朝食の食器洗いをしながらであるが、テレビからリスキリングという言葉が聞こえてきたので、食洗の手を止めて視聴しようと一瞬思ったが、財務・厚労・法務大臣の叱責が怖くて断念した。
ネットで調べてみると、リスキリングは既に2020年ころから「新成長戦略」に関連して経産省や経団連から発信・提唱されている取り組みであることを知った。
リスキリング(Reskilling)は、字面通りに職業能力の再開発・再教育を意味しているが、現在の職務に関する事項についての能力の向上(スキルアップ)や、そのために一旦仕事を止めて学び直す「リカレント教育」とは異なって、主として企業が自社に不足する能力・人材を「新規雇用に依らず自社の社員を教育することで補おうとする取り組みであるとされている。
なにやら目新しい取り組みに聞こえるが、これまでの「配置転換」や「出向」と呼ばれていた取り組みの看板架け替えに過ぎないようにも思える。自分の周りでも、東洋工業(マツダ)の経営危機にあって生産ラインの組立工が営業職に配置転換されて販売促進に四苦八苦し、造船不況では溶接工が関連企業の食品販売に出向させられた例を知っている。これまでは、配置転換や出向を命ぜられた場合、当該職に必要なスキルは個人が努力して会得する必要があったが、取り沙汰されているリスキリングはこれらを企業内で組織的に教育しようとするだけであるように思える。
海上自衛隊では、艦艇の主機関の主流が蒸気タービンからガスタービンに移行した30年前、深刻なガスタービン要員の不足に直面した。その際は、些かパッチ充ての感があったが、蒸気機関やディーゼル機関のベテランである上級海曹を含む隊員に数週間の教育でガスタービン機関を習熟させる転換教育で要員不足に対処したことがある。これもスキルアップではなく立派なリスキリングであるように思う。
テレビ番組では、外国企業で事務職を技術職に転換して成功した例が紹介されていたが、終身雇用が原則である日本ならば余剰人員を即席教育で配置転換させることも可能であろうが、意に添わぬ職(配置)からは「Fuck」と吐き捨てて別の企業に移動することが当たり前と思っていた外国で、そのような変化があったことを見れば、欧米人と雖も「雇用継続による安定」は魅力的に映るように変化したのかもしれない。
番組では、この取り組みが社員の給与所得改善にも寄与できるとされていたが、高額の給与で他企業からハンティングするよりも些かの教育費出費で人材を養成する方が経営側に有利な点も見逃せないようにも思える。
また半面、これまで配置転換は悪と捉え争議や訴訟に発展するケースもあったが、リスキリングは労働者にとっても新たな自分の能力の発見や、これまで無縁であった職の魅力発見と云う正の面もあって、これまで労使対決が当然とされてきた組合活動に捉われない新たな労使関係となるのかもしれない。