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ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ハンナ

2011-08-26 23:36:24 | は行

可憐な少女と暴力。
ありがちな素材を、どう料理するか。

「ハンナ」69点★★★☆

「ラブリー・ボーン」のシアーシャ・ローナン主演です。


フィンランドの雪山で
鹿に矢を放つ、一人の少女がいる。

ハンナ(シアーシャ・ローナン)、16歳。

父(エリック・バナ)と二人きりで暮らした彼女は、
外の世界も人間も知らない。

彼女は父に兵器として
訓練されてきた少女だった。

そしてついに彼女が、旅立つときがきた。

標的はただひとつ。
CIA捜査官のマリッサ(ケイト・ブランシェット)。

なぜハンナはこんなに強いのか?
なぜ、狙いはマリッサなのか?
そこにはハンナの出生の秘密が隠されていた――。


超人的な能力を持ち、兵器として訓練された
見た目いたいけな少女を主人公にした
バイオレンス・アクション。

少女と暴力、というギャップからネタとして
繰り返される素材ではあるけれど


ちょっと変わった調理法で
おもしろい味の作品でした。


少女がためらいもなく
鹿を狩る冒頭から、

とにかく「生体を倒す」ということが
象徴的に描かれるんですね。

残酷だな、動物かわいそうだな、と思っていると、
その感情が重要な伏線になっていました。


テクノやハウスがガンガン流れるなかで
少女がテキパキと敵を倒すシーンは
なかなか爽快。
(アクションのコーディートは「ボーン」シリーズを手がけた人!

外の世界を知らず、無菌で育った少女の
初々しく世界をみる目線での画作りや、

さびれたベルリン郊外などが象徴的で、
雰囲気と画作りにこだわりが見えて悪くない。


またシアーシャ・ローナンは声も可愛いんで、
ハードなアクションが、よりギャップが大きくなる。

ただ、正直「すげー深い」という話ではないので(笑)
若干、苦手な人もいるかもとは思います。


★8/27から新宿ピカデリーほか全国で公開。

「ハンナ」公式サイト
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ホームランが聞こえた夏

2011-08-25 21:29:33 | は行

チョン・ジェヨンって
どうしても島田雅彦氏に見えちゃうんだよなぁ……(笑)。


「ホームランが聞こえた夏」70点★★★☆


韓国の実話をもとにした作品です。


中学時代、天才ピッチャーだったミョンジェ(キャン・ギボム)は
ある日突然、聴覚を失ってしまう。

ろう学校に進学した彼だが、
自分の運命を受け入れることができず心を閉ざし、
野球から遠ざかっていた。


そのころ、プロ野球界のスター投手だった
キム・サンナム(チョン・ジェヨン)は
不祥事を起こし、
償いのため、ろう学校の野球部をコーチを命じられる。


耳の聞こえない弱小チームのコーチなんて、と
やる気ゼロのサンナムだったが

あるとき、偶然ミョンジェの投球を目にして――?!


「イイ話」なんだけど、
それに終わらず。

プッと笑わせる息抜き上手で、
韓国映画のいいところをちゃんと生かしてました。

やる気のないコーチ役、チョン・ジェヨンと衝突ばかりする
女教師役のユソンとの掛け合いや

彼のマネージャー役、チョ・ジンウンが
かなりいい。
笑えます。

しかも
「シルミド」の監督だけあって
ドラマ作りもしっかりうまいですね。


野球の話だけでなく、
「耳が聞こえないんだから」と
どこかで甘やかされ、世間から匿われていたであろう、
ろう学校の少年たちが、

社会でどう立ち、どう生きるべきか、
そして彼らを指導者は、どう教育すべきか、

そして健常者といわれる我々が
彼らにどう関わるべきかまでを
暗に込めてあり、なかなか深かったです。


ろう学校の生徒たちも
「アイドルみたいにハンサムですねえ」という
劇中のセリフに違わず、

みな紅顔、純朴そうな美少年たちばかりで
見た目にも楽しいです(笑)

ただ、野球シーンが丁寧すぎて
長いのが少々玉に傷。

2時間24分は、もう少し削れただろうな、と
思ってしまいました。

とかいって、ちゃっかり
ポロリ泣いちゃったけどね~~。


★8/27からシネマート新宿、シネパトス銀座ほか全国で公開。

「ホームランが聞こえた夏」公式サイト

発売中の『週刊朝日』9/2号「ツウの一見」で
金修琳(キム・スーリン)さんに
この映画についてお話を伺ってます。


修琳さんは、耳が聞こえないながらも
4カ国語を話す、パワフルで美しい女性。

彼女の著作
『耳の聞こえない私が4カ国語をしゃべれる理由』(ポプラ社)が
ホントにおもしろくて、勇気が出る!

「ツウ」とともに、ぜひ読んでみてください。
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ゴーストライター

2011-08-24 22:52:41 | か行

映画好きなら、このかっこよさ
わからないはずはない!


