ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

世界で一番ゴッホを描いた男

2018-10-14 22:35:32 | さ行

 

ひゃ~、こんな人、こんな村、こんなビジネスがあるなんて

知らなかったなあ!

 

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「世界で一番ゴッホを描いた男」70点★★★★

 

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中国、広東州にある「油画村」というところで

ゴッホの複製画を20年間、描き続けている男性のドキュメンタリー。

 

贋作話か?と思うけど

これは完全に「複製画」というジャンルで売られている「商品」。

印刷でなく、油絵で描かれているところに価値があるんでしょうね。

 

彼は主に海外から注文を受け、

彼のほか、家族や弟子大勢が寝泊まりする工房で

月に700枚!も量産している!

 

下書きもなしに、キャンバスに絵の具を置いて描く

そのスピードとテクニックにも驚嘆だけど

そんな彼が取引先である画廊に招待され、

憧れのオランダに渡航するあたりから、物語は転調する。

 

さぞや高級画廊かと思っていた取引先は、しがないお土産屋。

しかも絵が彼らの売値の、8倍の値段で売られている、そのショック。

 

そして現地のゴッホ美術館で

本物の「ひまわり」と対面した彼に変化が・・・・・・?!

 

 

何事も、一心不乱に極めれば、そこに積み重なったものがある。

それを目の当たりにするおもしろさ。

 

 

ゴッホの墓の隣にあるテオの墓にも、ちゃんとお供えをする

主人公の心の正しさ。

どんなときも、家族や大勢で食卓を囲む様子も

いいなあと思いました。

 

★10/20(土)から新宿シネマカリテ、伏見ミリオン座ほか全国順次公開。

「世界で一番ゴッホを描いた男」公式サイト

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エンジェル、見えない恋人

2018-10-13 13:04:26 | あ行

 

 「神様メール」(16年)のベルギー発。

 

「エンジェル、見えない恋人」70点★★★★

 

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エンジェルは「誰にも姿が見えない」という

特異体質を持って生まれた男の子。

 

優しい母ルイーズ(エリナ・レーヴェソン)と二人で

施設で暮らしている。

母によると、父はマジシャンで姿を消すのが得意技だったが

あるとき、ルイーズの前から

本当にスッと消えてしまったのだという。

 

少年に成長したエンジェルはあるとき

施設の窓から、少女を見かける。

 

気になったエンジェルが後を追うと

驚いたことに、少女はこちらに手を差し伸べてきた。

 

「・・・僕のことが見えるの?」

「ううん、でも声と匂いがするから」

そう、少女マドレーヌは、目が見えなかったのだ。

 

特別な絆を感じた二人は

秘密の友情を育んでいくのだが――?!

 

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うーむ、ゆるダークなファンタジーか、空回りな一人芝居か

意外に微妙なところだったんですが(笑)

 

でも

「ぼくのエリ」(10年)

「赤い風船」(1956年)を思わせる雰囲気もあって

スッとハマる人もいるかもしれない。

 

 

姿のみえない“透明人間”を主人公にするというアイデアを具現化したこと、

そして

透明人間を相手にお芝居をするという

ヒロインや母親役の女優たちのチャレンジングは

称えられてしかるべきだと思います。

 

ピントがカシャン、と切り替わる

独特なカメラワークもおもしろくて

優しい映像が、残酷の芳香をより際立たせるし

 

そして展開はちょっと意外。

巡り巡る運命は、ハッピーエンドのようであり、

おかしみと、ほろ苦さも残りました。

 

★10/13(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「エンジェル、見えない恋人」公式サイト

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負け犬の美学

2018-10-12 23:55:08 | ま行

 

負け続けボクサーの一念発起――?!的なものをイメージしたけど

これが意外と意外な運びでおもしろい。

 

「負け犬の美学」70点★★★★

 

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40代も半ばのスティーブ(マチュー・カソヴィッツ)は

負けっぱなしのボクサー。

 

普段はレストランでアルバイトをしながら、

ボクシングの試合をこなし、

妻と娘でなんとか暮らしている。

 

そんなある日、スティーブは

チャンピオンのタレク(ソレイマユ・ムバイエ。注・本物のボクサー!)が

試合のためのスパークリングパートナーを募集していると聞く。

 

だが、スパークングは試合よりも

容赦ないパンチを浴びる、過酷な仕事。

死の危険もなくはない。

 

やめてと懇願する妻を振り切り、

娘の将来の費用のため

スティーブはスパークリングに志願するのだが――?!

