催されました。

 当日、傍聴者が多数集まることが予想され、9時15分まで所定の場所に集合した傍聴希望者に対し抽選(26名傍聴)を行うこととなりました。この事件の関心度の高いことから、349名が集まり、倍率は13.4倍となりました。我々もこれを予想して、22名並びましたが、残念ながら抽選にはずれ、私は傍聴できませんでした。従って、以下は弁護士の先生方ならびに傍聴した人達の話から公判内容を記載いたします。

第1回公判 平成19年1月26日(金)午前10時開廷

1.人定質問

 裁判官が被告人(加藤医師)に対し、生年月日、本籍、現住所、職業を尋ね、これに答えた。

2.検察側から起訴状の朗読

 起訴の内容は、①業務上過失致死、②医師法違反(異状死体の届出義務違反)でありますが、主旨は「癒着胎盤と診断した時点で胎盤を子宮から剥離することを中止して、子宮摘出すべきであったのに、クーパーを使用して漫然と胎盤を剥離したため、大量出血となり患者が失血死した。また、胎盤を無理に剥離すると大量出血する可能性があることを認識していたのに、その行為を行ったのは業務上過失である」「また、異状死であるにもかかわらず病院長に異状死でないと報告し、自分でも警察に届出をしなかった」ということです。

3.次に裁判長による黙秘権の通知

 裁判長が被告人に「自分の意思に反して供述をする必要がない場合、黙秘権があること」「法廷で供述したことは全て証拠とされるので、そのことを良く認識して供述する」旨が告げられた。

4.被告人の罪状認否

 次に加藤医師は大野病院において平成16年12月17日午後2時26分ころから、執刀医として帝王切開手術をした事実。右手指を胎盤と子宮の間に差し入れた。胎盤を用手剥離しようとしたこと、胎盤の剥離をはじめ、途中で胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行しなかったこと、午後7時1分ころ、患者さんが死亡したこと。また、患者さんの死体を診断したこと、24時間以内に所轄警察署に届出をしなかった事実を認めたが、それ以外はすべて否認した。

5.弁護人認否

 次いで弁護団は、公訴事実第1の予見義務、検察官の設定する注意義務について、因果関係(死亡原因が失血死であると考えられていたが、事件後手術経過を分析・調査した結果、本件の死亡原因は、たとえば羊水塞栓症などである可能性があること)は、被告人の行為と死亡との間にない可能性があること、公訴事実第2については、医師法21条は「異状」の範囲が曖昧かつ不明確であり、罪刑法定主義および明確性の原則を保障する憲法31条に反し違憲であること、「異状」死にあたらないことを述べ、不幸にしてお亡くなりになった患者さんのご冥福を心よりお祈り申し上げ、この法廷で本件の真相が究明されることを願い、結語として、被告人は公訴事実第1および第2とも無罪であることを主張しました。

6.検察側の冒頭陳述

 モニター大画面を使用して、学会の発表のようにプレゼンテーションを行った。内容は、被告人および被害者の身上、前置胎盤と癒着胎盤の説明、とくに癒着胎盤は大量出血の危険性が高く、母体死亡の可能性があること、帝王切開既往があり子宮前壁に付着する前置胎盤は約24%の高率で癒着胎盤があること(本件は前壁にも胎盤があったが、そこは癒着胎盤はなく、後壁の一部が癒着胎盤であった)、癒着胎盤は用手的に剥離できないと診断された時は無理に剥離した場合には大出血の可能性があるので子宮を摘出する必要があることを強調、次いで、本件の手術前から患者さんの死亡までの経過を述べ、とくに胎盤剥離の際、指で剥離していったところ途中で指が入らない部分があり、その時点で子宮摘出にすべきところ、クーパー(これを画面に提示)を使って剥離し、そのため、大出血になったと説明した。また、大出血を起こしていた最中に、院長が双葉厚生病院の産婦人科や大野病院の他の外科医の応援を打診したものの、被告人がこれを断ったことも陳述した。

7.弁護側冒頭陳述

 次いで、弁護側の冒頭陳述に移った。弁護団6人が、各々の部分で冒頭陳述を行った。内容は、被告人の身上経歴、事実経過(本件患者について、術中経過など)、医師法21条、本件刑事裁判が問いかけるものについて、陳述を行った。

