天空☆faya-y的毎天☆

~faye-yの日常~ 天空疊著層層的思念。

リュドミラ・ウリツカヤ『通訳ダニエル・シュタイン』

2012-06-19 20:53:30 | 
通訳ダニエル・シュタイン(上) (新潮クレスト・ブックス)
クリエーター情報なし
新潮社

通訳ダニエル・シュタイン(下) (新潮クレスト・ブックス)
クリエーター情報なし
新潮社


ダニエル・シュタインはポーランドのユダヤ人一家に生まれた。奇跡的にホロコーストを逃れたが、ユダヤ人であることを隠したままゲシュタポでナチスの通訳として働くことになる。ある日、近々、ゲットー殲滅作戦が行われることを知った彼は、偽の情報をドイツ軍に与えて撹乱し、その隙に三百人のユダヤ人が町を離れた…。戦後は、カトリックの神父となってイスラエルへ渡る。心から人間を愛し、あらゆる人種や宗教の共存の理想を胸に闘い続けた激動の生涯。実在のユダヤ人カトリック神父をモデルにした長篇小説。 引用

新潮クエストブックです。上下二巻。ずっしりと内容も重く。でも、読後の気持ちは軽くて、なによりすごくいい作品に出会えたという充足感がありました。
上の説明文では、戦中のことが中心のように思えますが、実際は戦後の方が印象に残りました。
手法はとても変わっていて、とにかく沢山の人がでてきます。視点が入れ代わり立ち代わり。誰かが誰かに対しての手紙やインタビュー、また資料としての書類などを交えながら物語が進んでいきます。なので、めっちゃややこしい!(笑)でも、読んでいる間に気にならなくなりました。

“ユダヤ人”の定義は、ユダヤ教を信仰しているか否か、と聞いたことがありましたが、実際はユダヤ人のキリスト教徒もいるようで、戦中に改宗した主人公ダニエルは神父としてイスラエルへ移住します。
ユダヤ教もイスラム教もキリスト教も旧約聖書(ユダヤ教とイスラム教では旧約という概念ではないが)は一緒で、成り立ちは同じところにあります。そして、イスラエルという地はキリストがその足跡を残した場所ながら、ユダヤ教のユダヤ人が圧倒的に多い場所なのです(そういえば、仏教もインドではすたれているなあ)。
このダニエルは実際の職業としての通訳は戦時中の一時期でしたが、聖職者としての生涯に渡り、自分と違う立場の人と人、あるいは神と人の通訳として、ときにユーモアを交えながら活躍するのです。そして、それは順調な生涯ではありません。
総本山があるカトリックの思想にこんなに多様性があるのをはじめて知りました(もっとも、それが認められるか否かは別の問題)。ダニエルは、原始キリスト教会をそのイスラエルの地で興すことに奮闘します。時に、カトリック教会と対立しながら。団体としての教義に留まらないダニエルの思想が非常に立体感を持って読者に迫るのです。

聖書の話がふんだんに出てくるのと、ロシア正教(著者はロシア人)やカトリック、ユダヤ教、また民族の問題もでてくるので読むのに時間がかかるかもしれません。でも、手法もそうですが、内容の濃さといい他にない作品だと思いました。

コメント (2)
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