ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

風にそよぐ草

2011-12-16 23:34:54 | か行

89歳、アラン・レネ監督の新作です。

「風にそよぐ草」60点★★★☆


中年女性マルグリット(サビーヌ・アゼマ)は
買い物中にひったくりに合ってしまう。

彼女の財布を拾ったのは、
初老の男ジョルジュ(アンドレ・デュソリエ)。

財布にあったマルグリットの免許証の写真を見て、
彼のなかの何かが動かされた――。

翌日、財布を警官(マチュー・アマルリック)に届けると、
マルグリットから
お礼の電話がかかってきた。

「会いたい」とほのめかすジョルジュを
マグリットはすげなくあしらう。

が、ジョルジュは彼女に毎晩電話をかけるようになり――?!


アラン・レネ監督といえば
やっぱり
「去年マリエンバートで」(61年)だなあという番長。

あれもよくわかんないような
でも、なんか心に残響する映画でしたが、
本作の余韻もそんな感じです。

でもあれから、え?50年?!

すごいなあ……。

本作は
映画愛に溢れ、かつ人を食ったような遊び心が
たんまり詰まっていて、

全編にコミカルなナレーションが入り、
音でもたくさん遊んでて、
「ニヤリ」「クスッ」の連続。


洒脱さがあるかと思えば、肩すかしもある。
まあとにかく大人の映画です。


主人公も
いいかげん人生知ってそうな歳して
けっこうグズグズなところがあったりして、

「たいした主人公でなくとも、人生は劇的だよ」と
言ってるような逆説的感覚に陥りました。


さらに
マチュー・アマルリックに、アンヌ・コンシニ、
エマニュエル・ドゥヴォスと

いいフランス俳優、女優を揃えておいて
そうたいした扱いもせず(笑)
それもオトナだなあとか。


ただ、あんまりオトナすぎて
ワタクシなんぞには
まだその面白さが存分に理解できてないようです。

精進!

★12/17(土)岩波ホールほか全国順次公開。

「風にそよぐ草」公式サイト
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ブリューゲルの動く絵

2011-12-15 23:19:19 | あ行

摩訶不思議な映像体験ができます。

「ブリューゲルの動く描く絵」58点★★★


16世紀フランドル絵画の巨匠ブリューゲルが描いた
「十字架を担うキリスト」。



この絵の中に入っていき、

画家自身の案内で、
描かれた人々の生活を垣間見たり、
絵に隠された意味を知ったりする作品です。


ブリューゲルという人は
ご覧のとおり
非常に多くの登場人物を絵の中に配し、
そのひとつひとつにストーリーや謎があるような
「読み解く」愉しみのある作家だそう。

なので、こういうアプローチに
最適なのかもしれません。


有名な絵のなかに入って、
固まった人と動いている人が混在するビジュアルが
まずおもしろい。

手前にいる聖母(シャーロット・ランブリング)や
奥の風車小屋の夫婦の暮らしぶりが描かれ、

さらに
ブリューゲル役のルトガー・ハウアーが、
画家独特の遠近法などを、
絵の狙いと秘密を自ら解説してくれて、

そして次第に絵のテーマも
明らかになっていく、ということです。


なかなか興味深い映画なんですが、
ただストーリーはあるようなないような。

人々の暮らしはほぼ無声で描かれ、
初めてセリフが出てきたのは30分後だし(笑)

なんで
芸術性高いんですが、
正直、映画としては退屈かもしれない。

監督のレイ・マイェフスキ氏は
「バスキア」(95年)の脚本も手がけた人ですが

最近はビデオアーティストとして
この映画のような試みを
美術展などでインスタレーションとして発表しているそう。


確かに同じ1800円でも
入場料として払って、美術展のなかで見るほうが
しっくりくる作品かもしれません。

★12/17(土)から渋谷ユーロスペースで公開。ほか全国順次公開。

「ブリューゲルの動く絵」公式サイト
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無言歌

2011-12-14 22:06:05 | ま行

1960年、中国で起こった事実を描いた作品。

しかしタブーであり、
本国では上映されることはないであろう、と
監督は言っているそうです。

……中国って・・・・・・!


「無言歌」70点★★★★


中国インディペンデント界で
ドキュメンタリーの実力派として知られる
ワン・ビン(王兵)監督、初の長編劇映画です。


映画の背景を簡単に言うと

1956年、毛沢東は
「自由な批判を歓迎する」と言ったくせに、
その数ヶ月後、批判した者を逮捕し、ゴビ砂漠の荒野に収容した。

本作は1960年に
その不毛の大地に送られた人々の過酷な日々を、
証言を元に再現したものです。


彼らは土の下に掘った洞穴で、冷たい土のベッドに眠り、
ネズミを潰してお湯で煮たりして、
なんとか生きながらえている。

慢性的な食糧難で、
夜の間に1人また1人死んでいき
朝になると布団にくるまれて、死体が運び出されていく。

でも、もうそんなこと日常で
誰も驚かない。

しかし
なにがもっとも悲惨かって、
生産的なことが何も無いことですよ。


彼らは名目上、開墾の労働をさせられているんだけど、
こんな荒野をいくら耕したって
何にもならないのは誰の眼にも明らか。

なので
監督する側もやる気ゼロ。

究極のいやがらせって
こういうことだろうな、って思います。


終始、悲惨で
土くれ土まみれで、
何一つよきことは起きない映画なんですが、

その状況を延々見ていると、
そんな異常事態が慢性になっていき、

「悪いことしかないんだったら、もういっそ何も起こらないでくれ」と、
つまらない日々にさえ
妙に安心感を憶えはじめてしまうんですねえ。


教養があり、おそらく志のあった人々が、
政治的な話をするでもなく、
食欲に支配され、ただ眠る、その姿に
真実の「生きる人間」を見る。

そんな映画です。

最近の中国のいわゆるメジャー映画は
はっきりいって
全然おもしろくない。

そんななかで
唯一光を放つのは、こうした
インディペンデント系だと思います。
(香港・フランス・ベルギー合作映画だけどね)


