昨日の産経抄に、《努力は足し算。協力は掛け算》という警句が15年程前に「手帳の高橋」で有名な高橋書店の「メモしたくなる名言」に収録されていると書いてあった。
昭和60年代末期の幕僚勤務時代のことであるが、幕僚部の計画した作業がチームワークの齟齬で失敗とまでは至らぬものの成功とまでは呼べない結果を招いたことがあった。
これに対して、1佐部長は幕僚全員を集めて「所詮おまえらは"0"だ。足しても掛けても"0"にしかならない」と口を極めて罵倒した。幕僚の中には2佐室長や旧海軍大学に匹敵する指揮幕僚課程修了者もいたので幕僚全員の能力が0とするのは言い過ぎであろうが、叱られ慣れている上に当該作業に深く関与しなかった自分は神妙な顔を取り繕いながらも「流石に1等海佐。旨いことを言うなぁ」と内心で思っていた。
産経抄は高橋書店が警句を乗せたのは15年程前としているので、時間的に考えると件の1佐部長の言は彼のオリジナルであったのだろうかと調べてみたが、どうも歴史上の有名人の言葉ではないようである。
見つけることができたのはYAHoo知恵袋に寄せられた疑問のベストアンサーで《(言ったのは)どこの学校かはわかりませんが、小学校か中学校の「部活の先生」です。これを聞いた当時(2008年)13歳の中学生が「この言葉は、私たちが全然協力していない時に、部活の先生が言ってくれたものです」と高橋書店の「第12回手帳大賞」の「身近な人の名言・格言部門」に応募し受賞しました》とあるので、警句は市井では何年も前から使われていたもので、1佐部長の完全なオリジナルとまでは言えないようである。
チームで行う作業は、個人が傾ける努力の度合いの総和で成功の程度が増し、1名の重大な瑕疵で失敗に帰す可能性があることや、失敗が許されない軍事組織の幕僚部と云うことを考えれば、今の一般社会では個人のパワハラと糾弾されかねない1佐部長の部下の人格を完全否定した罵倒・叱責も当然であろうか。
部活の先生の言葉を真摯に受け止めた生徒に対して、「旨いことを言うなぁ」で終わり以後の生活の糧としなかった自分を比べれば、警句の作用も受け手・聞き手の資質・能力に負うところが大きいように思えると今更ながらに反省している。
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