公開相次ぐ音楽映画のなかで
これが一番、おもしろかったですね。
「マーラー 君に捧げるアダージョ」73点★★★★
あの「バクダッド・カフェ」(87年)の監督とその息子が
共同監督で
天才作曲家を描いた作品です。
1910年、夏。
ウィーンの宮廷音楽監督として成功している
グスタフ・マーラーは
オランダで休暇中の
精神科医フロイトを訪ねる。
マーラーは19歳年下の美しい妻アルマを
溺愛しているが、
先日、なんと
アルマが不貞を働いていたことがわかったのだ。
マーラーはフロイトの催眠誘導で
自分と妻の関係を
振り返りはじめるが――
冒頭からエモーショナルなムードで期待大。
思ったとおり
退屈な伝記映画にあらず
男女の心理や芸術家の業に迫るドラマで
見応えがありました。
「起こったことは史実。でも、どう起こったかは創作」という
冒頭のことわりも洒落ている。
マーラーがフロイトと会っていたことや
アルマが不倫してたことなどは
史実として残っているけど、
その中身やそれに至った心理は
想像ですよ、という。
その「想像」をうまく飛翔させたのが
この映画の成功ポイントですね。
偉人や歴史モノって
たいてい史実に縛られて、
教科書的でつまんなくなっちゃうから。
監督たちは
マーラーがものすごくきっちりな
生真面目さんであること、
エッチなことをタブー視しつつも
実は頭のなかで散々妄想してる、などを
生き生きと描写し、
それで
マーラーはフロイトに
「その抑圧があなたを蝕むんですよ。がんと同じくね」と
言われちゃったりする(笑)
さらに
妻アルマの人物像もしっかりと作られ、
自分も芸術家になりたかったのに
天才をサポートする人生を選んだ
その苦しみも身に迫ってくる。
彼女の叫びは本当に悲痛でしたね……
この時代は
「女」ゆえに抑圧されたという話も多いけど
アルマの場合はちょっと違うんで
男女、または夫婦間の役割や、
調和と、個の貫きかたのバランスなど
いまに通じるもの多いですね。
★4/30から渋谷ユーロスペースほかで公開。
「マーラー 君に捧げるアダージョ」公式サイト