ユニバーサルファッション NPO法人ユニバーサルファッション協会(東京)によると、年齢、サイズ、体形、障害にかかわりなく誰もがファッションを楽しめる機会をつくる活動と定義される。障害者や高齢者といった特定の対象者向けに不便さを無くす「バリアフリー」だけでなく、一般の商品の機能性を向上させ、使える対象者を広げることが重視される。
カラフル三角巾の薦め ユニバーサルファッション普及を 福岡市の溝田祥子さん「手編み」考案
(2010年9月22日掲載)
●「障害に関係なく おしゃれしたい」
「おしゃれを楽しみたい」という気持ちは障害の有無には関係ない。ところが実際には、障害者にも使いやすい機能性、ファッション性を備えた衣服や福祉用具は、さほど多くはないのが実情だ。そんな中、障害がある左腕を保持するために、自ら三角巾(きん)を開発した女性がいる。福岡市西区の溝田祥子さん(49)だ。おしゃれな三角巾を作り、実用新案に登録。今春から試験販売している溝田さんの試みを通して、障害に関係なく誰もが使える「ユニバーサルファッション」について考えた。
溝田さんに三角巾を見せてもらった。通常の三角巾は、基本的に白い三角形の布の二頂点を結んで首からかけ、けがや障害がある腕を、その布の間に通して使う。
だが、溝田さんは、従来の使い方の発想を転換させた。まず、編み物で三角巾を作り、それぞれの頂点付近にボタンをつけた。編み目にボタンを通して固定することで、サイズ調整を容易にしたのだ。
2頂点を結んで首を通すのは同じだが、首だけでなく反対側の手も通してたすき掛け状態にする。首ではなく肩で支えることで、長時間の使用でも疲れない工夫だ。残った頂点は三角巾の間に腕を通し、その腕を包み込んだ上で、前面で固定する。より体にフィットさせることで、安定感を大きくしたという。
新製品は、自由なデザインも特徴だ。色や模様だけでなく、レースやリボンなど飾りも付けられる。夏は汗を吸収しやすいコットン、冬は温かいウールと素材も使い分ける。「病気やけがをしていても、おしゃれをして積極的に外出するようになってほしい」。新製品には、自らの体験を踏まえた溝田さんの思いがこもっている。
溝田さんが、全身が激しく痛む線維筋痛症を発症したのは2007年6月のこと。同年12月には、今度は左腕が腫れ始め、それまでとは違う痛みを感じるようになった。手足に慢性的な痛みや感覚障害を起こす複合性局所疼痛症候群(CRPS)と診断され、以来、二つの病気と闘っている。
CRPSは原因が解明されておらず、根本的な治療法はまだない。今も週2回病院に通い、痛みを和らげる薬を飲み続けている。
溝田さんは、やがて左腕が自らの意志で動かしにくくなり、三角巾で固定せざるを得なくなった。初めて使った三角巾は真っ白な布。「何だか格好悪い」と、外出するにも気が重くなった。
「一生付き合わなければならない病気。おしゃれで使いやすい三角巾ができないかしら」
病気のショックで落ち込んだ気持ちから、ようやく立ち直れたのは1年ほどたったころ。障害を自覚し、治らない中でどうすればいいか考える余裕が出てきた。好きな編み物の技を使い、試作品を幾つも編んだ。半年ほど試行錯誤し、納得のいく形にたどり着いた。
早速、着用して外に出た。すると、「それいいですね」「どこで買えるのですか」と声を掛けられた。病気のショックで家に閉じこもりがちだったそれまでの生活とは打って変わって、外出するのが楽しくなった。「商品化してみんなに使ってもらおう」と昨年11月、実用新案を取得。今年4月から同市中央区の市民福祉プラザの売店で販売している。
だが、溝田さんの三角巾のような、機能性とファッション性を備えたユニバーサルファッションの商品は、まだ一般的ではない。香蘭女子短期大学(同市南区)では、4年前から学生が同市・天神の百貨店など5商業施設で、衣服調査をしているが、品ぞろえは非常に少ないまま変化していないという。
「ファッション業界でも言葉すら知らない人が多い」と指摘する同短大の古森恵子講師は、「障害者自身が商品を考え、ファッションの現場に入ってくる意義は大きい」と評価する。
