ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ルビー・スパークス

2012-12-09 20:18:18 | ら行

誰にもわかりよい映画ではないかもしれない。
でも好きな人は、好きだと思うんだ。

「ルビー・スパークス」75点★★★★

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19歳で“天才作家”としてデビューした
カルヴィン(ポール・ダノ)は

その後スランプに陥り、10年間小説を書けずにいた。

彼はある日
とびきりチャーミングな女の子ルビー・スパークスの夢を見る。

彼女を主人公にカルヴィンは小説を書き始めるが
とんでもないことが起こった。

ある朝、カルヴィンの目の前に
ルビー(ゾーイ・カザン)が現実となって現れたのだ!

ウソだろ?あり得ない――?とパニクるカルヴィン。

一体、どうなっているのか――?!

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自分が小説に書いた女の子が
現実に現れて――?!という話。

奇想天外なファンタジー?みたいだけど

これは
「人は、自分の思い通りにはならないのだ」という
超基本でいて、実はみんなが意外と忘れてる真理について
いま一度、考えさせる映画であり、

それに気付く青年の成長を描いた
切ないラブストーリーなのですね。


脚本はルビー・スパークスを演じる
女優ゾーイ・カザン。

主人公を
彼女の現実の恋人であるポール・ダノが巧く演じ、

さらに
「リトル・ミス・サンシャイン」の監督が
人と人の心の機微を
みずみずしくセンスよく切り取っている。

しかしホントに
「人は自分の思い通りにならんのだ」って
基本だけど、つい忘れちゃうんですよねー。

だから
ちょっとした意見の違いにカチンときたり
相手の行動に「あれ?」と思ったり。

それが積み重なると失望し
「こんな人じゃなかった」とか「価値観の違い」とかで
別れてしまう。


全て自分の思い通りになる他人なんて、いやしないのに
何度もおんなじことを繰り返してしまったり(苦笑)

そういうことを
スコン!とわからせてくれる作品です。

にしてもポール・ダノ
ほのん、とした雰囲気ながら
実は未成熟で気難しい青年役をこなしてる。

「リトル・ミス・サンシャイン」(06年)もよかったけど
「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(07年)の神父役が当たってたなア。

この後は
ジョセフ・ゴードン=レヴィット×ブルース・ウィリスの
「LOOPER/ルーパー」(1/12公開)にも出てきますよ。

★12/15(土)からシネクイントで公開。

「ルビー・スパークス」公式ブログ
コメント (2)
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ホビット 思いがけない冒険

2012-12-08 23:30:10 | は行

たぶん、自分が中学生だったら
冬休みのデートにこれを選ぶと思う。

・・・まあ、そういうのでいんじゃないかと(笑)


「ホビット 思いがけない冒険」3D版 57点★★★


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「ロード・オブ・ザ・リング」の60年前のお話。

ホビットのビルボ(マーティン・フリーマン)は
こじんまりとした住まいで、平和な暮らしを送っていた。

そこに突然
魔法使いのガンダルフ(イアン・マッケラン)が訪ねてくる。

さらに
わらわらとドワーフたちもやってくる。

ドワーフたちはかつて追われた祖国を取り戻す
冒険の旅に出るから
ビルボにも一緒に来いという。

「なんで、ボクが?」と混乱する
ビルボだったが――?!

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J.R.R.トールキンが
『指輪物語』より前に発表した子ども向け小説が原作。

それを
「ロード・オブ・ザ・リング」3部作の
ピーター・ジャクソン監督が映画化したものです。

そしてこれも3部作らしいです(笑)


