ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

最初の人間

2012-12-14 22:57:07 | さ行

カミュのバックグラウンドって
初めて知りました。

「最初の人間」67点★★★☆

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1957年。
40代半ばの作家(ジャック・ガンブラン)は
故郷アルジェリアに向かう。

当時、仏領アルジェリアでは
独立を望むアルジェリア人と、フランス人の間で
激しい紛争が起きていた。

そんななか、作家は
自身の少年時代を回想する。

貧しくも、光に溢れていた時代
アラブ人の友人との邂逅……

そして大人になった作家は
「アラブ人もフランス人も共存すべきだ」
と発言する。

しかし、このメッセージは波紋を呼び――。

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『異邦人』で知られるノーベル賞文学賞作家アルベール・カミュ。

46歳で交通事故で亡くなった彼の
カバンから見つかった未完の遺稿であり、自伝的な同名小説を
「家の鍵」(04年)の
ジャンニ・アメリオ監督が映画化したものです。

実に知性的な作品ですが
正直「ガツン」とくるタイプではないんですね。
「家の鍵」もそうだった気がする。

でも、すごく深みがあるのはわかる。
この深みを、知りたいと思う。

そんな映画です。


ワシ、原作は未読なんですが
未完だけあって、
もっとまとまりがなく、やや読みにくい作品だそう。

映画はそんな原作のエッセンスと
カミュ自身の話を混ぜ込んでいるので
作家自身を知るような感触もあって、見やすい。

さらに映画的には
少年時代の描写が見事。

おっかない祖母に折檻されたり、いたずらで大人を困らせたり
大人にとっての淡い記憶を
みずみずしく思い出させるような感覚が愛おしい。

子どもがふとした出来事で、
人生の真理(――例えば正義や正直さについて)を実体験のなかで学んでいく
その「瞬間」が見事に描かれている点も
よかったですね。

よーく噛むと
いい作品かと思います。

★12/15(土)から岩波ホールほか全国順次公開。

「最初の人間」公式サイト
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マリー・アントワネットに別れをつげて

2012-12-13 23:39:33 | ま行

レア・セドゥって
いいよね。

「マリー・アントワネットに別れをつげて」68点★★★☆

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1789年、フランス革命が勃発したその日。

王妃マリー・アントワネット(ダイアン・クルーガー)の
お気に入りの朗読係シドニー(レア・セドゥ)は
いつものように王妃に朗読をしていた。

身分を考えるとありえないほど親密にされ、
王妃に心酔しているシドニーだが

王妃の心を捉えているのは
ポリニャック夫人(ヴェイルジニー・ルドワイヤン)だった。

処刑リストで名指しされ、
刻一刻と追い詰められていく王妃とポリニャック夫人。

そして王妃は
シドニーにあることを頼むが――?!

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王妃の侍女(レア・セドゥ)を主人公に
フランス革命前夜のヴェルサイユを裏側から描いた作品。

あまり見たことのない
宮殿の舞台裏が描かれるので

豪華絢爛な宮殿セットをお金をかけて作りながらも、
それを裏地に回すような贅沢さがあって
おもしろいなあと感じました。

主人公のシドニーは革命後、混乱する宮殿内で
なかなかにうまく立ち回り
情報を集めて、動こうとする。

雑多な人々が働く宮殿内の様子も興味深く、
王妃とポリニャック夫人の関係など
踏み込んだ解釈も勇気あっていい。

キャストも活きのいい女優陣を集めてるんですが

なんだろう
話の流れや盛り上がりがいまひとつなんですよねー。


なによりこのラストには
10人中10人が「えっ?これで終わり?」と
唖然とすると思う。

主人公がその聡明さを発揮して
「さあ、これから!」と胸すく展開を期待するのが
人間というもんなんですけどねえ。

惜しいですねえ。


★12/15(土)TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開。

「マリー・アントワネットに別れをつげて」公式サイト
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愛について、ある土曜日の面会室

2012-12-12 22:52:45 | あ行

ダルデンヌ兄弟のテイストに
ちょっと似ている気がします。

「愛について、ある土曜日の面会室」73点★★★★


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フランス・マルセイユ。

不器用な男スティファン(レダ・カテブ)は
ある男から奇妙な依頼を受ける。

アルジェリアに住む女性ゾラ(ファリダ・ラウアッジ)は
息子が殺されたと聞き、
マルセイユにやってきた。

地元のサッカー少女、16歳のロール(ポーリン・エチエンヌ)は
バスで出会った少年と恋に落ちるが
ある日、彼が逮捕されてしまう。

3人はそれぞれの思いを秘めて、
その日、刑務所の面会室へと向かうが――。

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冒頭、子連れで泣き叫ぶ女性を
冷ややかに見つめる人々。

そのシーンが、最後にこうつながってくるとは――!
と、
構成の妙にうなる作品です。

3つの物語が交互に描かれ
それらが巧妙に絡まっていくわけですが

はじめは訳がわからず、かなり眠かった(笑)。

でもそこで踏ん張ると
意外なまでに精密に編まれた糸のおもしろさに
からめとられます。

そしてタイトルにあるように
全てがその時間、その場所に向けての道のりだとわかったときには
「ほう」とため息がもれました。

81年生まれのレア・フェネール監督は
本作が長編デビュー作。

旅芸人の家に生まれ、
父は座長、母と妹は役者という非常に興味深い履歴の持ち主で
(プレスの資料で見ると
シャルロット・ゲンズブール似の美少女なんですわコレが!)

