ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

日日是好日

2018-10-08 23:55:16 | な行

 

樹木希林氏は、もはや日本の美のひとつだ。

 

「日日是好日」71点★★★★

 

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典子(黒木華)は

打ち込める「何か」がなかなか見つからない大学生。

 

ある日、

同い年の従姉妹・美智子(多部未華子)に誘われて

近所の武田先生(樹木希林)のもとに、お茶を習いに行くことに。

 

多くのきまりや作法に戸惑い、

失敗ばかりの典子だったが、

少しずつ、お茶の世界にハマっていく――。

 

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大森立嗣監督。

ここまで振り切れた「お点前」映画だとは!と驚いた。

その潔さに、カーン!と鹿威しも鳴るってもんです。

 

ヒロイン(黒木華)が師匠(樹木希林)にお茶を習う。

春、初夏、梅雨、秋、雪の冬、

美しい庭のあるお茶室に通い、お点前をする。

 

四季の移ろいのなか、

掛け軸が変わり、茶器が変わり、お茶菓子が変わり、

師匠の着物が変化する。

 

そんな日々をひとつひとつ重ねていくことの、

豊かで、たおやかなことよ。

 

その流れゆく時間のなかで

ヒロインは就職、仕事、恋など、さまざまな岐路に立ち

そのときに

お茶が、師匠が、さりげなく道しるべとなったりする。という映画です。

 

 

小学生時代、近所の老婦人のもとに通い、

お茶を習った日々を思い出したなあ。

あれは裏千家だったけどね。

 

お茶の師匠を演じる樹木希林さんは、なんと茶道は未経験だったそう。

いやあ、もうこの道ン十年の師匠のような佇まい、さすがだし

 

その所作も、楽しそうに着物を着ている様も

日本の美をスクリーンに留め置くことの

喜びにあふれている感じがする。

 

この映画を試写で観たときは

まさか、希林さんがもういないとは思ってもいなかった。

樹木ロスが癒えない日々だけど

こうして「映画」が遺ることって

やっぱり素敵だなあと思いました。合掌。

 

★10/13(土)から全国で公開。

「日日是好日」公式サイト

 

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あまねき旋律

2018-10-05 23:47:08 | あ行

 

冒頭、聴こえてくる旋律にハッとする。

 

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「あまねき旋律(しらべ)」70点★★★★

 

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これは映画でなければならなかった。

 

インド東北部、ミャンマー国境付近のナガランド州。

 

そこに住むナガ族は、農作業や生活の合間に

不思議な高低差ある旋律の歌を歌う。

 

その歌と、彼らの暮らしを

インド南部出身の夫婦監督が、追ったドキュメンタリーです。

 

同じインドに生きていても

監督たちにとって、ここは「異世界」だったんでしょうね。

そしてこの先、残っていくかどうかわからない

部族の歌声を、映像と音声に焼き付けた意味は大きいです。

 

そこに村の老人たちの語りや、若者の語りを織り込み、

現状をよく理解させてくれる。

 

さらにラスト近くに、

この地の悲しい歴史と、リアルな現状が映されるんですねえ。

 

1950年代、この地域はインド政府から独立しようとして、政府と銃撃戦になり、

いまだインド軍に監視されている――という状況にあるんだそうです。

 

 

その土地に根付いていた人々を踏みにじる蛮行を

“人間”であるなら、許してはならない。

 

まだまだ知らないことが山ほどある歴史修得をしつつ、

驚き、怒りを感じ、込み上げてくるものがありました。

 

 

★10/6(土)からポレポレ東中野ほか全国順次公開。

「あまねき旋律」公式サイト

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チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛

2018-10-04 00:46:07 | た行

 

フェルメール絵画のような光に照らされる

ヴィキャンデルの美しさよ!

