ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

シュガー・ブルース 家族で砂糖をやめたわけ

2016-07-22 23:52:30 | さ行

「あまくない砂糖の話」と併せて
砂糖のヤバさが、ひしひしと。

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「シュガー・ブルース 家族で砂糖をやめたわけ」69点★★★★


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妊娠糖尿病になった監督が
それをきっかけに「砂糖の怖さ」を調べた
チェコ発のドキュメンタリー。

奇しくも今年3月に公開された
「あまくない砂糖の話」と同テーマ、同じ論旨ですが
取材開始は09年で
「あまくない~」より早いようです。


主人公である監督が、妊婦の裸体も頓着なくさらし(エライ!)
自らと家族を救うため
「砂糖について」専門家に話を聞く旅に出る・・・という展開。

チェコという国は
角砂糖の発祥地だそうで(知らなかった!
スムージーとかシリアルに入ってる砂糖よりも
もっとダイレクトに甘~いお菓子が日常、という感じ。

そんななかで
砂糖の危険性をきちんと話してくれる人は少ないのかもしれない。
監督がニューヨークをはじめ、
あちこちに取材に行くのが大変そうでした。

さらに砂糖どっぷりな国では
親戚一同の集まりですら
「砂糖」を悪者にすることは、はばかられるような雰囲気で(苦笑)
お国柄による、この問題への取り組みの大変さも、感じました。


監督一家の小さなデモや戦いは、
あまりに非力そうで、切ないんですが、
やっぱり砂糖はヤバイ!というのは
よーくわかる。

ただ
“魅せる”ドキュメンタリーにするには
もうちょっと遊んでもよかったかも。


★7/23(土)から渋谷アップリンクほか全国順次公開。

「シュガー・ブルース 家族で砂糖をやめたわけ」公式サイト
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ミモザの島に消えた母

2016-07-21 23:18:38 | ま行

「サラの鍵」(2011年)原作者のベストセラーの映画化。
この作家、やっぱ、すげえ・・・?


「ミモザの島に消えた母」80点★★★★


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40歳のアントワーヌ(ローラン・ラフィット)は
妹(メラニー・ロラン)と
「ミモザの島」と呼ばれる避暑地に向かっている。

彼らの母は30年前に、
若くしてこの島で溺死していた。

当時、子どもだったアントワーヌは
30年を経て「なぜ、母は死んだのか?」と改めて疑問を持つ。

しかし
父も周囲の人々も、なぜか母の死について口を閉ざす。

一体、どうして――?

アントワーヌは、その謎を調べるために
独自に動き出すが――。


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同じ原作者タチアナ・ド・アオネによる「サラの鍵」も
現代を生きる女性が、アウシュビッツの過去を探ることを発端に、
家族の秘密に触れる・・・という
ミステリー度の高い、重層な作品だった。

そして本作もかなり重層。

離婚や失職という主人公を取り巻く家族の問題と、
過去にまつわる推理やミステリー要素がうまく絡んで
おもしろい。

3本分の映画を見たような感じなんです。
うまいんだなあ、この原作者。


主人公の四十路男アントワーヌは
「なぜ、若くして母は死んだのか?」を知りたくて
家族の秘密を執拗に追い、
そこに囚われてしまっている。

半ば狂信的で、
家族関係にも、仕事にも影響が出て、周囲に迷惑もかける。

そんな様子を見ながら、ワシ含む観客みんな
「もうやめときなさいよ」と何度も言いたくなると思うんです。

だって、家族の過去を探っても
大抵、ロクなことはないんだもん。


でも、もしかして、
過去と向き合うことから、何かを得ることなど出来るのか・・・?というのが
この映画のキモですね。

実際、秘密の推測は割と早く着くんですが、
いやいや、まだその先もあるのです(ニヤリ)。


舞台となるミモザの島は
実在するフランスのノアールムーティエ島。

「満潮時に沈む海中道路」も実在するそうで
この危うさも
ミステリー度を盛り上げて、実に魅力的なんですねえ。


★7/23(土)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。

「ミモザの島に消えた母」公式サイト
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ロスト・バケーション

2016-07-19 23:51:15 | ら行


ブレイク・ライブリー主演。
いまノリノリな
ライアン・レイノルズの奥さんです。


「ロスト・バケーション」70点★★★★


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医学生でサーファーのナンシー(ブレイク・ライブリー)は
亡き母が教えてくれた“秘密のビーチ”を目指して、
メキシコにやってきた。

確かに、その場所はパラダイスで
完璧な波を堪能する。

唯一、ビーチにいた
地元の男子2名と会話を交わすが、
「あともう1本、乗ってく」と、彼女は一人、海に残る。

それが、悲劇の幕開けだった――!


