「雪かき」に死のリスクも スポーツ並み重労働 高齢者らは注意
2023/01/21 17:15
(毎日新聞)
北国の住人はこの冬も、生活を維持するための除雪に追われている。家庭での「雪かき」と侮りがちだが、実はスポーツ並みに体力を消耗する重労働で、無理をすれば死のリスクも潜む。持病のある人や高齢者は特に注意が必要。「体力に自信がある」という人も、過信は禁物だ。
北海道は年度ごとに道内の雪害の被害状況をまとめており、過去5シーズン(2017〜21年度の11〜3月)の死傷者数は計1485人に上った。主に除雪中の事故で、屋根転落▽はしご転落▽除雪機▽落氷雪▽その他――の五つに原因を分類。「その他」の370人には、除雪中の心臓疾患などの発症も含まれている。その具体的な人数は明らかにされていないが、公表されている死亡事例は「過度な除雪は危険」という教訓を与える。
北海道江別市では18年3月、男性(68)がその日3回目の除雪中に心肺停止状態になった。また、札幌や周辺地域で短期間に大雪が降る「ドカ雪」に見舞われた昨シーズンは、除雪が不可欠となったタイミングで亡くなる人がいた。
北海道恵庭市では21年12月に男性(67)が自宅前の除雪中に胸が苦しくなって意識と呼吸を失い、22年2月には除雪作業員の男性(74)が胸の苦しさを訴えて心肺停止となった。いずれもドカ雪の時期と重なる。今季(22年11〜12月)の雪害の死傷者数は95人で、「その他」は23人となっている。
除雪の心臓への負担は大きく、循環器を専門とする北光記念クリニック(札幌市東区)の佐久間一郎所長(68)は「寒い屋外で血管が収縮し、血圧が上がる。重たい雪を持ち上げるといった動きは重量挙げのような運動になり、これも心臓に負担がかかる。除雪をやると心拍数の上昇を実感すると思うが、寒い中でさらに血圧と心拍数が上がり、心臓に負荷をかける条件がそろっている」と指摘する。
暖かい部屋との急激な寒暖差で体調不良を起こす「ヒートショック」のリスクもある。その状況下で重労働に臨むのだから、身体への負荷は大きいはずだ。
では、除雪はどれほどエネルギーを消費する重労働なのだろうか。札幌市を拠点に冬季の安全な生活の啓発などを行う民間団体「ウインターライフ推進協議会」は、身体活動の強度を表す指標「METs(メッツ)」で例示する。
座って安静にしている状態を「1」とすると、スコップでの除雪は「ほどほどの労力」でその5・3倍、「きつい労力」となると7・5倍になる。中間値にあたる6・4倍は「バレーボールの試合(6倍)」を上回り、「きつい労力」はエアロビクスダンスに匹敵するほどの強度だという。
対象者の年齢や性別、体力、作業量によって差はあるものの、確かに重たい雪をすくって運んだり投げたりする動作は、懸命に取り組めば呼吸を止めがちになり、誰でも息が上がる。
「除雪をきっかけに体調不良を訴える患者は珍しくない」と佐久間所長。高齢化が進み、独居の高齢者らが除雪に励む事情を推察し、「ドカ雪が降ると除雪をせざるを得ないし、やりたくなってしまう。これから患者がどれくらい増えるか懸念している。本当は地域に互助会のようなものがあり、若い人たちと協力できるといいのだが……」と話した。
自治体が主導し、支援が必要な民家の除雪を実施する「福祉除雪」もあるが、全ての高齢者らが利用できるわけではない。1月中旬に朝から除雪に励んでいた札幌市白石区の80代女性は「除雪に危険性があるといっても、生活のためにやらないわけにはいかない。始めたらきれいにしようと思うあまり、終われないこともある。どうしたらいいかね」と困り顔だった。
推進協の小西信義さん(38)は、除雪前の入念なストレッチや準備運動、小まめな水分補給や休息を勧める。「朝から準備運動もなく雪かきをすると体が驚き、心肺に大きな影響を与える。張り切りすぎず、ゆっくりと、会話ができる程度の『ニコニコペース』でコツコツ作業してほしい」と話す。北国で朝に除雪するという人は多いが、朝は血圧が上がりやすく、除雪のタイミングとして好ましくない。可能ならば、時間をずらすことも検討すべきだという。
佐久間所長によると、健康自慢の人が除雪中に体調不良を訴えることもある。潜在的な狭心症や心不全の患者が、除雪作業によって症状に見舞われるのだ。胸が痛んだり、圧迫されたりするような感覚があれば狭心症、息苦しさは心不全や肺気腫の可能性があるという。
佐久間所長は「『自分は元気』という高齢者は多く、症状を引き起こすなんて思っていないのだろうが、そういう人も除雪をきっかけに症状が顕在化することがある。だからこそ気をつけてほしい。除雪はいい運動でもあるが、やりすぎは禁物。功罪があるので無理はいけない。不調を感じたらすぐに病院を受診して」と訴えた。【谷口拓未】