ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

灼熱の魂

2011-12-11 20:50:23 | さ行

よくできたミステリーではあります。


「灼熱の魂」76点★★★☆


それはあまりにも突然で
奇妙な出来事だった。

カナダ人の双子の姉弟ジャンヌとシモンの母親ナワルが
ある日、プールサイドで原因不明の放心状態になり、
亡くなってしまったのだ。

さらに母は姉弟に
二通の手紙を残していた。

それは彼女らの兄と父に宛てた手紙。

彼らを探し出し、手紙を渡して欲しいというのが
母の遺言だった。

兄の存在など知らず、しかも
父は死んだと聞かされていた姉弟は困惑するが、

それでも姉ジャンヌは
母が生まれた中東の国を訪ねることに。

だが母の人生と足跡を辿るうちに
恐るべき真実が明らかになる――。



アカデミー賞外国語賞ノミネート作品で
評論家筋にも非常に評価の高い作品。


母親の足跡を探偵か記者のごとく追う姉が、
次第に驚愕の事実を明らかにしていく……という
番長も好きなタイプのヒューマンミステリーで

冒頭から緊張をはらむ謎めいたシーンが多く
ハラハラ。

1970年代に母が生きた時代の中東と、
現代を生きる姉弟の追跡が
交互に混じり合う構成もうまく、

131分、確かに惹き付けられました。

ただ、見終わってみると
ちょっと
「作りすぎ」かなという気もしなくもない。

結局は
「人間、知らなくてもいいことがある」じゃないか?なんて(笑)


その一因は、
母親ナワルが生まれ育ち、すべての根源となった場所を
「中東のある国」として
はっきりとは特定していないことにある気がする。


まあキリスト教徒とイスラム教徒の対立、などがあるので
おのずとわかる部分もあるんですが、

こうした場所は
昨今、非常に注目されているし
現在進行形の状況でもあるし、

内部からの問題提起的作品も多いから
リアリスティックが求められていると思うんですよね。


そこをぼかすと、なんとなく
「そういうことの起こりそうな国」という
対岸の火事的、他人事感が生まれちゃって

題材と乖離した
モヤモヤが残る。


せっかくこういうネタを扱った
重厚なミステリーなんだから、
そこもキッチリ詰めるべきだったのでは、と
ちょっと思っちゃいました。

「M:i」とかの娯楽作なら
そんなふうには思わないんで、
まあそれだけシリアスにも見られる
質の高いエンターテインメントということですけどね。


★12/17(土)からTOHOシネマズシャンテほか全国順次公開。

「灼熱の魂」公式サイト
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ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル

2011-12-10 18:36:10 | あ行

これはシリーズ4作のなかで
一番おもしろいかも。

「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」IMAX版 78点★★★★


不可能を可能にする
諜報機関IMFのスーパーエージェント、
イーサン・ハント(トム・クルーズ)が活躍する
シリーズ第4弾です。


イーサンは
天才ハッカーのダン(サイモン・ペッグ)と
タフな女性エージェント、カーター(ポーラ・パットン)とチームを組み
ある目的のため
ロシアのクレムリンに潜入する。

が、ミッション半ばで不測の事態が発生。

しかも彼らは
テロリストの容疑をかけられてしまう。

イーサンは
分析官のブラント(ジェレミー・レナー)をチームに加え、

たった4人で汚名をはらし、
事件の黒幕の
恐るべき野望を阻止するべく動き出すが――?!


いや~今回はおもしろかった!
娯楽の王道として存分に堪能いたしました。


派手でありえない展開が実に痛快で、
しかも
体を張っている感が半端ない。

ドバイの超高層ビルでのシーンは、
間違いなく歴史に残るでしょう(笑)


成功のポイントはまず
「Mr.インクレディブル」「レミーのおいしいレストラン」の
ブラッド・バード監督を起用したこと。

アニメ監督ならではの
想像力溢れるアクションと構図作り、
複雑すぎない明快なストーリーが
実写にもうまく作用してる。

敵や話がややこしいとこんがらがるもんね。


“チームワーク”に重点が置いたのもよく、
なにより
ユーモア度が高いのが素晴らしい。

緊張感のなかにぶちこんだ「息抜き」が
センスよく、かなり笑えるんです。

チームのなかで「実は力仕事はしたくない」的本音が
だだ漏れてくるのにも笑ったし、

最新なんだかアナログなんだかわからない
作戦やアイテムにも爆笑。

笑いの増量には
「3」にも登場し、今回グンと出番の増えた
サイモン・ペッグの貢献も大きいな。(笑)
(主演作「宇宙人ポール」(12/23公開)も控えてます)


壁一面がスクリーンの
IMAXで見ると、マジで格別な臨場感がありますんで
ぜひIMAXでの鑑賞がオススメです。


にしても。
パート1ができたのは1996年。
15年前からは信じられない映像の進歩に
あらためて感じ入りました。

アクション娯楽映画って
どこまで行くんでしょうね。


★12/16(金)からTOHOシネマズ日劇ほか全国で公開。

「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」公式サイト
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マイティ・ウクレレ

2011-12-09 23:31:29 | ま行

ウクレレがハワイ発祥じゃなく
ポルトガル伝来だった、なんて知らなかったなア。

「マイティ・ウクレレ」68点★★★☆


ウクレレの素晴らしさに見せられた
監督とスタッフたちが、
その歴史や魅力を紹介するドキュメンタリーです。


映画としては
ごくノーマルな作りなんですが、

ウクレレって本当に楽しそうだナ~というのが
よーく伝わってきます。

冒頭のジェイク・シマブクロ氏の演奏はさすがに圧倒だし
(本人もとってもナイスガイ!