 この陳述中、弁護人の提出する教科書や専門家の鑑定書等本件事案の解明に不可欠な証拠の取調べについて、不同意としている点、更に検察官自ら作成した検察官調書記載の中に、被告人に有利な記載内容があることから、この部分を削除して証拠請求するという、証拠調べ請求に対する検察官の不適当な対応を指摘し、「前代未聞の措置を講じている」と発言したのに対し、検察側がこれに強く反論し、裁判官との話し合いの結果「前代未聞・・・」の発言を削除し、陳述がつづけられた。また問題の胎盤の剥離について、被告人が胎盤の剥離を継続したのは、子宮収縮を促すことで、胎盤剥離中に生じた出血を止めることと、止血措置を行うためであったこと、この処置は病理鑑定などの後に判明した事実で、癒着の程度が軽かったこと、クーパーの使用は子宮と胎盤の構造からして、母体からの大出血を招く行為ではないこと、止血のためには胎盤の剥離が不可欠であったこと、医学文献等においてもクーパー等による剥離の継続は認められることから、極めて適切な処置を行ったと主張した。

 医師法第21条違反については、前述した如く、憲法第31条違反による医師法第21条の違憲無効を主張し、さらに医師法第21条に関する被告人の行為について、患者さんが亡くなった後出血性ショックによる死亡と判断し、その後院長室において麻酔医と共に院長に対し、子宮収縮による止血を図るために胎盤を剥離したが出血が止まらず失血性ショックにより死亡したこと、できるだけのことは精一杯やったが結果として本件患者さんが亡くなったことを報告し、院長から過誤はなかったのかと聞かれ被告人及び麻酔医は過誤がなかったと応えると、院長は医師法第21条の届出はしないでいいという判断を述べたこと、なお、県立大野病院には病院内のマニュアルがあり、そこでは医療過誤があった場合に届出をすべきこと、届出は検案した医師ではなく院長が届出をすることが規定されていることも述べた。

 次いで、「本件刑事裁判が問いかけるもの」のところで、弁護側は胎盤病理と子宮病理を専門としない病理医の鑑定、本件の医学鑑定を行った医師は、周産期の専門家(医)ではなく、腫瘍の分野の第一人者であるが、周産期医療の分野における判断には疑問があること、自然科学の分野の高度に専門的な判断に過失があるかないか判断するとき、その分野の専門家でない検察官も裁判所も、もちろんわれわれ弁護人も、正しい基礎的な医学知識を臨床現場での様々な医療技術を謙虚かつ真摯に学び、その上で被告人の行った医療行為を法的にどのように評価すべきか、吟味・検討しなければならず、これは司法に対する国民の要請でもあると陳述した。この頃検察側より「異議あり」の発言があり、「弁護人の陳述は本件と全く関係ない事柄で陳述の停止をもとめる」と発言し、弁護団と検察側と裁判官とのやり取りがあったが、以後の陳述が許可され、全国各地の医師会、産科婦人科学会、産婦人科医会からの本件に対する様々な疑問、抗議の声があること、本件による地域医療の影響についても陳述し、この裁判を通じて少しでも不幸な医療事故を起こさないために役立つものでなければならないこと、1人の医師を犯罪者として糾弾しただけで終わらせないこと、そのため専門領域にしている数多の専門医や関係者の知見を通して本件事件に向き合うことが、この裁判の責務であることを述べ、そのため弁護人は被告人の無罪を立証するとして陳述を終えた。

 以上の如く、第1回の公判の午前の部は、12時終了予定のところ、午後1時ちょっと前に終了し、午後の部は午後2時からとなった。

午後の部

8.午後2時から午後3時40分までの公判内容

 午後2時から午後3時40分までの間は、検察官が取調請求し、弁護人が取調に同意した書証および物証についてこれを取調べる手続が行われました。書証については、その要旨の説明・朗読が行われ、物証については、その展示が行われました。今回取り調べられた主な書証は、医学文献、関係者の供述調書、患者遺族の供述調書等です。また、物証は入院カルテ、手術の際に使用されたクーパー等でした。

 午後3時40分で第1回公判は終了し、傍聴人は退席し、非公開で「期日間整理手続き」を行いました。これは後述しますが、公判前に、「公判前整理」ということで過去6回行われましたが、最終的に結論がでず、引き続き話し合いが行われたということです。公判が始まったので、「公判前整理」という言葉ではなく「期日間整理」というのだそうです。これが午後4時40分頃までありました。

9.期日間整理(非公開、争点と証拠の整理をする手続)

①前回期日に検察官が取調請求をした証拠について、弁護人が同意・不同意の意見を述べました。検察官が自らの不利な部分のみをマスキングして提出した検察官調書について、弁護人がこれを検察官の真実義務に反するとして強く弾劾したところ、裁判官も検察官に対し、証拠の提出方法について再考を促しました。

②検察官の新たな医学文献の証拠調べ請求

 検察官から今回新たに医学文献の提出がありました。弁護人は検察官が弁護人の提出した医学文献に同意しない以上、弁護人も今回検察官が提出の証拠に同意できないとしました。