社会の辛いサイドにいる人々を淡々と描くその筆は
ダルデンヌ兄弟のテイストに似ている感じで、

ぶっきらぼうなまでに説明を排除し、
観る側にハードルを設け、
でもここまで揺るがずに踏ん張られると、

受け取るこちら側も「おしっ」と言いたくなる。

役者もいい人選で
ゾラを演じるのは
「ジョルダーニ家の人々」(12年)で難民女性に扮した
ファリダ・ラウアッジ。

スティファン役は
「預言者」(09年)に出てたレダ・カテブと
見応えありあり。

いやはや有望な才能が
またひとつ生まれたようですね。


★12/15(土)からシネスイッチ銀座で公開。

「愛について、ある土曜日の面会室」公式サイト
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恋愛だけじゃダメかしら?

2012-12-11 23:44:47 | ら行

もっとチャラい妊娠ムービーかと思ったら
意外と・・・。

「恋愛だけじゃダメかしら?」69点★★★☆


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ダイエット番組の人気トレーナー
ジュールズ(キャメロン・ディアス)は

恋人であるダンサーの子を
思いがけず妊娠する。

産むことを決めたものの、
意外と高齢出産でもあり、いろいろ問題が山積みだ。

カメラマンのホーリー(ジェニファー・ロペス)は
夫と養子をもらうことを決めるが、
夫にはまだ迷いがあって――?!

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妊娠をめぐる5つのカップルの出来事が
微妙に絡まって進行していく
アンサンブルストーリー。

セレブ続々出演の
チャラいコメディかと思ったんですが

「ローラーガールズ・ダイアリ-」(09年)の脚本家の作で

幸せな妊娠だけでなく
養子をとる人、哀しい体験をする若いカップル・・・など
妊娠にまつわる悲喜こもごものケースを
重くせず、ほどよい軽さで散りばめて
意外にまとまっていました。

子ナシが見ても楽しめたしね。

イクメン(育児を生き生きとやる男)の男子会とか
ハッキリ言って気色悪いイマドキ事情も描き
けっこう笑える。

キャメロン・ディアスの腹筋にも拍手ですね(笑)

ただ
こうした妊婦の本音だけでなく、
出産“後”までを描いたフランス映画「理想の出産」(12/22公開)のほうが
何倍も深く入ってはきました。

この2本は、セットで売ってるらしく
(本作の半券提示で「理想の~」は1500円だそう)
ハシゴしてみてもいいかもね。


★12/15(土)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。

「恋愛だけじゃダメかしら?」公式サイト
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フランケンウィニー

2012-12-10 23:21:07 | は行

3Dメガネをしながら
初めて涙がチロリと出た。

そして直面した問題。
・・・どうやって拭くんだ?!


「フランケンウィニー」3D版 72点★★★★


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ヴィクターは
科学と映画が大好きな10歳の少年。

大の仲良しである愛犬のスパーキーといつも一緒で
今日もスパーキーを主人公に特撮映画を作り、
家族の前で上映していた。

そんなある日、
悲しい出来事が起き
スパーキーは亡くなってしまう。

悲しみにくれるヴィクターは
科学の授業からヒントを得て、
ある実験をすることに――?!

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ティム・バートン監督が
自身の子ども時代の体験を基に作った
3Dの白黒ストップモーション・アニメ。

しかも彼はディズニー時代の84年に
同じ題材で実写短編映画を作ってるんですね。未見ですが
本当に彼の原点!なんでしょう。

笑いあり、愛あり、切なさたっぷりで
よく作ってあります。


死んでしまった愛犬をなんとしても蘇らせたかった、
ティム少年の想いが
その後の彼の作品に共通する
独特の死生観や切なさを生んでいたんだなあと
改めて感じました。


スパーキーを蘇らせたヴィクターに
追随しようとするほかの子たちのほとんどが
自分のペットを蘇らせようとするのも切ない。

そこに「邪心」があると
かつてのペットたちは邪悪な生き物になってしまうわけで。

少年の心を失わず、
喪失や悲しみをどう乗り越え、どう大人になっていくのか、
その一つの例を
バートン先生は身を以て示しているのかなとも感じました。


★12/15(土)から全国で公開。

「フランケンウィニー」公式サイト
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