ゴエモンのつぶやき

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失墜・特捜捜査の内幕:障害者郵便割引不正/上 供述調書を「作文」

2010年09月11日 18時27分48秒 | 障害者の自立
 ◇否定しても署名強要

 昨年6月。大阪市福島区のビジネス街にある大阪地検特捜部で事情聴取を受けた厚生労働省の男性職員が、帰京のため重い足取りで駅に向かっていた。ふいに携帯電話が鳴った。担当の検事からだった。「もう一点だけ聞きたいことがある」。急いできびすを返した。

 検事は1枚の供述調書を示し「これでよければ署名して」と求めた。調書には04年当時、福祉制度の変更に向けて職場が忙しかったという内容が書かれていた。特捜部は当時、この制度変更に有力議員への根回しが必要だったとの前提で捜査を進めていた。だが職員にとって調書は全く聴かれていない内容。「こんなこと分かりません」と言ったが、検事は「いいから」と署名を求めた。取り調べで疲れていた職員は面倒になり、「いいのかな」と思いながら署名したという。職員は記者に吐き捨てるように言った。「そうやって供述調書が作られていった。検察は『厚労省の組織的犯罪』と言うけど、検察の方がよっぽど組織的犯罪でしょ」

     ◇

 事件は、実体のない障害者団体「凜(りん)の会」代表の倉沢邦夫被告(74)が偽の証明書を利用して低料金で郵便を発送した郵便法違反容疑で昨年4月、大阪地検特捜部に逮捕されたのが発端だった。倉沢被告の取り調べでは「(04年当時の厚労省課長だった)村木さんから偽証明書を受け取った」という供述調書ができあがった。

 だが倉沢被告は取材に「本当は村木さんだったのか自信がない」と明かす。「検事から『証明書は課長の印が押してある。あんたは課長からもらったんだよ』と言われ続け、そうなのかなと思って調書に署名した」。大阪地裁はこの供述調書を証拠採用しなかった。

     ◇

 特捜部は、厚労省が石井一・参院議員(76)がらみの「議員案件」と判断し、凜の会を障害者団体に認定する偽証明書を発行した--という構図で捜査を進めた。同会設立メンバーの一人、木村英雄さん(68)は取り調べで、倉沢被告とともに石井議員に面談したのではないかと聴かれた。倉沢被告の手帳に石井議員とともに木村さんの名が書かれていたからだ。

 「覚えがない」と言うと、検事は「議員会館に入った経験はありますか」と尋ねた。木村さんは「入ったことはある。部屋には応接室がある」などと知っている範囲で答えた。できあがった供述調書は「私は倉沢さんと議員会館に行き、石井議員の応接室で口添えを依頼した」となっていた。

 木村さんが「これはあなたの作文だ。私は石井さんに会ったことはない」と反論すると、検事はそれまで紳士的だった態度を変え「お前は会っているんだ。いいんだよ」と声を荒らげたという。木村さんは公判で「供述調書は事実ではない」と証言した。

     ■

 偽証明書が作られてから5年後の捜査。関係者の記憶は薄れ、特捜部は裏付けのないまま、本人らの身に覚えがない供述調書を積み上げた。

 事件で明らかになった特捜捜査の内幕を検証する。

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2010年09月11日 18時22分57秒 | 障害者の自立
 ◇指弾された裏付け不足

 厚生労働省元局長、村木厚子被告(54)に無罪を言い渡した10日の大阪地裁判決は、客観的証拠を厳密に分析し、検察側が有罪判決に向け望みを託していた一部の供述調書や証言について「客観的証拠と合致しない」と退けた。有罪の立証を捜査段階の供述調書に頼る検察に対し、厳しい見解を示したと言える。無罪判決を受けて検察側は、控訴するかどうか本格的な検討を始めた。【日野行介、久保聡、三木幸治、鈴木一生】

 実体のない障害者団体「凜(りん)の会」に郵便料金の割引を認める厚労省の偽証明書が発行された郵便不正事件で、最大の物証は元係長、上村勉被告(41)が作成した村木元局長(当時課長)名の偽証明書と、その発行手続きが省内で進んでいると装う偽の決裁文書(稟議書(りんぎしょ))だった。凜の会の倉沢邦夫被告(74)は偽証明書について「04年6月上旬に省内で村木元局長から受け取った」と証言。検察側はこれに有罪の望みを託していた。