③弁護人は弁護側の証人を申請しようとしましたが、検察官が書証の大部分を不同意としたため、人証申請が必要な範囲が定まらず、次回期日に見送りせざるを得ませんでした。

④次回期日において、二人の医師(福島県立大野病院近くの双葉厚生病院産婦人科医、当日手術を手伝った外科医)の取調べを行うことを確認しました。検察官が申請した証人ですが、検察官は自ら証人を同行させるのではなく、裁判所から呼出をしてほしいとしました。

(注)期日間整理手続きとは、

刑事訴訟法316条の28第1項

 裁判所は、審理の経過にかんがみ必要と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴いて、第一回公判期日後に、決定で、事件の争点及び証拠を整理するための公判準備として、事件を期日間整理手続に付することができる。

10.閉廷後の記者会見

 閉廷後、弁護団は福島地方裁判所の近くの市民会館において記者会見を行いました。今回は加藤医師も参加し記者会見を行いました。当然の如く、質問は、加藤医師に対する質問が殆どでありました。加藤医師は公判の冒頭のところで、「患者さんを亡くし、残念で忸怩たる思いです。亡くなられた患者さんのご冥福をお祈りします。どうかご理解ください」と話したことと同様なことを記者会見でも述べ、「ミスをしたという認識はなく、正しい医療行為をしたと思っていること、切迫した状況で精一杯やった」と述べた。また、全国から寄せられた支援に対し、心強く思っており感謝している旨の発言もあった。一方、福島地検側は公判終了後、新聞報道であるが次のように発表した。

「我々としても医療関係者が日夜困難な症例に取り組まれていることは十分認識している。しかし、今回の事件は、医師に課せられた最低限の注意義務を怠ったもので、被告(原文ママ)の刑事責任を問わねばならないと判断した」とする異例のコメントを発表した(新聞報道)。

 以上が、1月26日(金)の第1回公判と記者会見の様子を記載しましたが、個人的な意見ですが、検察側は、我々弁護団が提出した、一般的教科書や論文を証拠として提出しても殆ど不同意としていること(今後これが重要なポイントとなる)、公判後発表したコメントの中に、「今回の事件は医師に課せられた最低限の注意義務を怠った」としているが、癒着胎盤という稀な疾患で、予見することが非常に困難な疾患であることを考慮に入れていない、医学的知識不足の発言、また、公判の起訴状朗読の際、「臍帯」(サイタイ、と通常いう、セイタイでも誤りではないが)を、堂々と「ジンタイ」と読んで弁護団より注意されたことも考慮にいれると、検察側はもっと医学的に勉強していただきたいと強く思った次第でありました。

 患者さん側も、この裁判で、患者さんの死の真相を明らかにしてくれといっているのですので、我々も同様であり、医学的に解明してもらうためにも、教科書、参考書、論文等の証拠の提出を検察側には同意してもらいたいと思うと同時に、裁判官も医学的にこの事件について追究して判断してもらいたいと強く思いました。

(以上、周産期医療の崩壊をくい止める会より引用)


加藤先生の初公判後のインタビュー記事

2007年01月29日 | 大野病院事件

コメント(私見):

子持ちししゃも様のコメントからの情報で、加藤先生のインタービュー記事がネット上に掲載されてました。

気力体力とも人生で一番充実している39歳の医師が、長期間にわたり臨床の現場から離れざるを得ない状況に置かれ、本当につらい日々だと思います。これは、地域にとっても、本当に大きな損失だと思います。

思えば、私も同じ年齢の頃は、加藤先生と同様に僻地の一人医長でした。毎日毎日、外科や泌尿器科などの病院の同僚の先生方に手術の助手をお願いして緊急手術で明け暮れていました。忙しすぎて1週間以上にわたって1度も帰宅できず、自宅を守る家内から、「生きてる?」という電話がかかってきたこともありました。今回の裁判は他人事とは思えません。

******

トラックバック:速報 大野病院初公判傍聴記 (紫色の顔の友達を助けたい)


福島県立大野病院の医師逮捕は不当

2007年01月26日 | 大野病院事件

コメント(私見):

佐藤教授が日経メディカルオンラインに寄稿された文章に、今まで私がずっと疑問に思っていたことが非常に詳しく記載されていましたので、ここに引用させていただきます。特に、

①子宮後壁の癒着胎盤であったことが、福島県立医大の病理検査で確認されている。

②県の医療事故調査委員会の報告書は県の意向に沿って作成されたもので、佐藤教授が県に訂正を求めたが、「こう書かないと賠償金は出ない」との理由で却下された。

の2点は非常に重要だと思います。

子宮後壁の癒着胎盤とのことですから、帝王切開の既往とも関係ありませんし、癒着胎盤と手術前に診断することも予測することも不可能だったと考えられます。

私自身も県の事故報告書を最初に読んだ時に、「こう書かないと賠償金が出ない」という県の強い意向に沿った形で作成されたものではないのか?との疑念を抱きましたが、今回そのことがはっきりしました。

