ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

早産、切迫早産、絨毛膜羊膜炎

2010年04月14日 | 周産期医学

・早産 preterm delivery

[定義] 妊娠22週以降から37週未満の分娩。

[頻度] わが国における早産率は約5%であり、その多くは妊娠32週以降に発生する。早産の発生頻度は近年増加傾向にある。

早産児は未熟で胎外の生活に十分な適応性がなく、多彩な合併症が出現する。早産児では正期産児と比べ、周産期死亡率や死産率が高い。

早産児(preterm infant)

a. 低出生体重児 (low birth weight infant)
 出生体重:2500g未満

b. 極低出生体重児 (very low birth weight infant)
 出生体重:1500g未満

c. 超低出生体重児 (edtremely low birth weight infant)
 出生体重:1000g未満

・早産未熟児の3大合併症
①呼吸窮迫症候群(RDS)
②頭蓋内出血
③子宮内感染(髄膜炎、敗血症)

・早産の分類
①自然早産:
 様々な原因により妊娠の継続が不可能となり自然に分娩に至る。

②人工早産:
 母児救命のため、ターミネーション(分娩誘発または帝王切開)し、人為的に出産させる。

・自然早産の原因
① 既往産科歴:
前回妊娠での早産、円錐切除術の既往

②現症:
細菌性腟症、絨毛膜羊膜炎、頸管無力症、多胎妊娠、羊水過多症、常位胎盤早期剥離、前置胎盤、重篤な妊娠合併症、高年出産

③生活習慣:
ヘビースモーカー、 過激なダイエットによるやせ

・人工早産の原因
①母体合併症:
前期破水、
重篤な妊娠高血圧症候群、
常位胎盤早期剥離、
前置胎盤、
重篤な妊娠合併症

②胎児合併症:
胎児機能不全(NRFS)、
子宮内胎児発育遅延(IUGR)

・早産の管理
1. 呼吸窮迫症候群(RDS)の予防
 成熟度を判定(L/S比、推定体重)し、未成熟なら待機療法とする。

2.頭蓋内出血の予防
 ①骨盤位は帝王切開とする。
 ②頭位の場合も、推定体重≦1500g、妊娠28週未満では帝王切開とする。

3.子宮内感染の予防
  抗生物質を投与する。

・切迫早産
threatened preterm delivery

[定義] 妊娠22週以降37週未満の時期に、規則的な子宮収縮と頸管熟化がみられ、早産の危険が高い状態。

[症状] 下腹部痛、腹部緊満感、規則的な子宮収縮、少量の性器出血、水様帯下など

切迫早産の原因の大半は絨毛膜羊膜炎(CAM)である。

・絨毛膜羊膜炎(CAM)
chorioamnionitis

[定義] 胎児付属物である卵膜(絨毛膜、羊膜)に細菌が感染して生じる炎症性疾患。

CAMが進行すると、頸管熟化、前期破水、早発陣痛が引き起こされ、早産にいたる。

CAMは早産や前期破水の主要な原因であり、極低出生体重児例の70%にCAMが関与しているとされる。

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顕性(臨床的)CAMの診断基準
(Lenckl et al., 1994)

①母体の発熱(≧38℃)がある場合、以下のうち1項目以上あること
・ 母体の頻脈(≧100bpm)
・ 子宮の圧迫
・ 腟分泌物・羊水の悪臭
・ 白血球増多(≧1500/??)

②母体の発熱がない場合、上記4項目すべてを満たすこと
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顕性CAMでは、約半数が24時間以内に早産に至り、約90%は1週間以内に早産に至る。

・CMのスクリーニング

①細菌性腟症
・ 多くを占める菌種:バクテロイデス属、ガルドネラ・バジナリス、モビルンカス属、マイコプラズマ・ホミニス、B群溶連菌(GBS)など
・ 腟分泌物pH:弱酸性(pH4.5以上)
・ 帯下の増加、魚の生臭いにおい(アミン臭)

②早産マーカー
・ 顆粒球エラスターゼ(子宮頸管粘液)
・ 癌胎児性フィブロネクチン(腟分泌物)

無症状で未だ子宮内感染のない不顕性CAMの時点で早期診断・早期治療を行うことが、早産の予防にとって最も重要である。

・切迫早産の子宮頸管所見:
(経腟超音波検査

①内子宮口の開大
②頸管長の短縮
(妊娠28週未満で30mm未満、特に妊娠24週未満で頸管長が25mm以下であれば早産のリスクが高い。)

Keikantannshuku
(画像はInternet hospital. netより)

cf. 正常妊婦の子宮頸管長:
 
妊娠の経過に従って徐々に短縮していく。
 妊娠30週未満では35~40mm
 妊娠32~40週では25~32mm

Normal
(画像は日本産婦人科医会研修ノートNo.76より)

・早産指数(tocolysis index)

Photo

・切迫早産の診断

①臨床症状:
 腹部緊満感、背部痛、血性帯下、不正出血、粘液性帯下の増量

②早産指数(Baumgarten、1977)

③胎児心拍数陣痛図(CTG):
 規則的な子宮収縮

④経腟超音波所見:
 内子宮口の開大、
 頸管長の短縮

・切迫早産管理の基本指針

1.未破水の場合:
 子宮収縮を抑制して、可能な限り妊娠期間の延長をはかる。

2.破水例の場合:
 ①児の肺成熟が未熟で感染徴候がなければ、可能な限り待機する。
 ②感染徴候が認められたら、NICU(新生児集中治療部)などの出生後の条件を整えてターミネーション(妊娠中断)を考慮する。

・切迫早産の薬物治療

①塩酸リトドリン(内服、点滴静注):
子宮収縮による分娩の進行を抑制する。

②硫酸マグネシウム(点滴静注):
塩酸リトドリンが無効の場合に使用する。

③抗菌薬の投与、5%ポビドンヨードで腟内洗浄:
破水後の感染を予防する。

④ウリナスタチン(腟坐剤):
エラスターゼ活性を抑制し、頸管熟化を防ぎ、破水を予防する。(保険適用なし)

⑤副腎皮質ステロイド(筋注):
児の肺成熟を促し、出生後の呼吸窮迫症候群を予防する。子宮内感染がない場合に、妊娠23週から32週未満まで使用する。