「ロード・オブ~」から60年前の話で、
キャラなどかぶっている部分もあり、
「続き」みたいではあるんだけど

話としては、別のもの。

最初に今回の冒険の趣旨や、なにが敵なのか・・・などが
ちゃんと説明されるので
「ロード~」を観ていなくてもまったく問題ないです。

まあ観ていれば、よりツボる部分があるとは思いますが。

なにより
“完全なるファンタジーの視覚化”という点で、
本作はやはり凄いです。

「どれだけの人が、どれだけの仕事をしてんだ!」
口を開けずにいられない映像。

通常3D版で観ましたが
かなり迫力があり、美しかったですね。

さらに
本作は最新鋭のデジタルカメラを使って
1秒48フレーム(従来は24フレーム)で撮られている。

フレームが倍、というのは
けっこうな映像革命で
人間が肉眼で見る映像により近いものになるんだそうです。

なのでHFR(ハイフレームレート)3D設備があるところで観ると
その恩恵がよくわかるらしいです。

その設備のある劇場、思ったより多いので
シネマトゥデイHP参照

より凄いものが観られるかもしれません。


ただ、中身の話には
それほどそそられませんでした。

降ってくる困難も敵も、割と単純で
とにかく「人を信じる気持ち」を学ぶ・・・ような感じ。

2時間50分で、それを学ぶには
年を食いすぎており(失笑)

残念ながらイケメンが出てくるわけでもなく。

さらに2時間50分あって、
まだ続くとは正直、思ってもいなかった――(笑)
思いがけなすぎました。

中2でデートで観たとして
果たして何人が、この続きを同じ相手と観るのかしらんとか
くだらないことを考えてしまうのでした。

★12/14(金)から全国で公開。

「ホビット 思いがけない冒険」公式サイト

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サンタクロースをつかまえて

2012-12-06 23:44:41 | さ行

笑って、泣いて
映像酔いもした。

けっこう忙しい80分(笑)

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「サンタクロースをつかまえて」59点★★★


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仙台出身の29歳、岩淵弘樹監督が
2011年12月、震災後のクリスマスを撮ったドキュメンタリー。

市内の大通りを飾るイルミネーションや、
そこをいく鼓笛隊のパレード。

教会でのクリスマスのミサの様子や
地元の友人のクリスマス風景などをつなぎ

さらに
震災後の3月20日に
実家に帰ったときの映像をはさんでいます。


正直にいうと
定まらない映画ではあるんですね。

カメラをまわしては何かを探しているような。

でもきっと何を探しているのかを
撮ってる本人もわかっていないんじゃないか。


そんなあぶなっかしさを感じてしまい
“完成されている”とは言いにくいんです。

なんだけど、見てしまう。

震災後、
「ああ、無事でよかった~」とか言いながら
実家に帰った監督を迎える
お母さんの冷めた反応に笑い

結婚して子どものいる友人に
「俺みたいに独身で、子ナシで、貯金もなくてってうらやましい?」
とか聞く様子に笑い、
(――んなこと、誰が思うか!と思わず突っ込むわな(笑)

そのあと友人が子どもたちの枕元に
プレゼントを置くシーンがあって
そんな些細なシーンに、なぜか涙が湧いてくるんですわ。

不思議っすね。


本作では語られないですが
岩淵監督は23歳で仙台から上京し、
派遣社員としての日々を映した「遭難フリーター」(07年)を発表。
残念ながらこれは未見なのですが(すごい見たい)

しかしその後ドキュメンタリー作家としての
問題意識や創作意欲に行き詰まり
介護士として働いていたそうです。

3.11をきっかけに、
カメラをまわしはじめたそうな。

もしかして「探しもの」中なのは
キャラなんでしょうかね。

自分の居場所を探し、仕事を探し
しあわせを探してるのかな。みんなと同じく。

次回作も見て観たい。

そうそう、
資料にある監督の
プロダクション・ノートがすごいおもしろかった。
高城晶平さんの文もよかったです。

★12/8(土)から渋谷ユーロスペースで公開。

「サンタクロースをつかまえて」公式サイト
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ドキュメンタリー映画 100万回生きたねこ

2012-12-04 23:49:20 | た行

この大ベストセラー絵本、子ども時代には
知らなかったんですよねー。

いや、もちろん生まれてましたけど。


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「ドキュメンタリー映画 100万回生きたねこ」58点★★★

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絵本『100万回生きたねこ』で知られる
絵本作家でエッセイストの佐野洋子さん。

