ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

永い言い訳

2016-10-09 20:38:01 | な行

西川美和監督の才能は
やっぱりすごい。


「永い言い訳」82点★★★★


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人気作家としてバラエティ番組にも登場する幸夫(本木雅弘)は
美容師の妻(深津絵里)と20年来の夫婦。

しかし、その関係は
静かに冷え切っていて

妻が友人とスキー旅行に出かけた夜も
幸夫は恋人(黒木華)との逢瀬を楽しんでいた。

が、翌朝。

幸夫はスキー旅行のバスが事故を起こし、
妻が亡くなったことを知る――。


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「ゆれる」「ディア・ドクター」の
西川美和監督の新作。

「ディア・ドクター」もかなり好きなんですが
この映画の、どこがそんなにすごかったのか。


「口に出せないけど、実際、あるだろうな」に
淡々と斬り込んだところですね。


妻がバス事故で亡くなっても涙も出ない夫――というのもそうなんだけど

それよりも
男性にとっての「子ども」「子育て」に
こんな風に斬り込んだ作品は初めてじゃないか?、ってところが大きい。



妻を亡くした主人公・幸夫は
妻と一緒に亡くなった、妻の友人のダンナと知り合い
彼の二人の子どもの世話をするようになるんです。

子どものいない幸夫と
子どもたちとのやりとりは微笑ましく、可笑しく

彼らに翻弄されながらも
幸夫は「癒やされてく」んですよね。

でもそんな幸夫を
自身も若くして子持ちという設定の
マネージャー(池松壮亮)がズサッと斬る。

「子育ては男の免罪符ですから。
自分がイヤな、ダメなヤツってことを帳消しにしてくれる逃げ場ですから」。

これ、利くよね。

「イクメン」とチヤホヤする世の中に、
冷や水を浴びせるような覚悟。
いい話、では終わらせない毒味が、ピリッとくるんですよ。


実はこの「ピリッ」は個人的に経験したことがある。

もう7年くらい前かなあ
若くして3人の子持ちとなったカメラマンに
「すごいねえ!いまの男の人は(育児もするし)エライよねえ」と言ったら
彼がこう返してきたんですよね。

「自分は(そういう世の中の好印象)『どうかな・・・』と思ってるんです。
子育てを言い訳にして、仕事から逃げてる男も多いから」って。

それ聞いたとき、ハッとした。
「やっぱり、そういうのあるの?」という共感もちょっとあって(笑)


実際、見てると子どもたちと一緒の幸夫さんは
確かに幸せそうだし(笑)
それでいいじゃん、と思いそうだけど
でも、そこから先に行かないと
問題は解決しない、と西川監督は厳しい。

さまざまな映画は
「喪失から立ち直る」手段をいろいろと提示してくれるけど
そこをもう一歩考えさせようとしている、というのが
すごいと思いました。


そして
「海よりもまだ深く」でもそうだったけど
そうやって映画に冷やかな視線をもたらす若者役に
池松壮亮氏はホントにハマる。
いいですねえ!(笑)


★10/14(金)から全国で公開。

「永い言い訳」公式サイト
コメント (3)
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