◇前大阪地検特捜部長と副部長
郵便不正事件に絡む証拠改ざん事件で、大阪地検特捜部の主任検事、前田恒彦容疑者(43)が証拠隠滅容疑で逮捕されて28日で1週間となる。最高検は改ざんの動機を詳しく調べる一方、27日も当時の上司だった大坪弘道・前大阪地検特捜部長(現京都地検次席検事)や佐賀元明・前特捜部副部長(現神戸地検特別刑事部長)からの聴取を継続。2人が前田検事の改ざんを故意だと知りながら放置し、隠ぺいを図っていなかったか解明を進めている。
◇「ほおかむり」の指摘
「部長や副部長に意図的な改ざんだと報告したのに、前田検事だけ逮捕するのはおかしい」。最高検の聴取に応じた大阪地検の検事は訴えたという。大坪前部長と佐賀前副部長の聴取はこの日で4日目。聴取が長引いているのは、検事の「告発」が真実かどうかを見極めるためとみられる。
発端は1月27日に大阪地裁で開かれた厚生労働省の村木厚子元局長(54)=無罪確定=の初公判にさかのぼる。「04年6月上旬」に元局長が偽証明書の作成を部下に指示したという検察側に対し、弁護側は捜査報告書に添付されたフロッピーディスク(FD)のデータの最終更新日時が「6月1日」になっていると矛盾を追及した。
検察関係者によると同僚検事が東京に出張していた前田検事に電話で公判の状況を伝えた際、前田検事は「FDの最終更新日時が記録されている『プロパティ』を変更した」と打ち明けた。意図的改ざんを示唆するこの発言は、同僚検事から別の特捜部検事と公判部の検事にも伝わった。
3人は1月末に佐賀前副部長に「前田検事がプロパティを書き換え『FDに時限爆弾を仕掛けた』と言っている」などと報告。公判部の検事は大坪前部長にも「公表すべきだ」と直訴したが、内部調査は見送られた。
「『時限爆弾』の意味が分からなかった」。取材に、佐賀前副部長は説明した。前部長と相談して数日後に前田検事に事実関係を確認した結果、前田検事が更新日時を書き換えたことは確認したが、「過失だった」という本人の説明を信じたという。
大坪前部長と佐賀前副部長が改ざんの故意を認識していたとすれば、刑事責任を問われる事態に発展しかねないが、2人は最高検の調べにも「故意にFDのデータを改ざんしたとは思っていなかった」と説明しているという。一方で、法務検察幹部は「2人が十分な調査をせず、ほおかむりしてしまったのは間違いない」と指摘。「最強」と呼ばれた特捜幹部経験者が職務上の責任を問われて処分を受ける可能性が極めて高いことを示唆した。
◇前田検事は「元気です」 拘置所前で弁護士
前田検事は09年7月、FD内に記録された偽証明書のデータの最終更新日時を「04年6月1日」から「6月8日」に改ざんしたとして逮捕された。現在は大阪拘置所(大阪市都島区)に拘置されている。特捜部の検事として逮捕した多数の容疑者を自ら取り調べてきた場所だ。
弁護人とみられる男性弁護士は24日、拘置所前で報道陣に「(前田検事の)体調は」と問われ、「元気です。変わりありません」とだけ述べた。この弁護士は日曜日の26日を除いて25、27日にも拘置所を訪れたが、取材に無言を貫いている。
一方、前田検事の出身大学である広島大学の恩師は「まじめで非常にさわやか。熱心に勉強もするし、友人にも恵まれていた」と振り返る。
ゼミでは、ロッキード事件のように特捜部が手掛けた事件の判例が取り上げられることもあった。恩師は「特捜部というエリートコースのトップクラスに入り、プレッシャーのようなものを感じていたのかもしれない」と指摘。「個人の特殊な犯罪とみるのは間違いで、起訴したら何が何でも有罪にするというような特捜検察の体質に問題があるのではないか」と話した。
毎日新聞 2010年9月28日 東京朝刊