そもそも、正当な医療行為に対して、医療過誤があったということにして賠償金を出そうという考え方が根本的におかしいし、そのために一人の医師の人生がめちゃくちゃにされ、日本の産科医療を崩壊の方向に加速させているこの事件の意味するところは非常に重大です。この裁判の行方を注視してゆく必要があります。

参考:県立大野病院・事故報告書

県立大野病院事件についての自ブログ内リンク集


公判概略について(06/12/19)

2007年01月08日 | 大野病院事件

周産期医療の崩壊をくい止める会のホームページより

公判概略について(06/12/19)

12月14日(金)に開催されました、公判前整理(6回目)の報告

 公判前整理は今回で終了する予定でしたが、決着はつかず、公判が始まってからも継続することとなりました。

第6回 公判前整理のご報告

 平成18年12月14日(金)、午後1時から午後4時半頃まで、第6回公判前整理が福島地方裁判所で開催されました。弁護団は平岩敬一弁護団長をはじめ7名で話し合いにのぞみました。今回で公判前整理は終了し、1月26日より公判が行われる予定でしたが、弁護団側から提出した証拠134点の殆どに対し検察側が不同意を示したため、裁判所の方から検察側に再考するようにとの指示があり、公判が始まった後でも、裁判官、検察官、弁護団との話し合いを継続することとなりました。しかし、1月26日(金)に第1回目の公判が予定通り開催されることとなり、今回の話し合いで2月以降毎月1回公判が開催されることとなりました。

 公判開催日は以下の如く決定いたしました。

第1回 1月26日(金)

第2回 2月23日(金)

第3回 3月16日(金)

第4回 4月27日(金)

第5回 5月25日(金)

(毎回 午前10時から午後5時までの予定、場所は福島地方裁判所)

また、今回、公判の争点として以下の如き点が挙がりました。

1.癒着胎盤の部位と程度

2.出血の部位・程度とその予見性

3.死亡したこととの因果関係

4.胎盤を剥離したことの妥当性、つまり、クーパー使用の妥当性

5.医師法21条違反の正否

などと決定しました。

 1月26日(金)の第1回目の公判は冒頭陳述、2回目以降から検察が申請した証人8名の尋問が行われることになりました。8名の証人とは、県立大野病院のすぐ近くの双葉厚生病院の産婦人科医、手術に一緒に参加した外科医、病院長、手術室にいた看護師、助産師、摘出した子宮の病理を担当した病理の医師、今回の事件について鑑定した医師の8名で、1回の公判で2名ずつ、証人尋問に立つ予定と決定いたしました。しかし、これで裁判は終了することはなく、その後、弁護団からの証人尋問もあり、裁判は当初、考えていた期間より長くなる見込みとなりました(一年位はかかると思われます)。

 次回は、第1回公判の結果についてご報告する予定です。  以上

平成18年12月19日

(文責 佐藤 章)

****** 参考:

県立大野病院事件 公判前整理手続き終了

日本医学会、声明文

公判概略について(06/7/28)

公判概略について(06/9/23)

公判概略について(06/10/19)

県立大野病院事件についての自ブログ内リンク集


日本医学会、声明文

2006年12月08日 | 大野病院事件

****** 日本医学会ホームページより転載
http://www.med.or.jp/jams/

                    平成18年12月6日

          声明文

                      日本医学会長
                        高久 史麿

 本年2月,大野病院産婦人科医師が業務上過失致死と医師法第21条違反で逮捕されたことにつきまして,すでに多くの関連団体・学会から声明文・抗議文が提出されたことはご存じの方が多いと思います.

 事例は前置胎盤と術中に判明した予測困難な癒着胎盤が重なった事例であったと報告されています.この事例は担当医が懸命な努力をしたにもかかわらず医師不足や輸血用血液確保の困難性と地域における医療体制の不備が不幸な結果をもたらした不可抗力的事例であり,日本における医療の歪みの現れといわざるを得ません.地方や僻地では一人の医師が24時間365日体制で過酷な労働条件の中で日本の医療を支えています.過酷な医療環境の中で地域の医療に満身の努力をされ,患者側からも信望の厚かったといわれる医師が,このような不可抗力的事故で業務上過失致死として逮捕されたことは誠に遺憾であります.むしろ過酷な環境を放置し,体制整備に努力しなかった行政当局こそ,その非を問わなければならないでしょう.不可抗力ともいえる本事例で結果責任だけをもって犯罪行為として医療に介入することは決して好ましいと思いません.

