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青春タイムトラベル ~ 昭和の街角

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アマデウス ~芸術の秋に「翻訳の妙」を味わう

2020-11-10 | 青春・名画劇場
映画の字幕や吹替えについて映画マニアは、「この映画の訳は酷い」という感想をアマゾンのレビュー等に書き込んでいますが、翻訳というのは大変な仕事なのです。1つの英語に対していくつもの日本語の選択肢があり、そこから翻訳家がこれと思うものを1つだけ選ぶのですから、批判を誰からも受けないはずがない。
今日取り上げるのは、2016年に発売した「アマデウス」 日本語吹替音声追加収録版 ブルーレイです。
 
 
通常、映画の吹替え翻訳というものは、映画1本につき1週間まで。ものによっては3日くらいで行われます。映画「アマデウス」の場合、担当の額田やえ子氏は10日くらいかかったそうです。「言葉の選択というところで、随分あちこちひっかかったから」だそうです。それだけの苦心の翻訳だからこそ、僕はすごく興味をもって、このDVDを観ました。1986年にテレビで放送された時の僕は、今とは比べものにならない英語力しかありませんでした。しかしあれから30年。今の僕なら翻訳家の苦労が、多少なりとも理解できます。

アマデウスは、いわば時代劇です。オーストリア皇帝が登場する場面では、格式ばった喋り方になります。すると、日本語にする際には漢字の熟語が出ざるをえないケースが増える。ところが日本語には同音異語が多いので、誤解される恐れが出て来ます。かといって、漢語表現を口語表現に直すと、セリフが必要以上に長くなる。

それと、日本語に翻訳を行う場合には、皇帝を取り巻く廷臣たちには、最大限の敬語を使わせなければなりません。ところが英語の場合、敬語は分かりにくい。もし英語に「Sir」や「please」がついていなくても、ある程度の敬語を使わせなければおかしい場面もあります。日本語に訳す人の解釈の仕方によって、全然違ってくるので、翻訳者の方々はそういうところに苦労されています。

加えて、ザルツブルグの大司教とオーストリア皇帝の関係とか、なぜモーツァルトが大司教に束縛されていたとか、どこかで説明しないと観ている者は分からない。さらに、あの時代の音楽家は宮廷に仕えていて、地位が低く、皇帝や貴族がバックにつかないとやっていけなかったということも、説明しないと一般の観る側は分かりません。こういうことは、翻訳家自身が分かっていないと訳せないのは勿論ですが、かといってセリフでそれほど出すわけにもいかない。どこまで観る側に理解してもらえるかは、とても難しいのです。

モーツァルトは子供の頃から才能が認められていた天才です。ところが大司教に仕えさせられたり、オーストリア皇帝を取り巻く三流音楽家たちにお世辞を言わなければならなかったり、いろいろと鬱屈した思いがあったはずです。それもあって、ことが音楽に絡んでいた時には、モーツァルトは興奮して、かなり慎むべき言葉をも口走ります

モーツァルトは皇帝の取り巻きの中でも、サリエリに対してはとにかく敬意を表します。それはサリエリの音楽を尊敬しているのではなく、表向きサリエリがモーツァルトに好意的な態度を示しているからに過ぎませんが。だからモーツァルトのサリエリに対する言葉使いは、時によってかなりぞんざいになったり、丁寧になったりと変化するのです。
最後のベッドでの作曲シーンでは、モーツァルトとサリエリの立場は逆転しています。モーツァルトが興奮してどんどんスコアを口述するのをサリエリが助手のように必死に書き取ります。サリエリが「できた」と言うと、モーツァルトは「ちょっと待ってくれ」と言い、そして“Show me.”と言う。ここなどは「見せて下さい」と丁寧に訳してもいいし、「見せろ」と訳してもいい。モーツァルトは高揚した気分と、音楽が絡んでくると、礼儀とか思慮が無くなるという点があるからです。

そのあと作曲がひと段落して休憩している時、モーツァルトが「あなたのことを誤解していた。僕のことを嫌っていると思っていた」そして“Forgive me.”とサリエリに言います。これも「許して下さい」、「許してくれ」、「許して」と、いろんな訳仕方があります。このシーンでのモーツァルトは、かなり平静になっています。

さて、あなたなら“Show me.”と“Forgive me.”にどんな訳をつけますか?

翻訳の難しさや面白さが、映画の日本語吹き替えには溢れています。映画を観る時は「字幕スーパーでないと」「英語で聞かないと」という言葉は、英語にかなり熟達した人がいうセリフだと思います。英語だけではなく、その映画で扱っている分野についても、ある程度の専門的な知識もなければ、英語を理解するのは難しいのです。だからまず、映画は吹替えで観る。そしてどういう映画であるかをざっと理解してから、字幕なり、オリジナル音声なりで楽しむことが、英語を映画から学ぶにはベストな方法だと、僕は考えます。

ともあれ、英語上級者にも楽しめる「アマデウス」の「日本語吹替音声追加収録版」、ぜひ機会があればご覧下さい。芸術の秋に最高の1本です。
 
 
宮崎美子さんのカレンダーが人気を呼んでいますが、宮崎さんは本当に活躍の場が広い!この映画の吹替えもされていました。1986年10月12日放送の、「日曜洋画劇場」20周年特別企画・アマデウス劇場公開版ノーカット放送の時でした。そして、2016年にディレクターズ・カット版の吹替えとして、この86年の吹替え音源に、20分の追加吹替え収録をされています。30年ぶりの吹替えとして、当時話題にもなりました。
 
 


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