・羊水量の評価
羊水量は妊娠30~34 週頃が最も多く(約800 ml )、その後は満期まで減少し続け、さらに妊娠42週に近づくと急激に少なくなることがある。臨床上、超音波断層法で半定量的に計測し評価する。羊水量は個々の胎児で量的な差異があるので、胎児評価においてはその変化が重要である。
①羊水深度法:
羊水腔の最大垂直深度で表す。
②羊水ポケット法:
羊水腔に最大何cm の直径の円が描けるかで測定する。
①②の正常値:2~8cm
③ 羊水インデックス(AFI = Amniotic Fluid Index)法:
臍部を中心に子宮腔を4分割した空間を想定し、おのおのの腔における最大深度値の総和を求める。 ③の正常値:5~24cm
・羊水過多症(polyhydramnios)
[定義] 羊水量が800mLを超える場合を羊水過多という。これに何らかの臨床的な自他覚症状を伴うものを羊水過多症という。
[症状] 腹部緊満感、呼吸困難、頻尿、悪心、嘔吐、下肢・外陰部の浮腫、静脈瘤、前期破水、分娩遷延、臍帯脱出、弛緩出血など
[頻度] 軽度で慢性のものは全妊娠の0.5%、治療を要する急性で高度なものは0.1%以下。
[診断] 経腹超音波検査にて、 羊水ポケット≧8cmもしくはAFI≧24cm (施設によってはAFI≧25cm)
[原因]
1. 胎児側原因
①胎児の奇形:脊椎破裂、無脳児、膀胱外反症
②静脈系の閉鎖または停滞:胎盤絨毛血管腫、臍帯血管の狭窄、胎児大動脈の狭窄、心疾患、肝硬変、胎児梅毒など
③胎児の食道または十二指腸の狭窄または閉鎖
④胎児の腫瘍:大網血管腫、腎肉腫
⑤一卵性双胎 ⑥胎児赤芽球症
2. 母体側原因: 母体の心、肺、肝、腎などの疾患、とくに糖尿病との関係が深い。
3. 特発性(原因不明):約60%を占める。
[治療]
①入院し安静をとる。
②原因を検索し、原因がわかればそれに応じた治療を行う。
③必要に応じて子宮収縮抑制薬を投与する。
④胎児の肺が成熟していれば分娩誘導をする。
⑤圧迫症状が強い場合、羊水穿刺・排液をすることもある。
[予後]
①母体に対する予後は良好。
時に、腎、心、肺の障害および腹水、胸水、感染、胎盤早期剥離、微弱陣痛、弛緩出血、ショックなどをみることがある。
②胎児への予後は一般に不良。
本症の胎児の約20%に先天性奇形があり、流早死産、臍帯脱出などをみることがあり、周産期死亡率は健常児の約2~7倍となる。
・羊水過少症(oligohydramnios)
[定義] 羊水量が100mL未満の場合を羊水過少とし、これに臨床的な自他覚症状が出たものを羊水過少症という。
[症状]
・子宮は小さい。
・胎児部分を明瞭に触知する。
・胎動を感じやすい。
・臍帯圧迫(変動一過性徐脈)
・強制胎位(関節拘縮)
・胎児の奇形が多い
・肺の低形成(胎児呼吸様運動ができない)
・羊膜索症候群(羊膜と胎児の癒着、奇形、四肢離断、内反足、四肢彎曲、脊椎彎曲、褥瘡など)
[原因] 胎児尿の産生障害や羊水腔からの羊水流出によって生じる。羊水過少の原因の約半数は前期破水とされる。
[診断] 経腹超音波検査にて、 羊水ポケット≦2cmもしくはAFI≦5cm
[原因]
①前期破水:
妊娠早期に長期化すると胎児肺低形成の原因になる。
②過期妊娠:
正期産の時期になると羊水量は減少し始める。胎児機能不全の原因となる。
④子宮内胎児発育遅延:
循環血液量の再配分によって胎児腎血流量が減少し発症する。
④胎児腎尿路異常:
典型例はPotter症候群と診断される(両側腎無形成、肺低形成、特徴的顔貌、四肢の骨形成異常)。
[管理]
①羊水量の経時的チェック
②胎児心拍モニタリング: 変動一過性徐脈(variable deceleration)などの出現に注意する。
③胎児呼吸様運動: 肺低形成をきたすことが予想される。
④人工羊水注入: 分娩時に変動一過性徐脈が頻発したら羊水腔に生理食塩水を注入する場合もある。
羊膜索症候群(amniotic band syndrome):
①羊水過少が早期に発症すると羊膜の一部は胎児に癒着し、これが伸びて紐状となることがある。
②これを羊膜索という。これが胎児の指趾などに巻きついて、これを離断することがある。
③本症が比較的遅く起こると、胎児の皮膚は乾燥してなめし革様になり、内反足、四肢彎曲、脊椎彎曲、褥瘡、皮膚欠損などをみる。