佐野さんが2010年に72歳で亡くなるまでの1年を
77年生まれの監督が撮影したドキュメンタリー・・・

なんですが、
普通のドキュメンタリーを想像してると
だいぶ面食らうと思います。

まず
本人への取材部分は意外に少なく
しかも顔出しなしの声のみのインタビュー。

その合間に
『100万回生きたねこ』の読者である女性たちの朗読と
インタビューが挟まる、という仕様なんですね。

なので
見ながらなんとなく
『AERA』っぽいな、と思ってしまった(笑)

この“女性たちへのインタビュー”が
そう感じさせたんでしょうねえ。

最初、子を持つ若い母親が登場し、
続いてリストカットする女性や、買い物依存性の女性などが
この絵本と自分との関わりを語っていくんですが

なんだか“現代を生きづらい女性”のショーケースのようで
そういうテーマ前提なんだ、と思わせるような。
かつ、一人一人にそこまで深く踏み込むわけでもなく。


しかし、
この女性たちを入れた意味は

映画の途中で、佐野洋子さんが亡くなり
彼女の書いたエッセイをもとに

幼いころから彼女につきまとっていた「死の陰」などが
朗読されることで
ようやくハッキリと明らかになってくるんですね。


ガンを患ってるのに煙草スパスパで(笑)
ざっくばらんに話すその人となりが
垣間見られるのは確かだし

お兄さんがいた話とか、
いろいろ「へえ」もあります。

佐野さん亡き後の、軽井沢の別荘の映像とか
すごくいい。シンとして、寂しそうで。

そんなふうで
狙いは悪くないんですが
たぶん題材が大きすぎたのかなと感じます。

佐野洋子さん、の大きさだけでなく
各々の女性たちの問題も含めて。

しかし『100万回生きたねこ』は
何度読んでもグッときますねえ。

1977年の発表から
180万部!の大ベストセラーなんだそうで。

でも、子ども時代に読んだら
きっと悲しくてダメだったろうな。


★12/8(土)からシアター・イメージフォーラムで公開。ほか全国順次公開。

「ドキュメンタリー映画 100万回生きたねこ」公式サイト
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ニッポンの、みせものやさん

2012-12-02 18:39:15 | な行

この映画がなければ
絶対知り得なかった世界。

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「ニッポンの、みせものやさん」69点★★★☆


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お祭りのときなどに
「恐怖!ヘビ女」とか「ろくろ首」とかを見せる
「見世物小屋」。

江戸時代には全国で300軒、
昭和30年代(1955年くらい)にも30~40軒はあったそうですが
いまではたったの一軒になってしまった。

その最後の一座「大寅興行社」を写したドキュメンタリーです。


見世物小屋って、知ってはいたけど
見たことはなかった。

なんか「まがまがしい」っていうんですか?

でもだから興味があるってのが人の心理。
この映画がなければ、知らずに終わってたかもしれず、
見てよかった、と思いました。


78年生まれの監督は
01年に花園神社の縁日で一座に出会い、
05年から撮影をしている。

ほぼ家族経営で7人ほどの一座は
最初は「テレビや映画なんて」とカメラを毛嫌いしてた。

しかし
物腰やわらかく、素直さを感じさせる監督は
10年かけてゆっくりと
その内部に入っていくことを許されたようです。

見世物そのものの撮影に成功したことも貴重だし、

昔は障害のある人がそれを売り物に稼いでいたとか、
いわば「秘されていた」歴史の一部を記録したことの
意義は大きいと思います。


卑しいと見られることも承知のうえで、
稼業と歴史を絶やさない矜持を見せつける姉さんの気っぷのよさも
かっけー。

祭りの露店の世界の仕組みも
ちょろっと知ることもできる。

夜中にテレビで見るノンフィクションもの、という感触もありますが
もしかしたらこの手の話は
テレビじゃできないのかもね。

余計貴重じゃないすか。


★12/8(土)から新宿K's cinemaで公開。ほか全国順次公開予定。

「ニッポンの、みせものやさん」公式サイト
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