勿忘草 ( わすれなぐさ )

「一生感動一生青春」相田みつをさんのことばを生きる証として・・・

リトル・ターン

2007-11-19 08:48:08 | Weblog
 ブルック・ニューマン作、五木寛之訳の「リトル・ターン」という本がある。空を飛べなくなった一羽の鳥が、再び飛べるようになるまでの不思議な物語である。以前にも紹介したことがあるが・・・。
 飛行技術に優れた鳥、リトル・ターン(コアジサシ)は、その生涯の大半を空で過ごす。彼は、ある日突然、わけもなく空を飛ぶことができなくなってしまった。それは、彼にとって何もかもが消え去ったことを意味していた。


夢ははるか 青い空へ
いつの日 還る
つばさひろげ 海をこえて
飛びたい 遠く

あぁ その夢は
いまは消えて
ただ 砂に眠る



 地上に降りた彼は、海岸で暮し始める。そこで出会ったすべてが、彼にとっては不思議なものに思えた。夏の数ヶ月を過ごした彼は、ある日ユウレイガニと出会う。

 時間をかけて育んだ鳥と蟹との友情は、距離をおきながらもお互いを思いやり、透明な関係を作りあげる。その友情から、リトル・ターンは様々なことを学んでいく。 

 ある朝、彼は海岸の上に太陽が輝き始めると、自分の影に気が付いた。地上で暮らすことのないリトル・ターンにとって、それは大発見であった。飛んでいる鳥のそばに影はなく、着地したときだけ影の存在に気が付く。

 自分の影を見つめながら、存在しないように見えても何かが存在することを知った彼は、長い翼を風に向かって大きく広げると、自然に空を飛んでいた。

 空を飛べなくなってはじめて、自分の影を発見したリトル・ターンの、奇妙で孤独に感じられた体験は、地上に降り、足元を見ることによって、多くの新しい発見をしたのである。そして友達のユウレイガニが見守る中、再び大空に飛び立ったのだ。


あぁ いつの日か
高く 遠く
あの空に 還る



 全力で走っていると、足もとが見えにくい。足もとが見えないと、小さな石にもつまずく。時には立ち止まり、時にはゆっくりと歩き、足もとを見ることによって何かが見えてくる。休むことも必要だと、リトル・ターンが教えてくれた。

追記

 文中の詩は、カタルーニア地方の民謡に、五木寛之さんが歌詞をつけ、岩崎宏美さんが歌っています。すべての歌詞ではありませんが、渡部篤郎さんの語りによる、この物語のCDの中で、挿入歌として歌われている素敵な歌です。