ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

桜の樹の下

2016-03-29 23:46:27 | さ行

田中圭監督って女性なんです。

しかも87年生まれかあ。
うへえ。いろいろやられた・・・。

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「桜の樹の下」71点★★★★


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川崎市の、とある市営団地。
1973年築のここは、いまや住人の7割が高齢者で単身者。

川崎出身の監督が
そんな団地に暮らす4人の単身高齢者に焦点を当て
その暮らしぶりに
カメラを向けたドキュメンタリーです。

はっきりいって
すごく好きなテーマだけに
若い監督が、ここに踏み込んだことに
「おお!やられた!」と思った。
(やられたと思ってばっかだな。苦笑

正直、序盤のやりとりこそ
「踏み込みが足らないんじゃないか?
とか思ったけれど、

いやいや、進むほどに
思ったより長い時間をかけて取材対象と関係を築き、
じっくり撮っていることがわかって驚きます。


おそらく監督は取材者として押しが強いタイプではないけれど
その分、足を運び
「すすす」と、すり足で相手の領域に入り
そこからドラマを引き出すタイプなのかな。
そして結果、魅せる作品になっていると感じます。


特に、夫に長年愛情を注ぎ
夫亡き後はインコに愛情を注いできた女性(79歳)
ゴミ部屋に暮らす“困った女性(71歳)”の
世話を焼いてやるようになる展開は、思いがけないものだった。

誰かの面倒を見ることができる人と
誰かに世話を焼かれないと、生きていかれない人。
人には適正と役割がある――と、改めて思わせるエピソードでした。

ほかにも
お弁当の配達業をする72歳の男性を見ながら
「こういう仕事もあるのか・・・。この単価では厳しいけど、将来できるかな。
にしても、安くね?」とか
少しの希望や、情報をいただいたり。

彼らはいわゆる“下流老人”であり
経済的にも、健康面でも厳しい状況にある。

しかし、彼らの多くは家をキチンと片付け
「人に迷惑をかけたくない」という矜持と
品位を持っているように思える。

これは日本人の持つ、ある種の美徳なんだろうか。

彼らの小さな暮らし、ミニマムな世界に
悲壮感を感じないんです。

少なくとも、この映画は
そう伝えている。


ゆえに
これは自分にとっても、おそらく都市に暮らす多くの人にとっても
最終的に行き着く、少し先の未来なのだろうと、
静かに思いながら考えられた次第。


その美徳、美学にあぐらをかき
弱者を切り捨てる政権は許せないけれど
実際、そこで生きる“術”を先輩に見せてもらうことは
ワシにとっても励ましになったし、
映画を見る人にとっても、なにかの希望になるのでは、と感じました。


★4/2(土)からポレポレ東中野ほか全国順次公開。

「桜の樹の下」公式サイト
コメント
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