 本事例は業務上過失致死のみならず医師法第21条違反にも問われております.この第21条は明治時代の医師法をほぼそのまま踏襲しており,犯罪の発見と公安の維持が目的であったといわれています.異状死の定義については平成6年の日本法医学会の異状死ガイドライン発表以来数多くの学会で論争が続いている問題であります.日本法医学会の「過失の有無に係わらず異状死として警察に届け出る」については,昨年9月にスタートした厚生労働省の医師法第21条の改正も視野に入れた「医療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」を含め,本件逮捕以降,政府・厚生労働省・日本医師会・各学会等関連団体で検討に入ったばかりであり,異状死の定義も定かでなくコンセンサスの得られていない医師法第21条を根拠に逮捕することは,その妥当性に問題があるといわざるを得ません.過失の有無にかかわらず届け出なければ届出義務違反で逮捕される.届け出たら重大な医療過誤が疑われ,業務上過失致死罪に問われる.医師は八方塞がりであります.純然たる過失のない不可抗力であっても,たまたま重篤な合併症や死亡事例に遭遇したことで逮捕されるようでは必要な医療を提供できず,大きな国家的・国民的喪失となります.消極的・防御的医療にならざるを得ず,このような逮捕は萎縮医療を促進させ,医療の平等性・公平性のみならず医療・医学の発展そのものを阻害します.若い医師は事故の多い診療科の医師になることを敬遠しており,ますます医師は偏在することになります.

 日本医学会は異状死の問題に関する委員会でこの問題を検討しますが,今回,大野病院産婦人科医師の公判が近々に始まることを契機として以下の学会から同様の要望が出ていますので,これらの要望をまとめる形で日本医学会から声明を発します.

                             記

日本整形外科学会
日本周産期・新生児医学会
日本消化器外科学会
日本超音波医学会
日本小児神経学会

****** 日本医学会ホームページより転載

県立大野病院事件についての自ブログ内リンク集

****** 読売新聞、2006年12月7日

逮捕は医療委縮させる、帝王切開死で医学会声明

 福島県立大野病院(福島県大熊町)の産婦人科医(39)が帝王切開手術で女性(当時29歳)を失血死させたとして、業務上過失致死罪などで起訴された事件を巡り、日本医学会(高久史麿会長)は6日、「医師不足や地域医療体制の不備がもたらした不可抗力的事例で、結果責任だけで犯罪行為とするのは好ましくない」との声明を発表した。

 声明文では、「たまたま重い合併症や死亡事例に遭っただけで逮捕されるのでは、必要な医療は提供できない」として、「逮捕は医療を委縮させる。事故の多い診療科が敬遠され、医師が偏在化する」と訴えている。

(読売新聞、2006年12月7日)

****** 共同通信、2006年12月7日

「不可抗力的事故」と声明 福島の医療事故で医学会

 福島県立大野病院で帝王切開を受けた女性が死亡し、執刀医が業務上過失致死と医師法違反の罪で起訴された医療事故で、日本医学会(高久史麿(たかく・ふみまろ)会長)は6日、「担当医が不可抗力的事故で逮捕されたことは誠に遺憾」とする声明を発表した。

 声明は、来年1月26日に福島地裁で開かれる初公判を前に発表。「担当医は懸命な努力をしたにもかかわらず、医師不足や輸血用血液確保の困難性などが不幸な結果をもたらした」とした上で「たまたま重篤な合併症や死亡事例に遭遇したことで逮捕されるようでは、消極的、防御的医療にならざるを得ない」としている。

 また各地で問題になっている産科医不足にも触れ「若い医師は事故の多い診療科の医師になることを敬遠しており、ますます医師は偏在する」と指摘している。

(共同通信、2006年12月7日)


公判概略について(06/10/19)

2006年10月24日 | 大野病院事件

周産期医療の崩壊をくい止める会のホームページより

公判概略について(06/10/19)

10月11日(水)に開催された、公判前整理手続き(第4回)の報告

 福島地方裁判所において、午前10時より午後まで開催されました。

 今回も争点を絞り込むまでにはいたりませんでしたが、11月10日(金)、12月14日(木)に公判前整理手続きを行って、平成19年1月26日(金)、2月23日(金)、3月16日(金)に公判が開催されることに決定いたしました。

 今回も弁護側より「予定主張等記載書面」を福島地方裁判所刑事部に提出しました。その主なる内容について記載いたします。

1.本件における帝王切開手術時の子宮と胎盤の状態

 胎盤が妊娠37週の通常の円形板状で15cmから20cm程度であることと比較すると、形状が異なると同時に1.47倍から2.61倍であった。本件の胎盤は2つの部分に分かれる分葉胎盤様であり、内子宮口付近に付着していた部分には、胎盤の卵膜だけが存在し、胎盤実質は存在せず、子宮前壁に島状に存在していた。また子宮切開創には胎盤はなかった。