★12/17(土)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。

「無言歌」公式サイト
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サラの鍵

2011-12-13 22:16:45 | さ行

しみた。いい映画だった。

「サラの鍵」80点★★★★


1942年、パリ。
フランス警察によるユダヤ人一斉検挙が行われたその日、

ユダヤ人の少女サラ(メリュジーヌ・マヤンス)は
両親とともに、収容所に連行されてしまう。

が、彼女には決して言えない秘密があった。
納戸に弟を隠して、鍵をかけたのだ。
「すぐに戻ってくる」と約束して……。

そして現代のパリ。

ジェーナリストのジュリア(クリスティン・スコット・トーマス)は
雑誌で1942年の事件の特集記事を書くことになり、
思わぬことから、
サラの物語を知ることになる。

それは実は自分にとっても
無関係ではない出来事だった――?!


悲しい話ではあるけれど、
見てよかったとつくづく思えた1本です。

映画「黄色い星の子供たち」でも描かれた
1942年の事件がベースで、

「ナチス映画」は悲劇的という
先入観もあると思うけれど、
そう思わないで、まず見て欲しいなあと思うんです。

意外に鑑賞後感が、想像と違うと思うから。


本作のうまい点は、現代に比重を置き、
1942年の事件へと時代を交差させていくところ。

この交差が絶妙なので、
まずミステリーとしてのおもしろさがある。

サラがどんな運命を辿ったのか?
観客はジュリアとともに
その謎を紐解いていくことになり、
これがけっこう意外な展開を見せたりする。

また
現代を生きるジュリアの抱えている問題や、
日常にリアリティがあるので

サラの物語が単なる「昔ばなし」でなく、
我々の時代と地続きにあった現実なんだ、ということを
ズシンと感じさせてくれるんですねえ。

あらゆる過去は確実に、
いまを生きる“自分”と同じ線上にあったんだ、という

当たり前でも、意外に実感できてないことを、
改めて
ハッと気づかせてもらった感じでした。


原作は全世界300万部のベストセラー小説だそうで、
そもそもの骨格が非常にしっかりしているんですね。


過去を掘り返すことは、必ずしもいい結果をもたらさないかもしれない。
それでも悲劇で死んだ「顔のない人々」に
顔を与える作業は尊いもの。

ジュリアの行動を見ながら
強くそう思いました。

本作の意味は
まさにそこにあると思います。


★12/17(土)から銀座テアトルシネマ、新宿武蔵野館で公開。ほか全国順次公開。

「サラの鍵」公式サイト
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オジー降臨

2011-12-12 20:28:17 | あ行

えーと、ヘヴィ・メタルなんて
全然知りませんが
おもしろかった!(笑)

「オジー降臨」71点★★★★


「ブラック・サバス」を結成し、ヘヴィ・メタルを生み出した
イギリス出身のオジー・オズボーン(63)。

還暦を迎えた彼に
3年半密着したドキュメンタリーです。

生誕からサバス結成の経緯、
いまだ現役な現在までもれなく網羅し、

本人のインタビューに
家族や元メンバーの証言もたっぷりで、
(ポール・マッカートニーも出演!)

私のような初心者には大変おもしろかった。

最近、ミュージシャンのドキュメンタリーというと
ビートルズばっかりだったしね。


クスリと酒に溺れ続けた壮絶人生ながら
ドロドロに暗い話でなく、
本人のキャラクターもあって
映画が実に明るいのがいい(笑)。


本作は彼の息子が製作・企画を担当したそうで、

彼がいまも各地のツアーで本当に熱狂で迎えられている様子や、
舞台裏で発声練習まで
あますとこなく映し出されています。


なかでも興味深かったのは
ヘヴィメタが生まれた背景。

イギリス労働者階級に生まれ、
刑務所か軍か、工場で働くかしか未来がなかった10代に
あるものをヒントにサバスを始めたこと。

失読症だったことや
今で言う注意欠陥障害(ADHD)だったことなども明かされる。


客観的に見ると
憎めないだめんず、という感じなんですが

奥さんや子どもたちの証言を聞くと、
周囲はさぞかし大変だったのだろうなあと推し量れます。


それでも彼は
どん底から脱しようと禁酒に挑戦したり
60歳にして免許取得にチャレンジもする。

そんな姿は
やっぱりチャーミングで憎めないんです。

家でのインタビュー時には
いつも大きなカップに
おそらくミルクティーを並々と淹れて飲んでいる。

そんな彼の姿に、
長い長い旅路の末の安息を見ました。


★12/17(土)シアターN渋谷で公開。ほか全国順次公開。

「オジー降臨」公式サイト
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