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誰もいないビーチで
サメに襲われたサーファー(ブレイク・ライブラリー)。

周囲は
波とサメ、小さな岩礁しかない状況。
当然、荷物も浜に置いたまま。

さあどうやってサバイバルするか・・・?!というお話。

こういう
ワンシチュエーション・スリラーは
番長、以外と好物(笑)

最近のサメ映画といえば
「オープン・ウォーター」(2003年)を思い出しますが(けっこうトラウマ映画・・・
本作は導入から自撮りカメラやSNSなどのアイテムを散りばめ
“いまどき”感を増していきます。

そして主人公ブレイク・ライブリーの
すらりと、伸び伸びした肢体を効果的に見せつつ
スリリングな状況に落とす。

人食いサメが回遊する海にひとりぼっち。
小さな岩の上しか居場所ナシの状況で
ブレイク・ライブリーが、なかなか一人芝居で魅せてくれます。
彼女が“医学生”っていうのも
うまい手というか、キモだよね。


同じく傷ついたカモメが、岩の上にいて
仲間になってくれるのがちょっとした癒やしなんだけど、
これもまた、彼(彼女?)の無事を祈るハラハラ要素になっていくという・・・(苦笑)


ブレイク・ライブラリーって
存在はギャルっぽいんだけど、
顔がおばちゃん・・・いや、姉御っぽいつうか、落ち着いてるから、
ギャルギャルしてなくていいんだよね。

女子ウケがいいのも、わかる気がします。


★7/23(土)から全国で公開。

「ロスト・バケーション」公式サイト
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トランボ ハリウッドに最も嫌われた男

2016-07-18 23:53:27 | た行

地味かもしれない。
でも、とても大事な映画です。


「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」71点★★★★


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1947年。ハリウッドの売れっ子脚本家
ダルトン・トランボ(ブライアン・クランストン)は
妻や子どもたちと、幸せな日々を送っていた。

しかし、ソ連との冷戦下にあったアメリカは
国内の「共産主義者」を見つけ出し、排除しようという
“赤狩り”を行い、

その矛先はハリウッドにも向いていく。

スタッフの賃上げ要求に賛同し、
一緒にデモを行っていたトランボは
“共産主義者”のレッテルを貼られ、

仕事を失う危機に直面してしまう――。


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あの名作「ローマの休日」は
最初、別の脚本家の名前で世に出ていたんですね。

本当にあの話を書いたのは
この映画の主人公、ダルトン・トランボ氏。

なぜ、あの名作を偽名で出したのか?
なぜ、そんなことになったのか?
そんな氏の人生に迫る、実話の映画化です。


ときは1947年。
アメリカは「ソ連憎し!」のムードを作るため
国内の「コミュニスト=共産主義者」を弾圧する“赤狩り”を行っていた。

当時、すでに脚本家として成功していたトランボ氏ですが

彼は
周囲の「金!」「欲!」な雰囲気に染まらず、
富裕層の搾取を許さず、富の分配を訴えるような
人格者だったんです。

で、
スタッフの待遇や、賃上げを要求し
彼らと一緒にデモをしたりする。

いまなら「おお~!素晴らしい」な話ですが、
しかし、それによって彼は
「共産主義者」とされ、裁判にかけられてしまう。

トランボが娘に
「お父さんは共産主義者なの?」と聞かれ、
話してやる説明が、とってもわかりやすかったので引用してみますと

(トランボ)「もしおまえの学校に、お昼のサンドイッチがない子がいたら、どうする?
(娘)「・・・?」
(トランボ)「『働いて買え!』という? あるいは利子をつけて金を貸すか?それとも、自分の分を半分にしてやる?
(娘)「・・・半分こする」
(トランボ)「(ニヤリ)じゃあ、お前もコミュニストだな」――(笑)


・・・ね?今聞くと、
より、いろいろ考えさせられる内容じゃないですか?


