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コロナ「5類」でどうなる?なぜ5月8日?懸念は?QAで詳しく
2023年1月27日 20時37分 新型コロナウイルス
新型コロナの感染症法上の位置づけについて、政府は、ことし5月8日に、季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行する方針を正式に決めました。
「5類」になるとどう変わるの?医療費の負担は?患者や濃厚接触者の行動制限は?
Q&A方式でまとめました。
(※1月27日時点の情報で更新)
Q1. どうして5月8日から?
移行時期については「4月下旬~大型連休明け」の期間で絞り込みが進められてきました。5月8日となった理由について厚生労働省の関係者に取材すると、次のような理由を挙げています。
▼自治体や医療機関などから「準備期間」が必要だという声があがっていたこと。この「準備期間」について、厚生労働省の感染症部会は1月27日にとりまとめた意見で「移行にあたっては、国民の生活のほか企業や医療機関などに大きな影響を及ぼすことから、今後、3か月程度の準備期間を置いた上で行うべき」だとしています。さらに「大型連休の前か後か」については。
▼大型連休の前に移行した場合、人の往来が増えて感染が拡大する懸念があったこと。
▼大型連休中の医療機関の負担などを考慮したこと。
Q2. 5類に見直すとどう変わるの?
行動制限、医療機関の対応、公費負担など、ポイントごとに見ていきます。
【1 行動制限など】
「5類」に移行されると、これまで行われてきた行動制限ができなくなります。できなくなる行動制限は、緊急事態宣言、入院勧告・指示、感染者や濃厚接触者の外出自粛要請などです。
【2 医療機関の対応】
入院の受け入れや診療ができるのはこれまで感染症指定医療機関や発熱外来など一部の医療機関だけでした。「5類」移行後は幅広い医療機関で対応できるよう、段階的に移行する方針です。
【3 公費負担】
入院や検査にかかる医療費は、現在は全額公費負担で、患者の負担はありません。「5類」移行後は原則、一部が自己負担になります。ただ、受診控えが起きることなども懸念されることから、当面は公費での負担を継続した上で段階的に見直していく方針です。
【4 水際対策】
政府はこれまで海外から日本に入国する人に対し、3回のワクチン接種の証明書などを求めていました。「5類」では原則、こうした措置は取れなくなります。【5 感染者の報告】
感染者の報告についてはこれまで医療機関や保健所に対して全数報告を求めていました。「5類」では原則、基幹病院からの定点報告に変更されます。
【6 マスクの着用】
屋内でのマスクの着用は距離が確保できていて会話をほとんどしない場合を除いて着用が推奨されています。厚生労働省は分類の移行とあわせて、個人の判断に委ねる方向で検討しています。政府は、1月27日の新型コロナ対策本部で、マスクについては、屋内、屋外を問わず、着用を個人の判断に委ねることを基本にするよう見直すとした上で、具体的な見直し時期を検討していく考えを示しました。
【7 ワクチン接種】
ワクチン接種は予防接種法に基づいて無料での接種が進められてきました。接種費用の負担を今後どうするかについて、厚生労働省は専門家で作る分科会で議論を行っていて、ことし4月以降も無料接種を続けるかや対象者をどうするかについては今年度中に結論を示すことにしています。政府は、必要な接種であれば引き続き自己負担なく受けられるようにするとしています。2~7のポイントについて、厚生労働省は今後、本格的な議論を進め、見直す措置やスケジュールを示していくことにしています。
Q3. 「5類」ということは、季節性インフルと同等になった?
