もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

空母レナルド・レ―ガンの中東スウィングに思う。

2021年05月28日 | 軍事

 横須賀を母港とする空母「レナルド・レーガン」の中東派遣の可能性が報じられた。

 報道によると、現在中東地域に派遣されている空母「ドワイト・D・アイゼンハワー」が7月に海域を離れてノーフォークに帰港するために、レーガンが6月以降に最大で4か月間の予定で米軍のアフガニスタン撤収を支援するとされている。
 レーガン打撃群の主要な構成は、横須賀を母港とするタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦3隻と第15駆逐隊のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦7隻、厚木基地の第5空母航空団、佐世保を母港とする第11揚陸隊の強襲揚陸艦1隻とドック型輸送揚陸艦4隻、プラス若干の攻撃原潜で、空母の機動性を考えると海・空自衛隊の全攻撃力にも等しいものである。レーガンの随伴兵力は報じられていないが、アフガン国内の武装勢力を牽制・抑止しつつという大規模な撤収作業であることを考えれば相当数の麾下兵力を帯同することになり、短期間であるが東アジア地域の米海軍兵力は大きく減少することになる。この状況は、力の空白地域・期間に乗じて既成事実を積み上げて居座ることを伝統とする中国政府と中国海軍にとっては将に渡りに船の現象であるが、そのことを熟知しながらもアジアからレーガンを引き抜くことには「巧妙に敵に塩を送る」バイデン政権の下心が透けて見えるようにも思える。
 世界の火薬庫ともされる中東地域に空母打撃群を常続配置しない米軍の戦力配備は疑問にも思えるが、財政負担低減のために16隻保有していた攻撃空母を12隻(現在は11隻)に減らす際に、欧州・中東地域の紛争には本国・アジアの空母兵力を振り向ければ十分という「スウィング戦略」の残渣であると思っている。アジア地域の兵力をスウィングすることが可能と判断した時点では、朝鮮半島情勢は一応落ち着いて、ソ連に対しては戦略核で抑止できる見通しが有り、中国は対外膨張を企図する余裕・能力がないとの判断に立ったものと思うが、北朝鮮が核を保有したことや中国海軍が目覚ましい増強を遂げるとともに中華覇権の野望をむき出しにしている現状を観ると、在アジア兵力のスウィングの前提は大きく様変わりしていると思う。

 レーガン打撃群の不在は最大4か月間とされているが、アフガンの情勢は米軍撤退を見越したタリバン、アルカイダ、IS共同戦線の攻勢を観る限り内戦再突入は必至の情勢と思えるので、レーガンの不在、極東米軍の弱体化は相当の長期に及ぶ可能性が極めて高いように思える。アメリカ大統領の善意とアメリカ軍の即時・全面支援を基に構築されている自衛力を考えれば、米軍の空白が長期に及ぶことは憂慮すべき事態ではあるが、同盟国であっても中国に差し出しかねないバイデン外交であれば今後も同様の事態が起きることは覚悟しておかなければならないように思える。
 敵基地の定義、敵基地攻撃能力整備の要否、ミサイル射程の長短等に議論を費やす場合ではないように思うのだが。