各国のウクレレ愛好者やアーティストの話から
ウクレレがいかにとっつきやすく、
みんなをまあるい笑顔にさせる楽器かということがよくわかる。


ある演奏家が言うんです。
「ウクレレケースを持ってると、
空港で必ず『バイオリン?銃?』と聞かれるんだけど、
『ウクレレだ』というとみんな微笑むの」

うーんステキ!(笑)


ウクレレの歴史も興味深かったですねえ。

実はハワイ発祥ではなく
1800年代後半に、ポルトガル移民によって
ハワイにもたされたとか、

で、その後ウクレレが
どんな歴史をたどったとか。

そして最近また
ウクレレがブームらしい。

日本でもけっこうハマってる人いますもんね。

それに監督の出身地カナダでは
小学生の音楽教育に使われているそう。

「初心者でも曲っぽくなるからいい」んだって。

そりゃピアノやサックスより
ご近所にもいいわ(笑)


★12/10(土)~12/22(木)までシネマライズで公開。ほか全国順次公開。

「マイティ・ウクレレ」公式サイト
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瞳は静かに

2011-12-08 20:44:45 | は行

このポスターからイメージする
印象とちょっと違うかも。

そこがいいんですけどね。

「瞳は静かに」69点★★★☆


1977年、軍事政権下のアルゼンチン。

8歳の少年アンドレスは、
父と別れた母と、兄との3人暮らし。

彼は優しく美しい母が大好きだが、
母の恋人はあまり好きではない。

しかも二人は最近、
こそこそ何かを隠しているようなのだ。

そんなある日、母が事故で死んでしまう。

祖母と父と暮らすことになったアンドレスは
暮らしになじめず
元の家に入り浸りるようになる。

そこで彼は母が隠していたものを見つける。

それは、軍事政権に反対する
反体制組織のビラだった――。


いや~なかなかに仕組まれた映画でした。

いい意味で裏切りが満載というか。


まずポスターを見て
女の子だと思ってた主人公は男の子だったし(笑)

暗くミステリアスな雰囲気と
「恐るべき子ども」という印象があったけど、

たしかに軍事政権が背景にあり、
全体に不穏さを潜めてはいるんですが、
画面は予想に反して光溢れ、明るい。


そんななかで子どもたちは、
生き生きと遊び、走り回っているんです。


でも、実はその平穏さのなかで
大人たちはある「秘密」を抱えている。

常に大人たちの会話を耳にして育つ
“子ども”は

だんだんと違和感を肌で感じとり、
ときに残酷なほど聡く立ち回る
少年へと成長していく……というお話。


ラストまできて、
ああ「恐るべき子ども」の印象は
間違いじゃなかったとわかるんですねえ。


ほかにも
ファーストシーンで銃声かと思えたものの正体が中盤でわかるなど、
けっこうやられた!な映画でした。

原題は
「アンドレスはシエスタ(昼寝)なんかしたくない」。

これも意味深ではありますが、

監督は“瞳”を感じさせる演出を意識しているようで、
目配せやまなざし、視線の先にある空気を
うまく映し出しており、

この邦題は納得でした。


にしても。

2010年の番長ベスト2位「瞳の奥の秘密」といい
アルゼンチン映画には独特の
「仕掛け技」があるんでしょうかね。


★12/10(土)から新宿K's cinema、渋谷アップリンクで公開。ほか全国順次公開。

「瞳は静かに」公式サイト
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エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン

2011-12-07 22:58:10 | あ行

噂には聞いてましたが
こういう店だったんですねえ。

「エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン」69点★★★☆


伝説の三つ星レストラン「エル・ブリ」の
裏側に迫ったドキュメンタリーです。


スペイン、カタルーニャ地方にある
「エル・ブリ」。

オーナーであるフェラン氏の
独創的な料理で知られるこの店は

年間半年しかオープンせず、
あとの半年はメニュー開発に費やされる。

その料理とは
フラスコにスープを入れてみたり、
泡の料理だったり、

とにかく誰も見たことのないもの。


それらが
どうやって生み出されるのか、
本作はすべて記録しています。

まず食材探しから始まって
それをどう使うかを試行錯誤する。

たとえばキノコひとつを
煮る、焼く、蒸す、泡にする、真空にする、
オブラートに包む……とさまざまに試していくんです。

まさに科学実験!


詳細なデータを取りつつ進められ、
とても料理してるとは思えません。


ようやくメニューが決まると
次は学生バイトのような大勢のスタッフ集団を采配し、
オープンに備えていくんです。


「伝説」のレストランのすべてを
惜しげもなく見せてくれて
どーもすみません、というくらい。


ただ、
ドキュメンタリーとしての工夫はゼロに近い(笑)


開発作業の過程は
あまりにも「実験」で
さすがにうつらうつらしたけれど
客を入れてからの厨房の緊張感は
やはり盛り上がりますねえ。


まあ
素材のおもしろさがすべてに勝る、という。

しかし観ながら
まったくお腹が空かなかったのはなんでだろう?
あまりに実験っぽいからなのか・・・

あっ、酒が全然出てこなかったからか!(笑)


あと、どうしてこんな
ネタ明かしまくりの撮影ができたんだろう、と思ったんですが
映画が撮られたのは2009年。


同店はこの後、2011年に休業して
世界的ニュースにもなりましたが、

撮影当時は、監督も休業について
まったく知らなかったらしい。

でもフェラン氏は
心積もりをしていたんでしょうね。
で、記録を残したかったのかなあと。

もともと
後進育成に熱心な方でもあるようだし。

エライですねえ。


レストランは閉まってしまいましたが、
今後は「研究施設」として
クリエーティブは続けていくそう。
しかも
もしかしたら「試食」ができたりするかもしれないんだそう。

一度行ってみたいなあ(無理無理、笑)


★12/10(土)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン」公式サイト
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