映画「ゴーストライター」77点★★★★


ロマン・ポランスキー監督の新作です。


その人に成り代わって本を書く
ゴーストライターの僕(ユアン・マクレガー)は

元英国首相ラング(ピアース・ブロスナン)の
自叙伝を書く仕事を依頼される。

前任だったライターが数日前、
突然亡くなったのだという。


気乗りしないまま
しかし、
高額の報酬を提示されたゴーストは
ラングが滞在する島へフェリーで渡る。

出迎えたのは
専属秘書・アメリア(キム・キャトラル)。

そしてアメリアとあきらかに折り合いの悪い
ラングの妻(オリヴィア・ウィリアムズ)。


しかたなしにラングのインタビューを始めたゴーストだが、
ある問題が起きてしまい――。


ミステリ心をかきたてる
冒頭シーン、
そしてラストの絵が素晴らしい!

心に刻まれる
最高の映画的ワンシーンです。


ポランスキー監督は原作を読んで
「まるで(レイモンド・)チャンドラーのようじゃないか」と
賞賛したそうで、

わかる、わかる!それだ!


フェリー、孤島、曇天、そして雨、
写真の裏にあるヒント……など、

現代を舞台にしながらも
まるで古本をめくっているような、
古典的ミステリーの芳醇な香りに包まれている。


ハードボイルド調でありつつ、
ユアン・マクレガーのキャラクターが醸し出す
適度な軽さと柔らかさがあり、

所々にユーモアがあり、
試写室でも、かなり笑いが起きていました。


「SATC」のサマンサで有名な
キム・キャトラルも最高にハマってた!

にしても、最近気になるのは
ピアース・ブロスナン。

「リメンバー・ミー」でもいい味だったけど、
うまい具合におやじ臭と、くたびれ感が出てきている。

完全に新境地に来ましたね。

★8/27からヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で公開。

「ゴーストライター」公式サイト
コメント (4)
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日輪の遺産

2011-08-23 23:56:15 | な行

流血の少ない、静かな戦争ものは好きです。

「日輪の遺産」66点★★★


1945年、8月。

終戦間際の日本で
「マッカーサーの財宝を隠匿せよ」という
国家の重要機密を託された、3人の軍人。


温厚で冷静な少佐(堺雅人)と、
理知的な中尉(福士誠治)、
唯一、戦地経験のある軍曹(中村獅童)。


そして彼らの任務を手伝うことになったのは
20人の女学生たちと
彼女たちを率いる教師(ユースケ・サンタマリア)だった。

2011年のいま
久枝(八千草薫)が当時を振り返り、
その秘密を語り出す――というお話。


浅田次郎氏原作。


戦争話なのに怒号や銃声もなく、
抑制が効いていて、品がありました。

品、はおおむね、
出演する八千草薫さんの印象って気がしますが。


「財宝」とかいうんで
もっと派手なサスペンスかと思ったんですが、

まったくそういうものではありませんでした。

でも、小さい規模なのがかえっていい感じ。


見たあと、すれ違う老婦人に
「こんな過去があってもおかしくないんだ」と
ふと思ってしまうような
不思議な感覚が残ります。

それだけ
戦争と現代をうまくつなげた証拠でしょう。

中村獅童氏も、久々に丈に合った印象的ないい芝居。


ちなみに本作は、あちこちの試写室でも
おおよそ70代上あたりの方々の会話で
「いいね」「よかったよ」と評判になってました。


ただ、おおかたの展開が見えたあたりから
終幕までが長すぎますね。

あと30分縮めたら美しかったな。

★8/27から全国で公開。

「日輪の遺産」公式サイト
コメント (3)
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あしたのパスタはアルデンテ

2011-08-22 21:52:50 | あ行

中盤からグィーンとおもしろさが加速する!

「あしたのパスタはアルデンテ」74点★★★★


最初「アルデンテな男たち」の名で
イタリア映画祭で上映され、好評だった映画です。


現代の南イタリア、プーリア州の町。

パスタ会社を営むカントーネ家の次男は
家族にある告白をしようとしていた。


ひとつは「家業を継がず、作家になりたい」こと。

そしてもうひとつは
「自分がゲイであること」。

そして、いよいよ家族が集まる宴の席で
それを発表しようとした矢先、

長男が立ち上がってこう言い出した。

「僕はゲイなんです」

……うん、そう、ゲイ……
え?ええ??兄さんも?!

思わず二度見?の仰天展開に一族は大揺れ。

さあ、どうなる?!


南部の古風さを残す一族に起こる騒動を
たっぷりのワインと食事で描く、ドラマ。


普遍の家族ドラマ要素をちりばめ、
ある部分は軽やかなコメディに、
ある面はシリアスに、と楽しませてくれます。


しかも
最初はまあ平均的な
メロドラマかなと思ったんですが、

中盤のある出来事が、これまた爆笑もの。

グィーンとおもしろさが加速しました。

フェルザン・オズベテク監督は
イタリアのアルモドバルといわれているそう。

セクシャリティの共通点もありますが、

おなじみ『週刊朝日』8/26号「ツウの一見」でお話を伺った
NHK「テレビでイタリア語」講師の
鈴木マリア・アルフォンサ先生(美人!)も
おっしゃってました。

いかにもイタリア的な家族の肖像でありながら、
トルコ出身の監督なので
ベッタベタのイタリアンというよりも
適度な客観性がいいらしいです。

笑えて、ちょい切ない
気の利いた一品です。

★8/27からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「あしたのパスタはアルデンテ」公式サイト
コメント (2)
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