ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

悲しみのミルク

2011-04-01 23:29:10 | か行

主人公が暮らす
砂ぼこりの乾いた土地と

主人公が働く邸宅の
緑豊かな庭のコントラストが
悲しいほどに美しすぎる……。

「悲しみのミルク」75点★★★★


南米ペルーの貧困地域。

ベッドに横たわった老女が
悲しい歌を歌っている。


彼女は
1980年代から約20年間にわたって
ペルーを恐怖に陥れた
革命組織「センデロ・ルミノソ」の

恐ろしい蛮行に合っており
その辛い記憶を歌っていたのだ。


そんな母の恐怖の記憶を引き継いだ
美しい娘ファウスタは

体内にあるものを潜め
ひっそりと目立たぬように生きてきた。


しかし母が死に
ファウスタは白人家庭のメイドとして
働くことになるのだが――。


年老いた母の
衝撃的な歌から始まるこの映画。

ペルーというと
インカ帝国やマチュピチュへの憧れや

鮮やかな色の民族衣装など
フォークロアなイメージしかなかったので

またしても
「同時代にこんな恐ろしい出来事があったのか!」
という衝撃がありました。


しかし本作は直接的に
テロの恐怖や蛮行を描くわけでなく

美しく静かな映像のなかに
その怖さを
ひっそり忍ばせているところがいい。


絵作りにも
ハッとさせられるものがあり

34歳女性監督の感性の豊かさと深みに
感心しました。


あまり知らない文化圏の話であることや
ムワッと生温かい空気
緑豊かな庭、お手伝いさん……
などから連想したのか


ベトナム映画「青いパパイヤの香り」に
初めて出合ったときの感覚を
思い出したりして。


それにしても
ファウスタの秘密は

女性なら誰もが
「うっ」と共有できるもの。


観ている間じゅう
しくしくと苦しみを
共有するような感覚がありました。

これは
男性にはわからないだろうなあ。


しかも
実際に現地で行われていることだそうで
悲しい歴史はまだ続いているんです。


ほんと映画って
勉強になるよ。


★4/2からユーロスペースで公開。ほか全国順次公開。

「悲しみのミルク」公式サイト
コメント
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