 胎盤の癒着は子宮前壁には殆どなく、その程度も軽いものであった。

 子宮後壁の癒着部分は、子宮後壁下部の右寄りのごく一部であり、その癒着の程度は、子宮筋層の表層の5分の1程度に絨毛が侵入している程度であり、陥入胎盤の中でも非常に軽い部類に属するものであった。

2.本件手術前における癒着胎盤の予見可能性

 本件は子宮前壁には癒着がほとんどなく、その程度も軽いため、大出血は生じ得ず、子宮前壁においては、そもそも本件訴因に示された結果が生じていない。術前に超音波検査やカラードプラ法を施行して癒着の可能性のないことを確かめている。子宮後壁は手術前の時点では子宮前壁や子宮内容物及び胎児が存在するため、超音波検査やカラードプラ法によって検査することは困難であること、MRI検査は子宮後壁の癒着胎盤の検査が不可能ではないが、偽陽性、偽陰性の確率が高く、程度の軽い癒着胎盤は術前に診断することは不可能に近いこと。

 検察側は前回帝王切開創痕に胎盤が付着しているので、帝王切開既往1回で子宮前壁(子宮の前回帝王切開創痕)に付着する前置胎盤の場合、約24%の高率で癒着胎盤の発生が認められるとしているが、本件では胎盤は前回帝王切開創痕にかかっていないため、約24%の高率で癒着胎盤が発症することはないこと(ちなみに、帝王切開既往1回で、前置胎盤で子宮切開創痕に胎盤が付着していない場合、35歳未満では癒着胎盤である可能性は3.7%である)。

3.本件手術中における大量出血の予見可能性及び結果回避可能性

 本件手術開始後、用手剥離困難になるまでの間、大量出血の予見可能性はなく、大量出血により死に至ることの予見義務は課せられない。

 胎盤剥離途中及び剥離直後の出血量についていえば、用手剥離開始直後の14時40分の時点での出血量は2000ml(羊水量込み)であった。また、胎盤娩出が終わったのちの14時52~3分の時点でも、出血量は2555ml(羊水量込み)である。この出血量は前置胎盤の患者にとってはごく一般的なものであり、通常予見する範囲の出血量である。さらに、本件患者は胎児及び胎盤が通常より非常に大きいため、羊水量が通常よりも多かったので、実際の出血量はもっと少ないものと思われる。

 したがって、胎盤剥離開始時点から完了時点までの出血量から、その後の大量出血を予見することはできなかった。

4.本件手術中における結果回避の可能性

 本件手術前及び手術中における予見可能性が認められないため、本来は、本件手術中の結果回避義務について論じる必要はない。しかし、癒着胎盤の剥離を中止する義務の有無についていえば、検察官は、胎盤が子宮に癒着していることを認識した場合、癒着の程度にかかわらず、直ちに胎盤の剥離を中止して子宮摘出手術等に移行するべきであったとする。

 しかし、検察官が主張するように、どのような程度の癒着胎盤でも直ちに子宮の摘出を行っていたのでは、日本全国で本来摘出の必要がない子宮が摘出され続けることとなる。癒着胎盤であっても、その程度により大量出血を招来せずに胎盤を剥離できる場合の方が多いし、前置胎盤の場合には子宮下部の収縮不良により胎盤が剥がれにくいことが多く、その場合には出血も多いので、臨床的に癒着胎盤との区別を診断することは困難だからである。本件患者には子宮温存の希望があり、前置胎盤に由来する出血や胎盤剥離面からの出血に対する止血措置のためには、胎盤を剥離し、目視下で施術した方が有利であった。したがって、穿通胎盤との診断がなされていない限り、胎盤剥離の継続を選択し、その上で止血措置を行おうとすることは、当時の出血量からしても、本件手術当時の通常の産婦人科医の選択としてきわめて正当なものであり、結果回避義務違反があったとはいえない。

 なお、被告人は、本件患者について、15時5分に子宮摘出を決断し、16時30分、輸血の到着を待って子宮摘出手術を開始し、摘出手術は無事終了した。

 また、クーパーによる胎盤剥離の是非についていえば、検察官は、被告人がクーパーを使用して本件胎盤を剥離したことにより、出血量がさらに増加したと主張するようである。しかし、被告人がクーパーを使用して胎盤を剥離したのは、胎盤と子宮筋層の間に指が入らなくなったからやむを得ず行ったのではなく、胎盤の残置と子宮筋層への侵襲を可及的に減少させるためであり、それは手で剥離を続けるよりは有利な処置であり、出血量の増加を招く行為ではなかった。

 クラーク博士らによる著書 Cesarean Deliveryによれば、癒着が局所的な場合、絨毛が侵入しているところの簡単な切除、その場所を数カ所8の字縫合すること、または鋭利な掻爬は時として効果的であると記載してある。また、その他の文献にも同趣旨の記載が見られる。

