もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

ロシアの日本漁船拿捕について

2021年05月30日 | ロシア

 稚内沖合で操業中の漁船1隻が、ロシア国境警備隊の臨検を受けた後、拿捕されたことが報じられた。

 拿捕された漁船は僚船3隻と底引き網漁を行っていたが、僚船は無事に稚内港に帰投したとされている。拿捕された海域は不明であるが、現在の船舶、特に領海警備の船舶や漁業協定に基づく海域で操業する漁船は高性能のGPSを搭載しているので、船位を失った結果として拿捕したり漁労禁止区域に入り込むことは想像できないために監視艇・漁船のどちらかが故意に船位を操作したことは十分に予想できるが、これまでに拿捕された漁船の例を観ると、高額な罰金と漁具・水揚げ魚介類が没収されて釈放されることが一般的であることから、漁船が大きなリスクを冒すことは考えられず、ロシアが漁労海域を我田引水的に作為した公算が大きいものと考えざるを得ない。
 かって、ソ連邦が健在であった頃には歯舞・色丹島近海の優良な漁場と隣接する根室港には「赤い漁船」と称される複数の漁船が存在したとされる。「赤い漁船」は、ソ連が主張する領海内で操業しても拿捕されることは少なく、拿捕された場合にも短期間の拘束の後に漁具・水揚げ品もろとも釈放される場合が殆どであったとされる。「赤い漁船」は、ソ連の求める物品や情報の提供によって直接的な被害から免れていたとされるが、彼等がソ連に提供できる情報は公刊資料程度であったもののソ連としては根室周辺の分断・混乱が起きれば十分とする情報戦の一環として行われていたと推測している。
 戦後の韓国が一方的に設定したに李承晩ラインによる日本漁船の拿捕、1970年代に起きたアイスランドとイギリス間のタラ戦争のように、一般的に漁船の拿捕は水産資源の争奪によって引き起こされる。しかしながら、ソ連・ロシアの拿捕は領土問題に対するプロパガンダや国境警備隊の資金調達という面もあり、他の拿捕案件とは些かに趣を異にしていると思っている。

 現在、日本漁船が拿捕されるケースはどれくらいあるのかとネット上を探したが、政府資料を含めて発見できなかった。しかしながら、個々にはロシアの他に韓国によるものや、南米の太平洋岸やアフリカの東海岸でマグロはえ縄線が拿捕された報道もあり、相当数の拿捕案件が起きているだろうと推測する。
 一方、他国の漁船を拿捕した実績は水産庁のHPに掲載されており、拿捕の実績は次のようになっていた。
  (記載要領は、相手国:平成30年実績/平成29年実績/平成20年実績)
 韓 国:5/1/18
 中 国:0/4/2
 ロシア:1/0/0
 合 計:6/5/20
 この数字、中国船団による三陸沖のサンマ/マグロ漁・父島近海のサンゴ採取・尖閣水域の操業、北朝鮮による大和堆周辺のイカ漁・・・等々の報道から、多いと見るべきか・少ないと観るべきなのだろうか。