ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

医師の研修制度はいま

2009年07月03日 | 医療全般

現行の医師臨床研修制度が開始されてから今年度で6年目となり、来年度からこの制度が大幅に変更される予定です。現行制度での必修診療科は、内科、外科、救急(麻酔含む)、小児科、産婦人科、精神科、地域医療の7科ですが、来年度からは必修診療科が、内科、救急、地域医療の3科に削減され、さらに都道府県ごとに定員の上限が設定されます。

この臨床研修制度が開始されるまでは、医学部を卒業した新人医師のほとんどが直ちにどこかの大学の医局に入局しました。また、地域の基幹病院のほとんどが、どこかの大学の関連病院となっていて、関連病院独自の医師採用はほとんどあり得ませんでした。当時は、どこかの大学医局に所属しないことには、ちゃんとした研修が開始できませんでしたし、将来的にも有力病院への就職がほとんど不可能でした。現行の臨床研修制度の導入により、研修医自身の自由意思で研修病院を決められるようになり、卒後医師の多くが都市部の大病院などでの研修を希望した結果、特に地方大学医学部では医局に入局する医師の数が激減し、大学医局による医師派遣に依存してきた地域医療の崩壊が全国各地で大きな問題となりました。

医師として一人前になるまでには、多くの病院で、多くの経験を積み、多くの先輩医師からの指導を受ける必要があり、最初から最後まで一つの病院だけで臨床研修を完結させることは難しいと思います。大学病院も関連病院も、人手不足では何もできません。大学医学部と関連病院とが、一つの運命共同体として、多くの若者達が志願して集まって来るような、魅力のある柔軟な組織であり続ける必要があります。

長野県の場合、信州大学附属病院で初期研修を開始する者の数は以前よりも減りましたが、県内全体の研修医の総数は以前よりもわずかに増えているそうです。佐久総合病院、相澤病院、諏訪中央病院など、地方にあっても全国から多くの研修医が集まる人気研修病院も存在します。今後、見直し後の臨床研修制度にうまく対応していくためには、信州大学医学部と関連病院とが一致協力していく必要があると思います。

****** 朝日新聞、長野、2009年6月22日

医師の研修制度はいま 新研修制度の目的は

(前略)

 医師不足の元凶のような扱いをされてきた新制度だが、医師不足と研修制度を直接結び付けることで、本質的な問題を見えにくくしているとの指摘がある。

 厚労省と文科省による検討会は、意見とりまとめで「医師不足への対応は、研修制度の見直しだけでは不十分」として、「医師養成の拡大、医師の勤務環境の改善、医療関係職種間の連携など、関連する対策の一層の強化を強く望む」とした。

 国立大学医学部長会議常置委員会は「低医療費策の結果による失政だ。早急に医学部定員を増やし、高等教育費や医療費を増やさなければ根本的解決にならない」と強く要望している。

 ただ、直面する課題として、医局では新制度導入当初の2年分の研修医が「ゼロ」になった影響や研修後の医師が大学に戻らなくなったことにより、医師派遣機能が低下したのは事実だ。

 元々、医療の細分化や、出産や育児をする女性医師を支える仕組みの不備などで、必要とされる医師の数は不足していた。そこに医師を環流させるポンプ役の医局に医師がいなくなったため、医師配置が行き詰まってしまった。

 信大付属病院の研修医は減ったが、県内全体を見れば逆に微増している。県内の医師不足は、県内に来る研修医が少なくなったからではなく、医局に入る研修医が少なくなって起きたのは明らかだ。

 だが、いったん自由化した医師の進路を再び医局に固定したり、医局による人事に不満のある医療関係者がいる以上、医局の力を再び強めたりするのは難しいのが現実だ。

 県は、医局の医師派遣機能が低下したのを受け、県内の医師の適正配置を話し合う場として、05年に地域医療対策協議会を設置した。今年度、信大医学部に設けた「寄付講座」では医師派遣システムも検討する。だが、大学関係者からは「人事を含めた医療の現場を知っているのは医局である以上、県が医師配置に介入するのは難しいのでは」との声がもっぱらだ。

 県病院事業局の勝山努局長は「研修制度でも医師不足への対応でも、肝心な視点は『患者が喜ぶ医師』をどれだけ育成できるかだ。医学部教育を含めた医師養成課程に厚労省も文科省も一体になってかかわり、抜本的に改革しなければいけない」と指摘する。

(以下略)

(朝日新聞、長野、2009年6月22日)