一の糸 (新潮文庫) | |
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新潮社 |
へえ~、文楽の世界を描いた小説なんや!と、前知識ないまま読み始めました。
『きのね』と同じく女性の作家による女性を通して伝統芸能を描いた作品です。
大正時代からはじまる物語。酒屋の一人娘が目を病んでいるときに出会った文楽。
その三味線の音に狂わしく惚れて…。
「一の糸」とは三味線の糸のこと(いろいろ省略しすぎ)
物語は3部構成ですが、大きく分けると娘時代と結婚後のふたつに分かれます。
娘時代は「あんたそりゃ無謀やで」の暴走お嬢さんなんで、痛い目に合うでと思うほどは
痛い目に合わず。
後半はかつての男だっ、でもないな、かつて一度契った男との再会から後妻に入り、
9人のお母さんになっての肝っ玉展開。また、この主人公の母親も娘を放任の結果行かず
後家になっていたというのによぉできた人なんですわ。
のぶりんさんは虐げられた奥さんに読んでいてムカムカしと言うておられましたが、
『きのね』は、DVまであったので、まあまだましかな←ましって。
それに、主人公もたいがい気が強いし。
後半になるとどっぷりと文楽の世界が描かれるのですが、これが興味深い。
空襲警報により、劇場の地下に避難している中でお客さんが大夫さんに「どこどこのあの場面は
どこで息を吸ってるんですか?」と尋ね、大夫がそれに答え、その場でお客さんが試してみる
という描写が印象に残りました。
義太夫を聞くだけでなしに語って楽しんでいた時代。
それから、若い大夫に芸を二年も時間をかけ命をかけて仕込む場面の迫力は息を飲むほどでした。
文楽の芸の奥深さを改めて感じたのでした。