ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

我が国の生殖補助医療(ART)成績

2020年07月08日 | 生殖内分泌

妊孕能(にんようのう)の低下は、女性年齢が35歳くらいから顕著となります。女性年齢の上昇とともに妊娠率が低下し、流産率は上昇するため、生児を得る確率(生産率)が急激に低下します。2017年の我が国のART成績から、総治療周期当たりの生産率は、30歳:21.9%、35歳:18.9%、40歳:9.3%、41歳:7.0%、42歳:4.8%、43歳:3.1%、44歳:1.8%、45歳:1.0%、46歳:0.8%、47歳:0.2%です。妊娠後の流産率は、30歳:16.7%、35歳:20.3%、40歳:33.6%、41歳:39.2%、42歳:43.2%、43歳:49.3%、44歳:57.5%、45歳:62.6%、46歳:64.8%、47歳:76.9%です。高齢女性では胚の染色体異常率が高いことから、妊娠しても流産率が高くなり、生児を得る確率は低くなります。例えば、45歳女性の流産率は62.6%で生児を得る確率は1.0%となり、単純計算で45歳女性が生児を得るためには平均100回のART治療が必要となり、現実的に生児を得ることは非常に困難です。

 日本産科婦人科学会:ARTデータブック、2017

現代の不妊症診療は、加齢による卵子の妊孕能(にんようのう)喪失との戦いです。卵子の質は実年齢によるところが大きく、年齢とともに増加する胚染色体異常や細胞質低下に起因します。女性年齢が上がれば上がるほど生児を得る確率が著明に低下していくことから、生児を得るためには早期に検査や治療を開始する意義は大きいです。人生百年の時代となりましたが、老化した卵子を若返らせることは不可能です。生児を得ることを希望するすべての女性に、その事実を手遅れとなる前に知っていただきたいと思います。

参考記事:女性の年齢と妊孕能(にんようのう)

参考文献:
1)日本産科婦人科学会:ARTデータブック、2017
 https://plaza.umin.ac.jp/~jsog-art/
2) 生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014

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精液検査

2020年07月08日 | 生殖内分泌

不妊症カップルの50%程度で男性側の原因もあるとされてます。精液検査は、受診されたほとんどの方が受ける不妊症の一般的な検査です。精液量、精子濃度、運動率、運動の質、精子の形態、感染の有無などを検討します。精液は、2~7日の禁欲期間の後に、マスターベーションで全量を採取します。病院で採取するのが望ましいのですが、20℃~30℃程度に保持することができれば自宅で採取して2時間以内に検査すればほぼ病院で採取した場合と同様の結果が得られることが多いと言われています。男性の精液性状は日によって大きく変動するため、悪い結果が出た場合でも再度検査をして問題ないとされることもあります。さまざまな因子が精液所見に関与していますが、なかでも禁欲期間の影響は大きいとされます。精液検査は3カ月以内に少なくとも2回施行し、2回の場合はその平均値、3回以上の場合はその中央値を採用します。

   精液検査の下限基準値(WHO、2010)

乏精子症、精子無力症の治療:
精液所見の程度により、配偶者間人工授精(AIH)体外受精(IVF)顕微授精(ICSI)が検討されます。重度の乏精子症や精子無力症ではIVFやICSIが第一選択となります

薬物治療:
低ゴナドトロピン性の性腺機能低下症ではゴナドトロピン療法で造精機能の回復が見込めますが、そのほかの原因不明の造精機能障害に対する薬物療法は有効性のエビデンスが乏しいです。

外科的治療:
精索静脈瘤に対する外科的治療
無精子症患者に対して、精巣生検で精巣内に精子が確認できれば、顕微鏡下精巣内精子回収法(micro-TESE)ICSIにより妊娠の可能性が期待できます。

参考文献: データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017

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