対策にあたってきた専門家は「季節性インフルエンザと同様の対応が可能な病気になるにはもうしばらく時間がかかる」として、「5類」になっても引き続き感染対策が求められるとしています。
【致死率は】感染した人のうち、亡くなる人の割合「致死率」は最初に感染が拡大した2020年春ごろの第1波では5%を超えていました。その後、治療法の進歩やワクチン接種の進展もあり、去年(2022)秋以降から現在に至るまでの第8波では0.20%と下がってきています。
一方で、感染がより広がりやすいオミクロン株になったことで感染者数が桁違いに増加し、亡くなった人は去年12月からの2か月ほどで約1万7000人(1月26日時点)と、これまでに亡くなった人のうちのおよそ4人に1人を占めています。
【コロナの季節性は】
専門家は毎年冬に流行するインフルエンザと異なり、季節を問わず感染が広がり流行の規模や時期が予測できないため、対応が難しいとしています。さらに、新型コロナは変異が起きるペースがインフルエンザに比べて速く、新しい変異ウイルスが出現するおそれがあるとしています。
【治療薬は】
新型コロナでは飲み薬が使われているものの、専門家はインフルエンザのタミフルなどの抗ウイルス薬に比べて使用する際の手続きが煩雑なうえ、基礎疾患のある人に使いにくい場合もあり、簡単に投与できる状態になっていないとしています。
【受診できる医療機関は】現在では一般の医療機関でも感染対策を取った上で新型コロナの患者の診療を行うことが可能になっていて、都道府県が地域のクリニックなどコロナ診療が可能な医療機関名を一覧にして公表するなど、受診できる医療機関の数は増えていますが、インフルエンザに対応する医療機関ほどは多くはありません。
【対策は「個人が主体的に選択」へ】
「5類」に移行しても、新型コロナウイルスの感染力や病原性が変わるわけではありません。
専門家は引き続き感染対策が必要だとしていて、厚生労働省の専門家会合のメンバーらは1月25日、今後の身近な感染対策について「政府の要請に基づく一律の対策から、個人や集団が流行状況やリスクに応じて主体的に選択して行うことになる」とする考え方を示しました。この中では「過剰ともいえる感染対策や有効性が疑問視される感染対策が続けられている場面が見られ、社会経済活動や教育活動、子どもの生活の大きな制限になっていることが課題だ」としたうえで、「感染対策はどの程度の感染予防効果があるかという情報に基づいて、個人がそれぞれの価値判断で決めることになる」としています。
そして「職場や集まりでは話し合いなどで合意することが望ましく、対策を行うことや逆に対策をやめることが強要されないよう、個人の選択を尊重する配慮がされるべきだ」としています。
さらに「人混みができる公共の場では重症化しやすい人、健康でも感染を避けたい人がいることを踏まえて、こうした人たちが不安を感じない配慮のある対策が求められ、病院や高齢者施設では感染が広がりやすく拡大した場合の影響が大きいことから、感染を持ち込まれないようにすることは引き続き重要だ」と指摘しています。
具体的な場面で求められる感染対策については、今後示していくとしています。
Q4. マスクは?
マスクの着用について、厚生労働省の専門家会合のメンバーなどの見解では「感染症法上の位置づけが変わった場合でも感染リスクの高い機会があった人などはまわりに感染させないために引き続き着用が求められる」としています。
新型コロナウイルスは主に感染者がせきやくしゃみ、それに会話などの際に排出する飛まつ、それに「エアロゾル」や「マイクロ飛まつ」と呼ばれるごく小さな飛まつを通じて感染が広がります。
症状が出る前や無症状で感染したことに気付いていない場合でもウイルスを排出して感染を広げるおそれがあるため、屋内で人との距離が取れない場合や距離が取れても会話をする場合はマスクの着用が推奨されてきました。
専門家の見解の中では、
▼感染者や症状のある人、
▼濃厚接触者など感染リスクの高い機会があった人については人と会う外出を控えるとともにマスクの着用が求められるとしています。
▼それ以外の人たちについては、流行状況や場面に応じて十分な換気を含めた感染予防対策が求められるとして、例として高齢者施設などでマスクを着用することなどを挙げています。
Q5.「5類」変更の影響 専門家は?
専門家会合のメンバーらは「5類」などに変更された場合、懸念される点として次の点を指摘しました。
▼患者が増加したときに行政による入院調整が行われず地域を越えた調整も難しくなること。
▼治療費が公費で負担されなくなり、感染者が検査や治療を受けない、受けられない可能性があること。また、「5類」になると特措法の対象ではなくなりますが、その場合の懸念として次の点を指摘しました。
▼都道府県知事が行っていた感染対策の呼びかけの法的根拠が失われることで、「新型コロナは終わった」とみなされ必要な感染対策が行われなくなる可能性があること。
▼対策本部が廃止されることで、感染力や病原性が著しく上がった新たな変異ウイルスが現れた場合に迅速な措置ができなくなる可能性があること。
▼ワクチンに関する対策が縮小される可能性があり、接種の際に自己負担が発生すれば接種率が低下する可能性があること。政府分科会の尾身茂会長は1月24日、NHKの番組の中で「『5類』に移行すれば自動的に感染者数や死亡者数が減るということはなく、コロナ診療に参加する医療機関の数が増えるということでもない。『社会・経済・教育をなるべく普通に戻す』、そうした中でも『必要な医療を提供できること』が非常に重要で、この2つの目的を実現するために、準備期間をおいて段階的にやっていく必要がある」と述べました。
また、感染を受け入れる社会になっていくのかと問われたのに対し「『感染を許容する』というのは『一定の死亡者を許容するかどうか』という議論とつながる。諸外国の例を見ても、対策を急激に緩和してしまうと死亡者が急激に発生することがわかっている。医学の領域を超えて価値観の問題で、医療関係者か経済の人なのか、高齢者か若い人なのかでも見る景色が違ってくる。5類の議論は価値観の問題を議論することで少しずつ国民的なコンセンサスを作っていくことが必要だと思う」と述べました。
Q6. 医療現場の反応は?