でも、結局それで仕事を失った彼は
「ローマの休日」も自分の名前で出せなくなったんです。

仕事もなくなり、
どんどん苦しくなっていくんですが
しかし!
トランボ氏は、屈しない、あきめない、へこたれない。
安い値段でも、名を隠しても、書き続けるんです。

ワシ、そこに、ものすっごく感動しました。

例えば、
リストラされても、会社が倒産しても
雑誌が廃刊になっても(いや、リアルすぎるでしょ。笑
フテくされてる場合じゃない。

過去の地位やプライドにしがみつくわけでなく、
「自分には、書くことしかない!」と前に進む。

そんなトランボ氏、カッコイイんですよ。



アメリカ人の“共産主義”アレルギーの
根深さも改めて感じたり


勉強にもなったし、
ホント、勇気もらえる映画でした。


★7/22(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」公式サイト
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ヤング・アダルト・ニューヨーク

2016-07-17 23:56:30 | や行

2014年度のワシ的ナンバーワン映画
「フランシス・ハ」
ノア・バームバック監督の新作。

やっぱね、これもえぐられましたわ。


「ヤング・アダルト・ニューヨーク」77点★★★★


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ブルックリンに暮らす、
ドキュメンタリー映画作家のジョシュ(ベン・スティラー)は
前作から8年たっても、新作を発表できていない。

映画プロデューサーの妻(ナオミ・ワッツ)とは子どもがなく、
それなりに仲良くやっているけれど
友人夫妻に子どもができ、
ベビー自慢にうんざりもしている。

そんなある日、ジョシュは
監督志望のジェイミー(アダム・ドライバー)と
妻(アマンダ・サイフリッド)の
20代の夫婦と出会い――?!


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「イカとクジラ」(05年)「フランシス・ハ」(12年)の
ノア・バームバック監督作品。

一瞬「元気でる系?」と思わせて、
いやあ強烈にしょっぱい!(苦笑)。
特に40代組には。

でも、そこが、たまらなく素晴らしい。


主人公は
老眼を感じつつも
「いや、まだイケるよね?」と思っている
40代夫婦(ベン・スティラー×ナオミ・ワッツ)。

そんな彼らが
子どものころからSNSがあり、コミュニケーション能力が高く、結婚も早い
いまどきな20代の夫婦(アダム・ドライバー×アマンダ・サイフリッド)と出会うわけです。

この二組のカップルの日常やギャップを
鋭い観察力で
まあリアルに描くこと!


1969年生まれの(タメか!笑)監督側に近い世代としては
やっぱり40代ネタがツボります。

特に
「子ナシ」を選んでも揺らぐ心、
子どもを生んだ友人との溝・・・といった
この世代特有の“焦燥感”を見事にすくっているんですね。

そんな彼らが出会った
20代カップルの「リラックス」感に
やられてしまうのも、無理もない。


そんな「あるある」の積み重ねだけでも
十分おもしろいんですが
でも
実は、この映画の核はそこではない。


話は“意外な方向”へと進んでいくんですわ。

そこらの
「あるある共感ストーリー」にとどまらない重層さを
よく組み立てたなあと感服しました。


ベン・スティラー演じるジョシュは
マジメにドキュメンタリーを作っているんだけど
誠実だけでは生きていけない現実に気づいてもいる。
でも、自分を曲げることはできない。

同時に彼は
自分が「思い描いていた自分」に届かなかったことも
認められないわけです。

そして悪いことに
周りの助言も聞けず、だんだん意固地になっていく。


対する20代のジェイミーは
「コネも営業も才能のうち!」(まあ、そうだろうね)
「コピペ?何か悪いの?」的な軽さで
名声への階段を、突っ走って行く。

そんな若いジェイミーを前にした
ジョシュの苦悩が、
あまりにもリアルで、痛いんです。

でもそれは監督自身の
状況や心境の投影なんだとも思う。

「みんな、同じなんだ」
――
爽快な答えはでなくてもいい!
この映画に刺される世代は、絶対に多いはず!
要チェックです!


★7/22(金)からTOHOシネマズ みゆき座ほか全国で公開。

「ヤング・アダルト・ニューヨーク」公式サイト
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