5.医師法違反について

(1)罪刑法定主義違反による法律の違憲無効

 医師法第21条は、憲法31条に根拠づけられる罪刑法定主義に反しており、違憲無効な法律であり、違憲無効な法律に基づいて被告人を処罰することはできない。

(2)憲法第38条第1項違反

 医師法第21条は、憲法第38条第1項に反しており、違憲無効な法律である。違憲無効な法律に基づいて被告人を処罰することはできない。

(3)構成要件該当性について

 どのような場合に死体等に「異状」があると言えるのかについては、定まった解釈が存在しないし、検察官も充分な基準を示していない。したがって、構成要件該当性を論ずる基礎がない状態である。

(4)構成要件的故意について

 仮に、過失によって生じた死体に「異状」が認められると解釈するとしても、被告人は自らに過失があると認識していなかったため、被告人には構成要件該当行為の認識がなく、被告人は、本件患者の死後、作山洋三院長らと協議し、その結果として過失はなかったという結論に達しているからである。したがって、被告人には構成要件的故意がない。

(5)責任阻却事由について

 仮に被告人の行為が医師法第21条の構成要件に該当するとしても、被告人には違法性の意識の可能性がなく、その責任は阻却される。また、被告人は、本件患者の死後、作山洋三院長らと相談して、本件が医療過誤ではなかったという結論に達している。その結果、医療過誤でない場合には届出を行わないという厚生省のリスクマネジメントマニュアル指針等と同様の処理を行ったのである。厚生省という所轄官庁が告示している指針と同様の処理について、被告人が違法性を意識することは不可能である。したがって、届出を行わなかった行為について、被告人を非難することはできず、被告人の責任は阻却される。

 以上弁護団が主な主張や証拠をまとめた「予定主張等記載書面」です。これに対し、検察側から、10月末日までに、反論する回答が提出される予定になっています。

 今後弁護団側より、岡村州博(東北大学医学部産婦人科学)教授、池ノ上克(宮崎大学医学部産婦人科学)教授からの意見書と、中山雅弘(大阪府立母子保健センター検査科)部長より、子宮・胎盤病理の鑑定意見書を提出することになっています。

                             以上

平成17年10月18日

福島県立医科大学 産科婦人科学 教授

佐藤 章

****** 参考:

県立大野病院事件についての自ブログ内リンク集

公判概略について(06/7/28)

公判概略について(06/9/23)


公判概略について(06/9/23)

2006年09月25日 | 大野病院事件

周産期医療の崩壊をくい止める会のホームページより

公判概略について(06/9/23)

第3回公判前整理の話し合いの結果報告

 平成18年9月15日(金)に福島地方裁判所において、3回目の県立大野病院事件に対する公判前整理の話し合いが行われました。第2回目は8月11日(金)に行われましたが、争点を決めることが殆どなく終了し、3回目となったわけですが、今回も最終的な争点を決めるまでには至りませんでした。次回は10月11日(火)に行うこととなりましたが、裁判所としては、次々回11月10日(金)を最終として公判前整理を行いたい旨、検察側と弁護団(8名)に通告したそうです。従って、公判は早くて12月以降になると思われます。

 弁護団としては、当日、福島地方裁判所刑事部に、「予定主張等記載書面」を提出いたしました。その内容の主なるものは以下の通りです。

1. 本件における帝王切開手術時の子宮と胎盤の状態については、今回の胎盤は妊娠37週の胎盤としては大きかったこと、分葉胎盤様であったこと。  検察側が提出してきた証明予定事実記載書によると、子宮前壁にも癒着があったとしているが、癒着があったとはいえないこと。後壁の癒着も一部でしかも比較的軽いものであったこと。

2. 癒着の予見可能性についても、後壁の一部の癒着胎盤で、比較的軽いものであったことからも、術前に予見は不可能であったこと。

3. 手術中における大量出血は用手剥離困難になるまでの間、予見可能性はなかったこと。

4. 手術前及び手術中における予見可能性が認められないため、本件手術中の結果回避義務はないこと。

5. 加藤医師は産婦人科専門医であり、約1,200例の分娩を取り扱い、そのうち200例は帝王切開手術であり、県立大野病院では一人医長で、分娩は約350例、そのうち約50例は帝王切開手術であり、夜間及び休日でも、連絡があれば直ちに病院に駆けつけるなどの過酷な労働条件下で地域の産婦人科医療に貢献していたこと。

 今後、弁護団としては摘出した子宮の胎盤の病理についての意見書、産婦人科周産期専門医の意見書を裁判所に提出する予定であることを、裁判所に伝えました。

2006年9月22日

福島県立医科大学 産科婦人科学教授 佐藤 章

****** 参考

公判概略について(06/7/28)