今も病気の進行と闘っている溝田さんは言う。「障害のある人も前向きに生きることができることを自分で示していきたい」。
西日本新聞
カラフル三角巾の薦め ユニバーサルファッション普及を 福岡市の溝田祥子さん「手編み」考案
(2010年9月22日掲載)
●「障害に関係なく おしゃれしたい」
「おしゃれを楽しみたい」という気持ちは障害の有無には関係ない。ところが実際には、障害者にも使いやすい機能性、ファッション性を備えた衣服や福祉用具は、さほど多くはないのが実情だ。そんな中、障害がある左腕を保持するために、自ら三角巾(きん)を開発した女性がいる。福岡市西区の溝田祥子さん(49)だ。おしゃれな三角巾を作り、実用新案に登録。今春から試験販売している溝田さんの試みを通して、障害に関係なく誰もが使える「ユニバーサルファッション」について考えた。
溝田さんに三角巾を見せてもらった。通常の三角巾は、基本的に白い三角形の布の二頂点を結んで首からかけ、けがや障害がある腕を、その布の間に通して使う。
だが、溝田さんは、従来の使い方の発想を転換させた。まず、編み物で三角巾を作り、それぞれの頂点付近にボタンをつけた。編み目にボタンを通して固定することで、サイズ調整を容易にしたのだ。
2頂点を結んで首を通すのは同じだが、首だけでなく反対側の手も通してたすき掛け状態にする。首ではなく肩で支えることで、長時間の使用でも疲れない工夫だ。残った頂点は三角巾の間に腕を通し、その腕を包み込んだ上で、前面で固定する。より体にフィットさせることで、安定感を大きくしたという。
新製品は、自由なデザインも特徴だ。色や模様だけでなく、レースやリボンなど飾りも付けられる。夏は汗を吸収しやすいコットン、冬は温かいウールと素材も使い分ける。「病気やけがをしていても、おしゃれをして積極的に外出するようになってほしい」。新製品には、自らの体験を踏まえた溝田さんの思いがこもっている。
溝田さんが、全身が激しく痛む線維筋痛症を発症したのは2007年6月のこと。同年12月には、今度は左腕が腫れ始め、それまでとは違う痛みを感じるようになった。手足に慢性的な痛みや感覚障害を起こす複合性局所疼痛症候群(CRPS)と診断され、以来、二つの病気と闘っている。
CRPSは原因が解明されておらず、根本的な治療法はまだない。今も週2回病院に通い、痛みを和らげる薬を飲み続けている。
溝田さんは、やがて左腕が自らの意志で動かしにくくなり、三角巾で固定せざるを得なくなった。初めて使った三角巾は真っ白な布。「何だか格好悪い」と、外出するにも気が重くなった。
「一生付き合わなければならない病気。おしゃれで使いやすい三角巾ができないかしら」
病気のショックで落ち込んだ気持ちから、ようやく立ち直れたのは1年ほどたったころ。障害を自覚し、治らない中でどうすればいいか考える余裕が出てきた。好きな編み物の技を使い、試作品を幾つも編んだ。半年ほど試行錯誤し、納得のいく形にたどり着いた。
早速、着用して外に出た。すると、「それいいですね」「どこで買えるのですか」と声を掛けられた。病気のショックで家に閉じこもりがちだったそれまでの生活とは打って変わって、外出するのが楽しくなった。「商品化してみんなに使ってもらおう」と昨年11月、実用新案を取得。今年4月から同市中央区の市民福祉プラザの売店で販売している。
だが、溝田さんの三角巾のような、機能性とファッション性を備えたユニバーサルファッションの商品は、まだ一般的ではない。香蘭女子短期大学(同市南区)では、4年前から学生が同市・天神の百貨店など5商業施設で、衣服調査をしているが、品ぞろえは非常に少ないまま変化していないという。
「ファッション業界でも言葉すら知らない人が多い」と指摘する同短大の古森恵子講師は、「障害者自身が商品を考え、ファッションの現場に入ってくる意義は大きい」と評価する。
今も病気の進行と闘っている溝田さんは言う。「障害のある人も前向きに生きることができることを自分で示していきたい」。
西日本新聞