歩くたんぽぽ

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ジョーカー

2019年11月20日 | 映画
数ヶ月前、映画館で『ジョーカー』の広告を見た時、

『ダークナイト』の人気にあやかって次はジョーカーか、と思った。

でも主演がホアキン・フェニックスと聞いてわかりやすい手のひら返し。

こりゃ本気だな、と。

公開したらぜーーったいに観に行こう!

それで、先日遅くなったけどやっと観に行くことができた。





『ジョーカー』

監督:トッド・フィリップス
脚本:トッド・フィリップス
   スコット・シルヴァー
原作:ボブ・ケイン(キャラクター創作)
   ビル・フィンガー(キャラクター創作)
   ジェリー・ロビンソン(キャラクター創作)
製作:トッド・フィリップス
   ブラッドリー・クーパー
   エマ・ティリンガー・コスコフ
製作総指揮:マイケル・E・ウスラン
      ウォルター・ハマダ 他
出演者:ホアキン・フェニックス
    ロバート・デ・ニーロ
    ザジー・ビーツ
音楽:ヒドゥル・グドナドッティル



「どんな時も笑顔で人々を楽しませなさい」という母の言葉を胸にコメディアンを夢見る、孤独だが心優しいアーサー。
都会の片隅でピエロメイクの大道芸人をしながら母を助け、同じアパートに住むソフィーに秘かな好意を抱いている。
笑いのある人生は素晴らしいと信じ、ドン底から抜け出そうともがくアーサーはなぜ、狂気あふれる<悪のカリスマ>ジョーカーに変貌したのか?
切なくも衝撃の真実が明かされる!(https://www.banger.jp/movie/19053/引用)