発熱外来で患者に対応する医師からは、これまで保健所などが担ってきた入院調整の業務が医療機関に任され、負担が増すのではないかと懸念する声があがっています。埼玉県春日部市の「あゆみクリニック」は、糖尿病や喘息の患者などの一般の診療に加えて、屋外にプレハブを設けて発熱外来を設置し、熱などの症状がある患者を診療しています。
現在は、新型コロナの患者が入院する際には、保健所などが受け入れ先の病院の調整を担っていますが、コロナ以外の患者の場合は患者の診察にあたる医師や、看護師が調整にあたります。受け入れ先の病院のベッドに空きがないなどの理由で断られることも多く、入院先が見つからないまま長い時間、酸素吸入と点滴で対応することもあるということです。感染症法上の分類の5類への見直しについて、クリニックの藤川万規子医師は「現在でもコロナ以外の方の入院調整がすごく難しく、スタッフが数時間対応しても見つからない状態だが、5類になってコロナも私たちが調整しなければならなくなると、人手が足りずパンクしてしまう。保健所による入院調整は急にやめるのではなく、少しずつ手を離す方法をとってほしい」と話していました。
一方で「コロナの患者をどこの医療機関でも診療することになれば、コロナの患者が増えたとしてもほかの医療機関に分散し、発熱外来がある医療機関への患者の集中が解消され、余裕をもって診察に取り組めるのではないか」と期待を寄せていました。
また、これまで発熱外来を設置していなかった医療機関からは感染対策の難しさなど、今後受け入れるうえでの課題を指摘する声が聞かれました。神奈川県鎌倉市の「章平クリニック」の院長、湯浅章平医師(64)は20年ほど前にクリニックを開業し、地域の患者を幅広く受けて入れてきました。
3年前、新型コロナの感染が拡大すると、発熱外来を設置する医療機関も増えていきましたが、このクリニックは対応が難しいとして設置しませんでした。
課題のひとつは、感染している可能性がある患者と他の患者を分ける「ゾーニング」です。およそ40平方メートルのこのクリニックでは待合室と診察室が一つずつで、それぞれの動線を分けることが難しいということです。通院患者の7割が高齢者で、慢性疾患を抱える人も多く、重症化リスクが高い患者も少なくありません。
一方で、湯浅医師自身は発熱外来がある病院で週1回勤務したり、休日夜間急患診療所で診療に当たったりとできる範囲でコロナ患者への対応に当たってきたということです。湯浅医師は「5類になったからといって、コロナの感染力が落ちるわけではないので、これまで外来でみてこなかった医師がコロナをみるというのは、しばらくの間難しいのではないか」と説明しました。
そのうえで「5類だからどこの医療機関もみてくれるだろうと患者さんの意識が変わって、現実はそうでないとなると現場がかなり混乱することが考えられる。段階的に5類にしていくということは必要だと思うが、現場の状態を考えて進めてほしい」と話していました。
Q7. そもそも「2類」「5類」って何?
感染症法では、ウイルスや細菌を重症化リスクや感染力に応じて原則「1類」から「5類」に分け、国や自治体が行うことができる措置の内容を定めています。「1類」はかかった場合に命の危険がある危険性が極めて高い感染症としてエボラ出血熱やペストなどが分類されます。
「2類」には重症化リスクや感染力が高い「結核」や「重症急性呼吸器症侯群=SARS」などがあり、地方自治体は感染者に就業制限や入院勧告ができ、医療費は全額、公費で負担します。入院患者は原則、感染症指定医療機関が受け入れ、医師はすべての感染者について発生届け出を保健所に届けなければならないとされています。
一方、「5類」には「季節性インフルエンザ」や「梅毒」などがあり、地方自治体は就業制限や入院勧告の措置がとれないほか、医療費は一部で自己負担が発生します。一般の医療機関でも入院患者を受け入れ、季節性インフルエンザでは医師の届け出は7日以内とされ、患者の全数報告は求められていません。
新型コロナウイルスは当初は特性がわからなかったため「2類相当」とされました。その後、おととし2020年の2月に法改正で5つの類型に入らない「新型インフルエンザ等感染症」に位置づけられ、外出自粛要請など「2類」よりも厳しい措置がとれるほか、緊急事態宣言のような強い行動制限ができるようにしていました。その後、「第6波」や「第7波」で拡大したオミクロン株は従来株と比べて重症化率が低い傾向にあったことや、オミクロン対応のワクチン接種が始まったことなどを受け、対策の緩和が進みました。患者の療養期間の見直し(10日間→7日間)、感染者の全数把握の簡略化、水際対策の緩和などです。
こうした中で政府は去年12月から5類への引き下げも含めて見直しに向けた議論を本格化させ、専門家に必要な検証を求めていました。