 しかし判決は、上村被告がパソコンで偽証明書を作成した際、フロッピーディスクの最終更新日時が「6月1日午前1時20分」だった点に着目し「5月31日深夜から6月1日早朝までに作成」と認定。上村被告は5月以降、凜の会から証明書発行を催促されており、判決は「作成当日に連絡するのが合理的で、証明書交付は6月1日だと強く推認される」と判断。そのうえで、倉沢被告の手帳によると6月1日は関西にいたことから「受け取るのは不可能」と断じた。

 上村被告は5月中旬、凜の会に対して証明書の発行手続きを進めていると装うため稟議書を偽造した。これについて判決は「証明書の発行が組織ぐるみで決まっていたなら、上村被告が村木元局長らに相談することもなく偽稟議書を作成するのは不可解」と指摘。上村被告は偽証明書の発行までに、いわば「時間稼ぎ」を1人で行っていたことになる。

 こうしたことから判決は、「偽証明書は独断で作成した」とする上村被告の証言に軍配を上げ、村木元局長が関与したとする検察側の構図を否定。さらに判決は「村木元局長が5月中旬ごろ、倉沢被告の目の前で当時の郵政公社幹部に電話し『証明書の発行は間近』と伝えた」とする検察側主張を検討。「電話の(後に事態がスムーズに進んだなどの)効果など、電話の事実を裏付ける痕跡がない」と、裏付け捜査の不足を指摘し、主張を一蹴(いっしゅう)した。

 判決は最後に「人間の供述は認識、記憶、表現の3段階で誤りが混入する可能性がある。供述の具体性や迫真性は後で作り出すことも可能で、客観的証拠の裏付けのない供述についての信用性は慎重に判断すべきだ」と指摘。客観証拠より供述調書に頼る特捜部の捜査に警鐘を鳴らした。

 ◇幹部のチェック不全
 「国民の期待も関心も高い特捜部の事件だけに、裁判所の判断は重い」。無罪判決に法務・検察幹部らは一様に表情を曇らせた。

 「どうしてあんな取り調べになるのか」。ある幹部は、元係長の上村被告ら主要な関係者が公判段階で次々と供述を覆した点に首をひねった。「元係長が『(検事が取り調べで)自分の話を聞いてくれない』と不満を抱いていた。物証の少ない特捜事件では、信頼関係を基に話をさせて心証を得ないといけないのに信じられない」

 別の幹部は「チェック機能が働かず、特捜部の暴走を止められなかった。下の報告をうのみにせず、幹部が『これに反する証拠があるんじゃないか』とチェックしないと」と指摘する。また「パソコンで簡単に情報を得られる時代の影響なのか、最近の若い検事は聞いた話が本当なのか吟味せず、つなぎ合わせて簡単に調書をつくってしまう。供述の裏付け捜査など、当たり前のことができていない」と若手の教育に言及する首脳もいた。

 とは言え、一部で捜査の不備を認めつつ「完全無罪」を疑問視する声もある。ある幹部は「元係長が独断で偽造し、上司の村木さんは何も知らなかったのか。この事件は『金太郎あめ』のように、どこから切っても必ず無罪になるとは言えない」と語る。

 判決の指摘を受け入れて無罪を確定させるのか、それとも控訴に踏み切るのか。大阪高検のある幹部は、証拠請求した8人の捜査段階の供述調書計43通のうち34通が採用されなかったことを問題視。「これだけ多くの供述調書が証拠採用されなかった例はない。(裁判官の)法令違反ということも考えられないか検討し、対応を慎重に協議する」と話す。

 一方で「高裁で逆転有罪に持ち込める見込みがあるなら控訴するが、あくまで証拠で判断すべきだ」との意見もある。不採用とされた調書については「客観的な証拠と矛盾している以上、高裁が採用してくれる可能性は低い」との見方も。過去には、捜査にミスがあり1審で無罪とされた事件で、控訴を断念したケースもあった。

毎日新聞 2010年9月11日 大阪朝刊