奈良県下市町立中学校への入学を希望していた身体に障害を持つ谷口明花さん(12)=同町=と両親が、町教育委員会を相手に、入学を認めるよう求めた訴訟で、奈良地裁(一谷好文裁判長)は26日、同校への入学を義務付ける仮決定を出した。代理人弁護士によると、中学校入学での仮決定は珍しいという。
決定によると、校舎には手すり付きトイレが設置されているなど、設備などに不都合はないと指摘。「中学校教育の期間はわずか3年間しかないのに、提訴してから既に3カ月近くが経過しており、緊急の必要性がある」と、同日からの女子生徒の入学を認めた。
訴状などによると、明花さんは両足と右腕が不自由で、3月に町立小学校を卒業。下市中への進学を希望したが、同校は施設未整備などを理由に、入学通知を出さず、特別支援学校への進学を要請していた。
時事ドットコム:指定記事
この件は4月に提訴されたときに気付いていて、成り行きを見守っていたのですが、思わぬ仮決定が出て、少々驚いています。
私が驚いた点は2つ。
1つは、『設備などに不都合はない』『バリアフリー化には国庫補助もあり、可能な範囲でスロープを設置するなど工夫を試みる余地はある』とした点。下市町教委が谷口さんに明日香養護への進学を勧めた最大の理由を、一刀両断、完全否定しているのです。
下市中学校付近の地図(国土地理院)から推測するに、相当な傾斜地に建っている学校であることが分かります。また、下市町の財政は逼迫しており、エレベーター・スロープ等必要な施設改修を行うことは困難だと町教委は主張していました。
裁判所の指摘通りに現状の設備に不都合はなく、国庫補助を受けて施設改修が可能であるならば、町教委は怠慢のそしりを免れません。一方で町教委の主張通りに谷口さんの移動を安全に介助するには施設改修が不可欠で、そのための財政支援が望めない状況なら、現実から乖離した不当な決定と言わざるを得ません。
現段階で私が入手できる情報だけでは判断がつきかねるため、今後の県・国の対応、判決を待ちたいと思います。
もう1つは『町教委の判断は著しく妥当性を欠き、特別支援教育の理念を没却する』とした点。すなわち「特別支援教育」の理念の解釈です。
仮決定の全文が入手できないため、何をもって『特別支援教育の理念を没却する』と断じたのか分かりません。分かりませんが、それこそが最も重要なポイントであるように思えてなりません。
「中学校への入学を認めない」ことが『特別支援教育の理念を没却する』というのであれば、肢体不自由特別支援学校の存在意義を否定することになります。また、「本人・保護者の“希望”通りの進学を認めない」ことが『特別支援教育の理念を没却する』というのであれば、教育行政の権限を極めて狭めるものになります。
『特別支援教育』は、障害のある全ての子どもたちが生涯を通じて一貫した適切な指導・支援を受けられる体制を目指すものであって、“全ての子どもたちを小中学校で教育する”という狭義のインテグレーション(統合教育)とは異なるものです。加えて、現実的な教育的効果や効率の視点から、支援の必要度が大きい子どもに対応するために特別支援学級・特別支援学校が集約的に設置されているのです。
「特別支援教育」の理念が正しく理解されているか、「特別支援教育」を実践する現場の実情がきちんと把握されているか。この裁判を引き続き注目して行こうと思います。
決定によると、校舎には手すり付きトイレが設置されているなど、設備などに不都合はないと指摘。「中学校教育の期間はわずか3年間しかないのに、提訴してから既に3カ月近くが経過しており、緊急の必要性がある」と、同日からの女子生徒の入学を認めた。
訴状などによると、明花さんは両足と右腕が不自由で、3月に町立小学校を卒業。下市中への進学を希望したが、同校は施設未整備などを理由に、入学通知を出さず、特別支援学校への進学を要請していた。
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この件は4月に提訴されたときに気付いていて、成り行きを見守っていたのですが、思わぬ仮決定が出て、少々驚いています。
私が驚いた点は2つ。
1つは、『設備などに不都合はない』『バリアフリー化には国庫補助もあり、可能な範囲でスロープを設置するなど工夫を試みる余地はある』とした点。下市町教委が谷口さんに明日香養護への進学を勧めた最大の理由を、一刀両断、完全否定しているのです。
下市中学校付近の地図(国土地理院)から推測するに、相当な傾斜地に建っている学校であることが分かります。また、下市町の財政は逼迫しており、エレベーター・スロープ等必要な施設改修を行うことは困難だと町教委は主張していました。
裁判所の指摘通りに現状の設備に不都合はなく、国庫補助を受けて施設改修が可能であるならば、町教委は怠慢のそしりを免れません。一方で町教委の主張通りに谷口さんの移動を安全に介助するには施設改修が不可欠で、そのための財政支援が望めない状況なら、現実から乖離した不当な決定と言わざるを得ません。
現段階で私が入手できる情報だけでは判断がつきかねるため、今後の県・国の対応、判決を待ちたいと思います。
もう1つは『町教委の判断は著しく妥当性を欠き、特別支援教育の理念を没却する』とした点。すなわち「特別支援教育」の理念の解釈です。
仮決定の全文が入手できないため、何をもって『特別支援教育の理念を没却する』と断じたのか分かりません。分かりませんが、それこそが最も重要なポイントであるように思えてなりません。
「中学校への入学を認めない」ことが『特別支援教育の理念を没却する』というのであれば、肢体不自由特別支援学校の存在意義を否定することになります。また、「本人・保護者の“希望”通りの進学を認めない」ことが『特別支援教育の理念を没却する』というのであれば、教育行政の権限を極めて狭めるものになります。
『特別支援教育』は、障害のある全ての子どもたちが生涯を通じて一貫した適切な指導・支援を受けられる体制を目指すものであって、“全ての子どもたちを小中学校で教育する”という狭義のインテグレーション(統合教育)とは異なるものです。加えて、現実的な教育的効果や効率の視点から、支援の必要度が大きい子どもに対応するために特別支援学級・特別支援学校が集約的に設置されているのです。
「特別支援教育」の理念が正しく理解されているか、「特別支援教育」を実践する現場の実情がきちんと把握されているか。この裁判を引き続き注目して行こうと思います。