月の岩戸

世界はキラキラおもちゃ箱・別館
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プルケリマ・6

2015-05-25 06:58:24 | 詩集・瑠璃の籠

黄水晶のような
美しい目をした白い雌猫が
砂の子宮の中から生まれた
ただそれだけで
世界中の女が嘘になった

真珠のように白い毛並みをして
カナリアのような声をしたやさしい猫は
あまりにも美しい
金色の瞳の奥には
鏡のような翅をした
小さな蝶が 震えながら
聞こえないオルゴールの歌で
真実を奏でている

透き通るように白い毛皮の猫が
美しい声で一声歌うだけで
あらゆる女が馬鹿になった
女が馬鹿になると 次に
男が馬鹿になった
男が馬鹿になると
世界が馬鹿になった

あまりにも白すぎる真実を見た時
あらゆるものが馬鹿になって
あらゆる意味を失った
大きな都市の銀色のビルが
倒れもしないのに 倒れている
たくさんの人がいるのに もう誰もいない

虹が空に翻り
雲に紛れて見えなかった白い月が
たまごのように一人の白い天使を産んで
大地に落とす

天使は笛を吹きながら
流れていく風の中に
空っぽにした滅亡の蠅の目を流していく
灰色の死んだ死が 生にとりついて
明日もまた
意味のない人生を知らず知らず生きていく人間の
紙のような命を 少しずつ
小惑星の夕焼けの色に染めていくのだ

夕焼けが見知らぬ太陽を呼び
世界が少しずつ変わっていく音を
猫の目の中のオルゴールが吸い取ってゆく
陰をぬぐい 砂を洗い
星とともに去って行った猫の面影を
空に流して
流行らない流行歌を作る音楽家だけが
気づいてしまった嘘から飛びだしていった
聞こえない音だけを記した
薄い五線紙だけを残して
夕闇の向こうの真実に帰っていった

死よ あともうしばらくのあいだ
白い貝の棺の中に真実を隠し
まだ生きていかねばならぬ者たちのために
苦しい虚偽の衣を纏い
砂の子宮の中で
星のように静かに待っていておくれ

新しい魂が 真実の心が
この世界に再び花園のように
咲き乱れる時まで
静かに眠っていておくれ




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