原因不明不妊、機能性不妊、
unexplained infertility
不妊期間が1年以上で、不妊症の一次検査を行っても明らかな異常を認めない場合を原因不明不妊という。原因不明不妊は、一次検査で評価が難しい病態か、検査が不可能な不妊原因があるか、偶発的に妊娠できていないことなどが考えられる。
原因不明不妊への対応で最も配慮すべきことは女性の年齢と不妊期間で、とくに女性の年齢は妊孕性を規定する最も重要な因子で、晩婚化や望児年齢の高齢化が進行している現在、治療を急がなくてはならない場合が多い。
軽度の卵管周囲癒着や軽度の子宮内膜症は、一次検査では診断困難であり、腹腔鏡により初めて診断される場合が多い。子宮内膜ポリープ、軽度の子宮腔癒着症などの子宮内腔病変は子宮鏡検査で診断可能である。
検査が不可能な不妊原因:
①卵管疎通性のある卵管機能障害 ⇒生殖補助医療で妊娠可能
②受精障害 ⇒生殖補助医療で妊娠可能
③器質的疾患のない着床障害 ⇒治療が困難なことが多い
女性の年齢が若くかつ不妊期間が短い場合は、6カ月間から1年間のタイミング指導により自然妊娠を期待できる。一方、高年女性においては早期の検査や治療が必要となる。特に女性の年齢が37~38歳以上の場合や不妊期間が3年以上の場合には、生殖補助医療という選択肢を早期に提示する必要がある。
産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ319 原因不明不妊に対する対応は?
1. 女性の年齢、不妊期間、社会的背景などを考慮して、検査・治療方針を提案する。(A)
2. 一次検査では特定できない病態について説明し、原因を明らかにするために二次検査を行う。(B)
3. 女性の年齢と不妊期間を考慮し、以下を選択する。(C)
1) タイミング指導を含む6~12周期程度の待機療法を行う。
2) 排卵誘発治療、配偶者間人工授精(AIH)のいずれか、または併用療法を行う。
3) 早期に生殖補助医療を提案する。
参考文献:
1) 産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020
2) データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
不妊症は1つの原因が見つかっても他の原因がないとはいえず、治療に先立って、原因検索のための一次検査を網羅的に実施する必要があります。『産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020』には比較的簡便な以下の一次検査が示されています。
①基礎体温測定
基礎体温測定は、排卵や黄体機能を簡易的に評価でき、検査の日程を決めるうえでも有用です。
②超音波検査
超音波検査は子宮および卵巣の状態観察に必須の検査です。また、経腟超音波検査は卵胞発育モニタリングに欠かせません。子宮内腔の形態評価にはソノヒステログラフィー(SHG)が有用です。
③内分泌検査
黄体化ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、エストラジオール(E₂)、プロラクチン(PRL)、プロゲステロン(P₄)、テストステロン(T)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の測定。(月経周期とホルモンの変化)
・LH、FSH、E₂の3項目は月経周期3~7日目に測定する。
・乳汁分泌、排卵障害が認められる症例ではPRL測定が勧められます(高プロラクチン血症)。特に多嚢胞性卵巣症候群を疑う症例では併せてTを測定します。
・P₄測定は黄体機能不全を疑う症例で黄体期中期に実施します。
④クラミジア抗体検査あるいは核酸増幅検査
・クラミジア抗体検査(IgG、IgA):クラミジア感染の既往の有無の診断に有用です
・子宮頸管のPCR検査:検査時点でのクラミジア感染の有無の診断に有用です
⑤卵管疎通性検査
子宮卵管造影、超音波下卵管通水法、卵管通気法。
⑥精液検査
男性因子の評価に必要な検査です。治療に先立って実施することが勧められます。
⑦頸管粘液検査
頸管粘液検査、精子子宮頸管適合検査(フーナーテスト)。これらの検査は排卵期に実施することが重要です。
産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ318 不妊症の原因検索としての一次検査は?
1. 基礎体温測定(A)
2. 超音波検査(A)
3. 内分泌検査(B)
4. クラミジア抗体検査あるいは核酸増幅検査(B)
5. 卵管疎通性検査(B)
6. 精液検査(A)
7. 頸管因子検査(B)
参考文献:
産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020