 

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フランス発、負け続けなボクサー(マチュー・カソヴィッツ)の物語。

 

でも、「そんな主人公がチャンプを目指す」――とかではなく、

これが意外と意外な運びなのが、フランス流なんでしょうか、おもしろかったです。

 

負け続けの45歳ボクサー、スティーブは

レストランで働きながら妻子を養うダブルワーカーにして良きパパ。

 

ボクサーとしてはとっくに旬をすぎた“おっさん”であることは百も承知ながら、

それでも「これでしか生きられない」彼は

現・チャンピオンのスパーリング相手(練習相手)をする、という高給のチャンスに食らいつく。

 

チャンピオンは当然、彼を年寄り扱いし、斬り捨てようとするんだけど、

そこでスティーブはチャンプに

経験値からの戦法&作戦を提示し、信頼を得ていくんです。

 

そう、

「勝者」だけで世界は成り立っちゃいない。

スティーブの「負け道」のような考え方は、

この現実世界でも

真っ直ぐ過ぎて壁にぶつかっている人に、何かヒントをくれてる気がする。

 

人生を猪突猛進するだけが、戦法じゃない。

行き詰まりを感じてる人を、ハッとさせるかもしれない映画では?と思います。

お試しください~

 

★10/12(金)から新宿シネマカリテほか全国で公開。

「負け犬の美学」公式サイト

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アラン・デュカス 宮廷のレストラン

2018-10-11 23:44:37 | あ行

 

十分な素材を84分に見事に凝縮し、おもしろい。

 

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「アラン・デュカス 宮廷のレストラン」71点★★★★

 

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世界を飛び回るミシュラン18ツ星(!)シェフに、

腕ある社会派ドキュメンタリストが2年間密着。

 

十分な素材を84分に見事に凝縮していて

かなり見応えがありました。

 

ミシュラン史上最年少で3ッ星を獲得し、

いまや18ツ星も持ってるアラン・デュカス(62)。

彼が、あのヴェルサイユ宮殿に「レストラン」をオープンすることになる。

 

 

映画はその経緯を主軸に

あらゆる国を飛び回り、いくつものプロジェクトに関わる彼を追う。

 

仏オランド大統領にもズケズケ意見し、

日本のデパ地下にいたかと思えば、モンゴルの砂漠にいる。

それらを同時進行で見せたことが

この巨人シェフの成り立ち、そのバイタリティに迫るという、テーマに叶った。

 

生涯、縁のなさそうな

ゴージャスなレストランの話だけではシラけるけれど、

慈善事業もし、「食は金持ちのものだけにあらず」を

実践してくれている様子も嬉しいし、

 

 

日本での様子にかなりのパートが費やされるのも

興味深いところですしね。

 

 

それにしてもよく食べ(しょちゅう、パクりと試食してる!)

物事を貪欲に探求する、そのエネルギーに感服です。

 

★10/13(土)から全国で公開。

「アラン・デュカス 宮廷のレストラン」公式サイト

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アンダー・ザ・シルバーレイク

2018-10-09 23:37:19 | あ行

 

観たあとすぐは「なんじゃ、こりゃ?!」と思っても

けっこう「残る」映画がある。

これも、そんなタイプ。

 

「アンダー・ザ・シルバーレイク」71点★★★★

 

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ロサンゼルスのシルバーレイクに暮らす

サム(アンドリュー・ガーフィールド。

 

理想だけは高くとも、仕事ナシ、彼女ナシで

悶々と日々を過ごしていた。

 

そんなある日、サムは

隣に越してきたサラ(ライリー・キーオ)にズキュン、と胸を打たれる。

だが、ちょっといい雰囲気になったデートの翌日、

彼女の姿は忽然と消えていて――?!

 

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「イット・フォローズ」(16年)

デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督。

 

いや~不思議なというか、人を喰った映画というか(笑)。

姿を消した女性、暗号に陰謀説・・・・・・

ロスの街が魔界になる、「マルホランド・ドライブ」的世界。

 

いったい、なんなの?と思いつつ、

しかし、これがまた不思議なことに腹が立つわけでなし。

 

ぬた~っとしたLAの闇にその身を浸したような

妙な感覚が、知らず、観た人にまとわりつく感じで

けっこう「残る」んですねえ。

 

 

なにより

主演のだるだる~でダラダラ、無精ひげにダサT、

もっさりしたヲタ青年アンドリュー・ガーフィールドが

あれ?いつもより、断然カッコイイじゃん?的な発見もあり(笑)

新鮮でした。

 

監督、日本LOVERでかなりのヲタらしい。

来日の予定がNGになってしまったのが残念~

会ってみたかったなw

そうそう、公式ホームページのエフェクトすごくいい。ぜひ試してみて!

 

★10/13(土)全国で公開。

「アンダー・ザ・シルバーレイク」公式サイト

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