歩くたんぽぽ

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レボリューショナリーロード

2021年01月14日 | 映画
すごい映画を観てしまった。

脱帽。

先日聞いていたYouTubeの配信動画でチラッと触れられていた映画だ。

映画評論家の町山智浩さんはアメリカの今抱える問題について踏まえ、

今必要なのは自分が悪くなくても謝れる姿勢だ、と言っていた。

相手が悲しんだり怒ったりした段階でそれは間違いなんだから、と。

トランプ支持者の多くは自分が悪くても謝れないらしい。

面白い考察だ。

そこでダースレイダーが出してきたのが『レボリューショナリーロード』の冒頭、

主人公のディカプリオが車の中で妻を理詰めしていく場面だ。

妻がいかに間違っているか知らしめるために高圧的に追い詰めていく。

その話を聞いてなぜだかピーンときた。

Netflixにあったので昨日昼食時に何気なくつけてみたらまさかのヘビー級人生映画だったという次第。

監督は『アメリカン・ビューティー』のサム・メンデス。

なーるほど。

個人的には近年観た映画でベスト10に入りうる名作だった。

ただ感情移入しすぎると、自分の大切にしている幻想をぶち壊されるかもしれない。

とってもおすすめだけど、責任は取らないよ。

では以下ネタバレあり。





『レボリューショナリーロード』

監督:サム・メンデス
脚本:ジャスティン・ヘイス
原作:リチャード・イェーツ『家族の終わりに(英語版)』
製作:ボビー・コーエン、ジョン・N・ハート、サム・メンデス、スコット・ルーディン
製作総指揮:ヘンリー・ファーネイン、マリオン・ローゼンバーグ、デヴィッド・M・トンプソン
出演者:レオナルド・ディカプリオ、ケイト・ウィンスレット
音楽:トーマス・ニューマン
公開年:2008(アメリカ)



解説
『タイタニック』で世紀の純愛を演じたレオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットが11年ぶりに競演。
『アメリカン・ビューティー』のアカデミー監督サム・メンデスが描く、苦渋に満ちたホームドラマ。

ストーリー
1950年代。
コネチカット州の閑静な住宅街“レボリューショナリー・ロード”に住むフランクとエイプリルは、
子供2人に恵まれた理想の夫婦と思われていた。
ところが実際の彼らは、かつての夢と現実とのギャップに不満を抱えていた。
そんなある日、パリへ移住して新しい生活を始めようとエイプリルが提案し、フランクも同意する。
出発の準備を進めていたところ、フランクに昇進話が持ちかけられ、エイプリルの妊娠も発覚する。

(映画専門チャンネル ザ・シネマより引用)