福島県立医大:佐藤章教授のコメント

大野病院医療事故:裁判所が争点初提示 初公判12月に (毎日新聞)

日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会:県立大野病院事件に対する考え

日本周産期・新生児医学会の声明文


日本周産期・新生児医学会の声明文

2006年09月21日 | 大野病院事件

http://plaza.umin.ac.jp/~neonat/news/seimei060913.pdf

日本周産期・新生児医学会 会員各位へ

               声明文

 日本周産期・新生児医学会は、会員の総意に基づき、福島県立大野病院勤務の医師、加藤克彦(以下加藤医師)の逮捕・起訴に対して強く抗議することを声明致します。
 この事件は、加藤医師が、同上病院において平成16年12月17日に施行した癒着胎盤を合併する前置胎盤の帝王切開に際し、出血多量のため患者を死亡させたとして業務上過失致死の罪、及び異常死体を24時間以内に届け出ると定めた医師法違反の罪に問われ、去る平成18年2月18日に逮捕、3月10日に起訴されたものであります。
 本会並びに学会員は、まず、亡くなられた患者様に深く哀悼の意を表し、ご家族の皆様には心からお悔やみを申し上げる所であります。しかしながら、この事例は、加藤医師が“故意”や“怠慢”などにより患者を死亡に至らしめたのでないことは明白であり、力を尽くし懸命な努力をしたにも拘らず、患者の命を救うことができなかった事例であります。この様な事例に対し担当医師の刑事責任を問うことは、そのこと自体が全く不当で、本会はそれを容認することはできません。
 本件で、一時的とは言え身柄を拘束された加藤医師はこれまでも身を粉にして地域の医療に貢献してきた産婦人科専門医であります。上記事例の発生後も同上病院に勤務し日々の診療に当たっておりました。この様な医師が逃亡する恐れの無いことは明らかで、また、警察の取調べにも素直に応じ、既に資料も総て押収されてしまった逮捕当時、証拠隠滅など図りようもないことであります。その様な状況での今回の逮捕拘留は全く理解に苦しむものであり、誤った処置であったと断言できます。
 本会も事例の医学的事項並びに不幸な結果に至った経緯とその原因については徹底的な究明を望むものであります。しかし、本事例は癒着胎盤と言うまれな疾患の診断の難しさゆえに生じたものであり、また、医師不足や輸血用血液確保の困難性など、地域医療の特性に基づく悪条件が不幸な結果に強く結びついていることも明らかであります。この様に、本事例が学問上も難しく、さらに僻地医療が抱える問題を背景として生じた事例であることを鑑みますと、その責任を現場の医師一人に帰してしてしまおうとする今回の逮捕・起訴に、本会の多くの会員が憤りすら感じていることも無理からぬことと言えます。この様な逮捕・起訴がまかり通れば、僻地医療、延いては日本の周産期医療全体を衰退させることになると強く危惧するところであります。周産期医療に携わる医師が日常的に行っている医療行為には本件のような不測の事態の発生する可能性が常に内在されており、それ故、今回の加藤医師の逮捕・起訴は医療従事者を萎縮させ、今後、医師を、自己防衛を優先する医療に走らせる懸念があるとさえ言わざるを得ません。
 また、本件で加藤医師が異常死届出に関する医師法違反に問われたことも道理の通ったものとは思われません。いわゆる医療事故と考えられる事例は、事の重大さを問わず、医師が自らの良心に従い病院に報告するのが通例となっており、本事例に関しても、加藤医師は病院長に報告し指示を仰いでおります。実際、大野病院のマニュアルにもそのように定められており、必要があれば院長が警察に届け出る事になっておりました。また、加藤医師は福島県の事故調査委員会の取調べに対しても、再発防止の観点から調査に全面的に協力し、正直に事例の経緯を述べております。再発防止と将来のより良い医療の達成に資する目的の調査委員会報告書が捜査資料に使われ、病院の規定通りに事例を報告し、病院側からの指示に従った加藤医師がこのことで医師法違反に問われたことにも、本会は大きな驚きと深い失望を覚えている所であります。
 以上のことから、日本周産期・新生児医学会は福島県立大野病院事件における加藤医師の逮捕・起訴に対する強い抗議の意志をここに声明する次第であります。

平成18年8月
日本周産期・新生児医学会
理事長     堀内 勁

****** 参考

癒着胎盤で母体死亡となった事例

母体死亡となった根本的な原因は?(私見)

日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会:
県立大野病院事件に対する考え

読売新聞:医療事故 摘発どこまで

公判概略について

大野病院医療事故:裁判所が争点初提示 初公判12月に (毎日新聞)