郵便不正事件に絡む証拠改ざん事件で、大阪地検特捜部の主任検事、前田恒彦容疑者(43)が証拠隠滅容疑で逮捕されて28日で1週間となる。最高検は改ざんの動機を詳しく調べる一方、27日も当時の上司だった大坪弘道・前大阪地検特捜部長(現京都地検次席検事)や佐賀元明・前特捜部副部長(現神戸地検特別刑事部長)からの聴取を継続。2人が前田検事の改ざんを故意だと知りながら放置し、隠ぺいを図っていなかったか解明を進めている。
◇「ほおかむり」の指摘
「部長や副部長に意図的な改ざんだと報告したのに、前田検事だけ逮捕するのはおかしい」。最高検の聴取に応じた大阪地検の検事は訴えたという。大坪前部長と佐賀前副部長の聴取はこの日で4日目。聴取が長引いているのは、検事の「告発」が真実かどうかを見極めるためとみられる。
発端は1月27日に大阪地裁で開かれた厚生労働省の村木厚子元局長(54)=無罪確定=の初公判にさかのぼる。「04年6月上旬」に元局長が偽証明書の作成を部下に指示したという検察側に対し、弁護側は捜査報告書に添付されたフロッピーディスク(FD)のデータの最終更新日時が「6月1日」になっていると矛盾を追及した。
検察関係者によると同僚検事が東京に出張していた前田検事に電話で公判の状況を伝えた際、前田検事は「FDの最終更新日時が記録されている『プロパティ』を変更した」と打ち明けた。意図的改ざんを示唆するこの発言は、同僚検事から別の特捜部検事と公判部の検事にも伝わった。
3人は1月末に佐賀前副部長に「前田検事がプロパティを書き換え『FDに時限爆弾を仕掛けた』と言っている」などと報告。公判部の検事は大坪前部長にも「公表すべきだ」と直訴したが、内部調査は見送られた。
「『時限爆弾』の意味が分からなかった」。取材に、佐賀前副部長は説明した。前部長と相談して数日後に前田検事に事実関係を確認した結果、前田検事が更新日時を書き換えたことは確認したが、「過失だった」という本人の説明を信じたという。
大坪前部長と佐賀前副部長が改ざんの故意を認識していたとすれば、刑事責任を問われる事態に発展しかねないが、2人は最高検の調べにも「故意にFDのデータを改ざんしたとは思っていなかった」と説明しているという。一方で、法務検察幹部は「2人が十分な調査をせず、ほおかむりしてしまったのは間違いない」と指摘。「最強」と呼ばれた特捜幹部経験者が職務上の責任を問われて処分を受ける可能性が極めて高いことを示唆した。
◇前田検事は「元気です」 拘置所前で弁護士
前田検事は09年7月、FD内に記録された偽証明書のデータの最終更新日時を「04年6月1日」から「6月8日」に改ざんしたとして逮捕された。現在は大阪拘置所(大阪市都島区)に拘置されている。特捜部の検事として逮捕した多数の容疑者を自ら取り調べてきた場所だ。
弁護人とみられる男性弁護士は24日、拘置所前で報道陣に「(前田検事の)体調は」と問われ、「元気です。変わりありません」とだけ述べた。この弁護士は日曜日の26日を除いて25、27日にも拘置所を訪れたが、取材に無言を貫いている。
一方、前田検事の出身大学である広島大学の恩師は「まじめで非常にさわやか。熱心に勉強もするし、友人にも恵まれていた」と振り返る。
ゼミでは、ロッキード事件のように特捜部が手掛けた事件の判例が取り上げられることもあった。恩師は「特捜部というエリートコースのトップクラスに入り、プレッシャーのようなものを感じていたのかもしれない」と指摘。「個人の特殊な犯罪とみるのは間違いで、起訴したら何が何でも有罪にするというような特捜検察の体質に問題があるのではないか」と話した。
毎日新聞 2010年9月28日 東京朝刊