昨日だか一昨日だかの記事に、

「『ジョーカー』世界興行収入が10億ドル突破!」と書かれていた。

R指定されている映画では快挙らしい。

ファミリー向けでもなく、世界最大の映画市場中国で公開されていない、

にもかかわらずそれだけ人を魅了するのはなぜだろう。

本当に暗いんだから。



私はその日体調が悪くて夫には、

「映画やめとくか」「すごい落ち込むらしいぞ」と何度も念を押されたのに観に行った。

だから言いづらいのだけど、前半あんまり苦しいもんだから本気で後悔した。

「今日じゃなかった、、、」

これほど観る側のコンディションが重要視される映画他にあるかな。



物語の舞台は言わずと知れたゴッサムシティ。

そこで社会に虐げられた一人の男がジョーカーになっていく姿を描いている。

宣伝ではジョーカー誕生の秘話とか言っていたけど、

映画を観てまずジョーカーが何なのかわからなくなった。

この映画を経ていったい何が誕生したというんだろう。

ジョーカーといわれてパッと最初に出てくるのは、

今は亡きヒースレジャー演じる『ダークナイト』版ジョーカー。

しかし89年のティムバートン監督作『バットマン』に登場する、

ジャックニコルソン版ジョーカーこそが本物だという人も多い。

永遠のダークヒーローとしてダースベイダーと肩を並べるほどの知名度を誇るジョーカーだが、

もはやその実態はなく名優たちが演じたジョーカーがそれぞれの偶像のような機能を果たしているのだろう。

そしてそのどれとも違う今回のホアキン版ジョーカー、素晴らしいというほかない。



ホアキンはこの映画のために1日りんご1個ダイエットをして23キロ減量したらしい。

背骨が浮き上がった後ろ姿が今も目に焼き付いている。

ハリウッド俳優の映画に対する向き合い方ってちょっと尋常じゃない。

アーサーは笑いが止まらなくなる発作のような症状を抱えており、

その耳障りな笑い声が鑑賞後も耳の中でざわざわとこだまし続ける。

そのヴィジュアル面が醸し出すアーサーの繊細さや危うさこそがこの映画の核なんじゃないかとすら思う。



この映画を観て強く感じたのはアーサーが『タクシードライバー』のトラビスによく似ているということ。

社会と自分との希薄な関係性や、少しずつ暴力的になっていく姿がうっすらと重なり、

銃を手に入れて自分の部屋でその銃を弄ぶ場面なんかはもはやトラビスそのものだった。

後から聞いた話によるとやはりこの映画はマーティンスコセッシ監督の、

『タクシードライバー』と『キングオブコメディ』から強い影響を受けているらしい。

ロバートデニーロも出ているしね。

『タクシードライバー』のトラビスのモヒカンは画面の外の人間にとって何かしらの象徴となった訳だが、

『ジョーカー』のアーサーは画面の中の人々の反体制の象徴、カリスマになったという感じかな。

『キングオブコメディ』は観たことがないので、近いうちに観てみようと思う。



一番好きな場面はアーサーが人気番組「マレー・フランクリン・ショー」に向かう道すがら、

ピエロメイクに真っ赤なスーツでキメて階段を一段一段くだりながら踊る場面だ。

映画冒頭から登場する何かの暗喩のような長い長い階段と、タバコの煙、細い体に真っ赤なスーツ。

これは何かを吹っ切った喜びの舞なのか、悲しみの舞なのか、それとももうそこには何もないのか。

あんまりかっこよくて美しくて悲しくて涙が出そうになった。









それからラスト、

やたら明るいBGMにやたら真っ白な病棟、

そこに刻まれる真っ赤な足跡とコミカルな逃走シーンを観て、

その無垢さ加減にまた胸を打たれた。



アーサーに共感したり同情した訳でもない、前半の苦しみはもう耐え難いものだった、

ずーーっと暗い、なのになぜかじんわりまた観たくなる。

こんなダークでシリアスな映画が興行収入10億ドル超えって本当すごいな。

ある意味この時代に合っていたのかもしれないね。

でも間違えて欲しくないのはそこにあるのは共感とか比較できるような凡庸さではないということ。

圧倒的ジョーカーがそこにあるということ。

ぶっちぎりのオリジナリティだ(オマージュは別の話)。

だから「あれはジョーカーになるわ」とか「アーサーがかわいそう」だとかいう雑な共感はあまり聞きたくない。

今回の『ジョーカー』はもっと捻れて絡まった先にあるガラスのように繊細な存在であり映画だ。

私ってこんな押し付けがましかったっけ?てへへ。

まぁいいか、観る前にそう言われて個人的に思うところがあっただけということにしとこう。

なんにせよ面白かった。



もうすっかりやられましたよ。

まさか監督があの最高コメディ映画『ハングオーバー』のトッド・フィリップスだったとはね。

とても意外だったのでインタビュー記事をチェーック!

以下監督インタビュー↓

「実は、もともとはドキュメンタリー映画出身で、
それからコメディ映画を手がけるようになったから、
こうした方向に進むのは自然な流れだったんだ。
『ハングオーバー』シリーズなんて、実はとてもダークな作品で、
すでにその頃からこっちの方向に向かっていたんだよ。
みんな、よくレッテルを貼るよね。
「あいつはコメディ監督だ」とか「彼はドラマ専門だ」とか。
でも、僕にとっては映画作りでは同じ筋肉を使っているし、
他人が思うほど大きな挑戦ってわけではないんだ。」
https://www.banger.jp/movie/19053/引用)


『ハングオーバー』も超名作だし、今度は『ジョーカー』作っちゃうなんてすごい人だ。

キャスティングもとてもよかった。

実は最初のころはマーティンスコセッシも参加予定だったのだとか。

でも時間の関係で一緒に作ることは叶わなかったらしい。



余談だけど、10月の最後の方で映画を観に行くことになって、

『ジョーカー』かダニーボイルの『イエスタデイ』かで迷いその時は『イエスタデイ』を選んだ。

『イエスタデイ』は歌手を目指す青年がある日ビートルズが存在しない世界に迷い込み、

ビートルズの曲を歌ってスターダムに上がっていくという話だ。

最初からストーリーを知っていたわけだが、見事にそのままのストーリーで全く想像を越えないいい映画だった。

いやむしろ想像より平和でぬるくて最高にほっこりした。

反して、『ジョーカー』もだいたいのストーリーはわかっていた訳だけど、想像以上にダークで悩ましくて最高だった。

この白と黒のコントラスト、なかなか味わい深いです。

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