ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

休日深夜帯の超緊急帝王切開について

2010年11月01日 | 周産期医学

産婦人科医、小児科医、麻酔科医、手術室看護師などが院内に不在で、手術実施に必要なスタッフを自宅から呼び出さねばならない場合、「帝王切開の方針決定から児娩出までに30分以内」を常に達成することは不可能です。当院でも平日の日勤帯ならば、「必要とあらば30分以内に帝王切開を実施する」のが努力目標となってますが、平日の勤務時間外や休日では手術実施に必要なスタッフを自宅から呼び出す必要があり、「帝王切開の方針決定から児娩出までに30分以内」を常に達成するのは不可能です。ところが現実には、緊急帝王切開の中でも特に緊急性の高い「超緊急帝王切開」も時にあり得ます。「超緊急帝王切開」とは、方針決定後、他の要件を一切考慮することなく、全身麻酔下で直ちに手術を開始し、一刻も早い児の娩出をはかる帝王切開です。

最近、当院で「超緊急帝王切開」の実施例を経験しました。常位胎盤早期剥離の症例で、発症は休日の深夜帯でしたが、(たまたま多くの関係スタッフが院内に存在していて)帝王切開と決定してから18分後に児が娩出されました。休日深夜の突然の出来事でしたが、産婦人科医3人、小児科医2人、麻酔科医2人、研修医、手術室スタッフなどが緊急招集され、手術室は突然大勢の人でごったがえし、大声が飛び交って一時騒然となりました。幸いにも母児とも無事でした。その患者さんの場合、特にリスク因子もなく何の誘因もなく突然発症しました。

当院では産科担当医が「超緊急帝王切開」が必要と判断した場合は、方針決定と同時に直ちに患者さんを手術室にストレッチャーで搬送し、全館放送の緊急呼出しで院内にいる産婦人科医、小児科医、麻酔科医および手術室勤務の経験があるスタッフを直ちに手術室に召集し、できる限り早く手術を開始する手順が一応決まっています。ただし、この方策がうまくいくかどうかは、全館放送で緊急呼び出しをした時に、院内にたまたま誰が存在しているのか?という偶発性に依存しています。今回は(たまたま運よく)方針決定から児娩出までの時間は18分でしたが、これを常に達成することは不可能です。院内に術者や麻酔科医などが不在の場合は、方針決定から児の娩出までに30分以上を要するのは確実です。

分娩を取り扱う施設では、分娩300~400例に1例の頻度でこのような「超緊急帝王切開」例が発症します。原因となる疾患は、常位胎盤早期剥離、子宮破裂、臍帯脱出などです。「超緊急帝王切開」を要する緊急事態が、いつどの妊婦さんに発症するのかは予測できません。ですから、分娩を取り扱う施設では、いざという時にはいつ何時であっても「超緊急帝王切開」が実施できるように、常日頃から院内の関係スタッフを集めてシミュレーションを繰り返して、緊急時の手順を取り決めて準備を整えておく必要があります。

当院の場合、「超緊急帝王切開」のシミュレーションを年に2回ほど実施してます。帝王切開は常日頃多く(毎週数件)実施しているルーチン手術なので、関係スタッフが手術室内に集まって手術が開始されるところまでいきつけばあとは何とかなります。平日の日勤帯であれば、もともと大勢のスタッフが手術室内に存在しているので、大抵の場合はスムーズに事が運びます。『平日の勤務時間外や休日に、いかにして関係スタッフを緊急招集するのか?』が一番の問題となります。今年に入ってからは、当院で勤務時間外に発症した「超緊急帝王切開」を要する症例を2例経験しましたが、2例とも(たまたま多くの関係スタッフが院内に存在していて)帝王切開と決定してから20分以内に児が娩出され、娩出直後より新生児科医により新生児の蘇生処置が開始されました。

参考記事:

帝王切開:周産期センター「30分で手術可能」3割

常位胎盤早期剥離

子宮破裂

臍帯下垂、臍帯脱出