いやぁ面白かった。

ちょっとだけ覗いてみるつもりが、最後まで見てしまった。

パッケージデザインを見て素敵な恋愛映画だと思って観たら痛い目を見る。

あのタイタニックカップルを起用したのは監督の嫌がらせあるいはジョークなのかもしれない。

ライムスターの宇多丸さんは、

タイタニック的恋愛を素敵だと思っている人ほど打ちのめされるというようなことを言っていた。

またカップルでは観ないほうがいいとも。

これには大いに賛成。

これを現実的というかは別としても、夢にすがることが悪いことだとも思わない。



前述した町山智浩さんはこの映画を「シャイニングみたいな映画」と評していたし、

宇多丸さんのラジオ番組では公開当時リスナーから「ホラーのよう」と言われていた。

でも長年結婚生活を送っている女性からしたら印象はだいぶ違うのでは?と思った。

私にはひたすら眩しくて虚しくて悲しい映画だった。



この映画では1950年代中頃のアメリカという時代背景が重要だ。

同じような背広にハットを被った通勤者たちの大群が何度も印象的に描かれている。

大量生産される人の波、その顔はまるで無個性で無機質。

その中に主人公のフランク・ウィーラーもいる。

彼は、あの時代を象徴するようなビジネスマンなのだろう。

しているんだかいないんだかよくわからない仕事を済ませ可愛い子と浮気してまた電車に乗って帰ってくる。

妻エイプリルはレボリューショナリーロードにある家の中で日々家事に追われている。

50年代のアメリカは今のアメリカほど女性の社会進出は進んでおらず、

女優を目指していたエイプリルもまた妊娠を機に家庭に入ることになった。

家族がいて良い場所に住んで素敵な夫婦ともてはやされ順風満帆なのかと思いきや、

彼女は家という檻の中に閉じ込められ閉塞感の中で窒息しそうな日々を送っている。

その中で見つけた唯一の希望がパリに行くことだった。

「ここではないどこかへ」。

あの住宅街の名前がレボリューショナリーロードというのはなんとも皮肉な話だ。

パリ行きに湧くウィーラー夫妻の幸せそうな姿が描かれるほど結末が暗くなるのは予想できた。

エイプリルが輝けば輝くほど、観ている者の心に不安が募っていく。

なんたってタイトルが『レボリューショナリーロード』だからね。

後半、継ぎ接ぎだらけの張りぼてな幸せがじわじわ正体を現してくる。



それでもこの映画ががどこかロマンチックに見えるのは子供の存在が希薄だからではないだろうか。

家の中にはいつも子供がいない。

だからフランクの誕生日に初めて子供たちが登場した時は面食らった。

この人たち子供いたのね。

なんだか二人とも自分のことばかりなのだ。

強烈に男であり女なのだ。

今思えばそれが少し怖いといえば怖かったかもしれない。

でも必死に人生を取り戻そうとするエイプリルが狂っているだなんて思わない。

自分勝手で非現実的で幼稚だろうがパリ行きを実現させて仕舞えばよかったんだと私は思う。

どう転んでも無理だったから物語になるんだけどね。



私が怖いと思ったのは隣の家の奥さんだ。

ウィーラー夫妻にパリ行きを告げられた夜、自分の夫が夫妻に対し否定的な意見を言うと、

彼女は安心して涙まで流し夫に寄り添うのだが、そのシーンが一番ゾッとした。

他人をそれほど否定する必要があるのだろうか、

そうやって消極的に自分を守っているのだろうか、と。

それとも妻は自分の夫がエイプリルに羨望の眼差しを向けているのを知っていて、

だからこそ彼らの判断に否定的な夫に安心した、とか。

いや、そんな単純な感情が描かれているとは思えない。



最後の喧嘩のシーンはすごかったね。

こっちまで息が詰まってくる。

フランクのちゃんと話し合おうという姿勢は「正しい」ことなのだろう。

でもそれは一方的だと相手を苦しめ追い詰めるだけだ。

それに多分エイプリルからしたら話し合いはもう何の効力も持たない。

エイプリルの絶望は根っこが深い。

今更話し合ったところで解消されるわけもなく正しい夫に納得するしか道は残っていない。

パリ行きは最後の最後の砦だった。

パリ行きに夢を見すぎたしすがりすぎた。

それが御破算ともなれば均衡は保てなくなる。

フランクも気の毒ではある。

心を閉ざした妻を前に彼ができることが何かあったのだろうか。

フランクもまた追い詰められ絶対に言ってはいけない一言を言ってしまった。

あれが引き金だったのだろうと思う。

魅力的で凡庸でアンバランスな夫婦だった。

ディスコ?でエイプリルが隣の旦那に言った一言が印象的だった。

「私が夢見てた未来、まだ思い切れないの、前も後ろも行き止まり」



喧嘩の翌朝は打って変わって美しく静かな朝だった。

朝日の差し込む整然とした部屋の中が淡々と映されていく。

フランクが起きるとエイプリルが朝食を作っていた。

妻に「スクランブル?目玉焼き?」と聞かれて、

泣きそうな顔で「わからない、もし簡単ならスクランブル」と遠慮がちに答える様がもう気の毒でね。

やけに優しいエイプリルを見て、ああ決意したんだな、今日家を出て行くんだなと思った。

フランクはやはり軽薄で鈍感であまりに素直な夫だった。

全てを置いて家を出て行く以上のバッドエンドが用意されているとはね。

もう衝撃で涙が止まらなかった。



レボリューショナリーロードに住む人々はみんなどこか壊れている。

それとも社会の方が壊れているのかな。

唯一まともなことを言っていたのは精神病にかかったヘレンの息子だった。

まともが何かは判然としないので感覚的な話だけど、昔誰かが言っていた言葉を思い出す。

「社会ってのは、まともな人ほど心を病みやすい場所なんだよ」。



ヘレンの息子は『シェイプ・オブ・ウォーター』のマイケル・シャノン。

やはり存在感がすごい。

個人的には若かりし(というほど若くもないけど)デビット・ハーバーが出てきて嬉しかった。



とにかく強烈な映画だった。

でも重い映画によくある、面白かったけどもういらないという鑑賞後の拒否感はない。

不思議なのだけど、重っ苦しくないんだよな。

また観たいと思えるのは映像が明るくて綺麗だっらからかな。

思い返してみれば結構笑った記憶もある。

製作者側のエゴイズムを感じなかったというのも大きいのかもしれない。

くどい演出がなくスムーズに見れる。

内容だけに他の全ての要素をそぎ落とし洗練させたような印象を受ける。

『アメリカン・ビューティー』も結構好きだしサム・メンデスと相性いいかも。


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