 

 

「チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛」69点★★★☆

 

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17世紀オランダ。

レンブラントやフェルメールが輩出され、アート黄金期だった時代。

 

孤児出身の美しい娘ソフィア(アリシア・ヴィキャンデル)は

歳の離れた富豪の夫(クリストフ・ヴァルツ)に嫁ぐ。

 

夫に愛され、安定した生活を手に入れたソフィアだが

子に恵まれないことに、不安と悩みを抱えている。

 

そんなとき、夫が「肖像画を描いてもらおう」と言い出し、

若い画家(デイン・デハーン)を連れてくる。

 

年齢も近い二人は

次第に意気投合するが――?!

 

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「フェルメール絵画の世界を小説にしたい」と思った作家の原作がもと。

まさにそのものです。

 

これぞコスチュームプレイの恍惚!

窓辺も差し込む光と影、繊細な衣装と美術、

アリシア・ヴィキャンデルの横顔・・・・・・

すべてが

フェルメール絵画そのままに美しく、堪能できます。

 

プラス、

17世紀にオランダで流行った「チューリップ投資」という史実が混じっていて

そんなの知らなかった!と

状況設定は新味があっておもしろいんです。

ただ、それ以外の部分は、かなり陳腐(苦笑)。

 

不妊に悩む若妻が、若い画家と出会い、

不倫の末に、ある企みを思いつく・・・・・・って展開ですからねえ。

 

ただ、ドロドロっぽいんですが

実は心根の曲がった人物はおらず、

みなそれなりの善意を持っている、という設計になっている。

ゆえに

わずかなあんばいでドロドロを回避しているところが、まだ救われるかなと思います。

 

歳の離れた夫役クリストフ・ヴァルツも

哀愁を感じさせて、いつもながら味わい深く。

 

 

しかし

あまりに愚かで単純な誤解が

いくつも積み重なるストーリーというのは

やっぱりイラっとするし、スパイス的に物足りないんですよねえ。

 

それに時代が時代とはいえ、

結局、子なし=不幸、子あり=繁栄と幸せとなる展開も

どうなんだろうね~とか、すねてみたりして(笑)。

 

★10/6(土)から公開。

「チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛」公式サイト

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フィフティ・シェイズ・フリード

2018-10-03 23:26:05 | は行

ゴージャス&エロチックなシリーズ最終章!

 

「フィフティ・シェイズ・フリード」69点★★★☆

 

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大学生だったアナ(ダコタ・ジョンソン)を見初め、

彼女の“才能”を開花させた、若き大富豪クリスチャン(ジェイミー・ドーナン)。

 

紆余曲折を経た二人は、めでたくゴールインし

ラブラブのハネムーンに出かけていた。

 

だが、そこに影が忍び寄る。

 

二人の幸せを阻もうとする人間の存在、さらに

彼ら自身のなかにも、微妙なズレが生じ始める。

 

アナとクリスチャン、二人の行方はどうなる――?!

 

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ある意味、ストレス解消&欲求不満解消ムービー(いや、募るのか?笑)の

シリーズ最終章。

 

さまざまな困難を乗り越え、めでたくゴールインした二人。

ラブラブ、おのろけまくりのハネムーンのゴージャスなこと!

 

で、戻ってきたら、アナの勤める出版社のオフィスは新調され、

しかも、この若さで新編集長に就任――?!

 

さらに

たいしたことないザコな悪者の登場

束縛してくる夫への、アナのちょっとした反抗

(こんなになんでも与えられてんだから、少しおとなしくしてろよ!笑)、

夫婦の微妙なすれ違い、

そして「まだまだ二人の時間を楽しみたかった」のに、思わぬ妊娠――?!

 

と、まあどこにでもありそうで、

こんなの、絶対ないわー、な展開に、

茶々を入れつつも、観ちゃうんですわ(なんか、言い訳がましいな。笑)

 

ダコタ・ジョンソンは品を失わず、体当たりで役を成し遂げたし

非力なヒロインが自我と強さを手に入れていく、というテーマは通底してるし

 

もしかしたら、こういう世界を「夢物語じゃない」と思って

野心を持てる若者がいるのかも? と思うと

なんだかうらやましい気もするんですけどね。

どうなの?若者?

 

★10/5(金)から全国で公開。

「フィフティ・シェイズ・フリード」公式サイト

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