もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

平和憲法と全方位外交

2021年03月21日 | 憲法

 アラスカでの米中外交トップ級会談が終了した。

 会談は米中それぞれの自説開陳に終始し、共同宣言も出されない「物別れ」と報じられているが、バイデン新政権下での初のトップ級会談であれば両国の瀬踏み・探り合いに終わることは当初から指摘されていた。しかしながら本会談は、アメリカにはトランプ政権の対中強硬政策の継続を印象付けることで、国内的にはトランプ支持層との分断鎮静に、対外的には反中同盟国に、一応の安心感をもたらし、中国は対バイデン政権戦術を見出したために、双方とも一応の成果を収めたものと考えている。
 バイデン政権が対中融和に傾斜する可能性は政権発足以前から指摘されており、日本でも米中対立は「何も生み出さない」「仲良く共生」という意見が多くバイデン政権誕生を歓迎する向きもあった。   これは、紛争解決に軍事力を行使できない平和憲法という足枷から、政府が止むを得ずに採用した「全方位外交」の悪しき残渣が影響しているように思う。
 改めて全方位外交をネットで調べるとブリタニカ国際大百科事典では《特定の外国との提携にかたよらず、すべての国とほぼ同程度の外交関係を結ぶと同時に、すべての国が潜在的な脅威の源となりうるとの認識のもとに進められる外交。 1967年にフランスの.アイユレ三軍参謀総長が ドゴール大統領の承認を得て国防評論誌に発表した全方位戦略の考え方が起源。米ソ冷戦時代のような両極体制下ではありえない外交のやり方である。国際政治の多極化時代に応じたバランスのとれた外交のあり方として、多くの国が実質的に採用している。日本も福田赴夫内閣の外交方針として掲げられて以来、全方位外交が基本路線となっている。》と解説されていた。しかしながら、全方位外交を教条的に展開したドゴール・フランスはNATO加盟国からは不信感を持たれて孤立化し、欧州での発言力を回復するのに20年以上も必要とした。
 日本を振り返れば、世界第2位の経済大国であった時代には、東西から取り残された第3世界への多額のODAと全方位外交によって一応の発言力を持っていたが、東西冷戦の終結と経済の停滞によるODAの縮小は、「金の切れ目が縁の切れ」のしっぺ返し状態となり、国際関係における発言力は消滅してしまった。現在辛うじて発言できるのは安倍政権の提唱した「印度太平洋戦略」と「環太平洋パートナーシップ協定( TPP11)」くらいであり、全方位外交の幻影は自然消滅したと思っているが外務省や野党議員並びに野党支持者には金科玉条として今なお信奉されているように思える。

 今回の米中外交トップ会談でも明らかなように、力(中国元と海軍力)で現状変化を求める中国に対して会話による解決を望むことは、中国自身が会話を望んでいないことから不可能である。トランプ政権はアメリカが対中防波堤となり追随したい国とは2国間協定で対処するとしたが、バイデン政権は同盟国が協調して中国に当たるとしている。バイデン政権の政策は中国にとっては将に望ましいもので、包囲網を突破するためには対アメリカに対する努力は放置し、例えが韓国、例えば日本、を切り崩せば包囲網を無力化若しくは効果を弱めることができる。
 強力な防波堤を失った現実と、中国の同盟国各個撃の戦術を考えれば、日本に対する中国の攻勢はこれまで以上に激化するだろうと推測するものである。