配偶者と生計を共にしていなかったら受給できない遺族年金。では、ドメスティックバイオレンス(配偶者などからの暴力、DV)が原因で別居していた場合、どうなるのか。先月、福岡県久留米市で開かれたシンポジウムで、支給を認めた事例が報告された。だが、そうした実例はまだ少なく、高齢被害者への対策は立ち遅れている。DVに対する認識が低い時代を生き、自身を被害者と自覚するのが難しい高齢世代。遺族年金を中心に、高齢者DVをめぐる現状を見てみた。
支給が認められたのは、同県内に住む70代の女性。シェルター(避難施設)の在り方を考える全国シンポの分科会で自ら報告した。女性によると、夫の暴力から逃れるため家を出て、2002年からシェルターなどで生活。居場所を知られる危険性があり、06年に夫が死亡するまで、生活費請求や離婚の手続きができなかったという。
夫の死後、女性は県内の社会保険事務所で遺族年金の支給を申請した。だが、別居していて生活費の支払いもなく、受給条件を満たさないとして「不支給」と裁定された。
そこで不服申し立てをしたところ、厚生労働省の社会保険審査会は、関係機関の相談記録や家族の陳述書などから、DVがあり、同一の生計を維持できないのはやむを得なかったと認定。07年9月、遺族年金の支給が認められた。
女性は「何もかもなくして家を出るのはつらいが、一緒にいられない状況だった。それなのに『生計が同一でない』との理由で遺族年金が支払われないのはおかしいと感じた」と不服申し立てに臨んだ心の内を明かす。
08年、DV防止法が改正された。これに基づく「基本方針」に、DV被害者の遺族年金に関する項目が盛り込まれた。被害者が避難している間に加害者が死亡した場合を想定し「遺族年金の裁定請求の際、社会保険事務所においてその旨を相談すること」と明記。救済の可能性を広げた。
DV被害者の支援団体「S・ぱーぷるリボン」(同市)の梛尾和枝協同代表は「長い間暴力を受けると、それが当然と思うようになってしまう。高齢者の場合、DVの認識が低い時代に『私さえ我慢すれば』と考え続け、DVと気づいていない人もいる」と分析。高齢者だから施設入所というだけでなく、自立も含めた多様な選択ができる情報提供が必要とした上で「被害者がどんな情報、支援を必要としているのか、行政の窓口に座る人まで共通認識を持つことも重要だ」と指摘している。
遺族年金
国民年金に加入中の人が亡くなった場合、子のある妻か子は「遺族基礎年金」を受給できる。「子」は、18歳に達する年度末までの子か、20歳未満の障害者。厚生年金の加入者だった場合は、加えて遺族に「遺族厚生年金」が支給される。いずれも死亡時に、亡くなった人によって生計が維持されていたことが受給の条件。
西日本新聞
支給が認められたのは、同県内に住む70代の女性。シェルター(避難施設)の在り方を考える全国シンポの分科会で自ら報告した。女性によると、夫の暴力から逃れるため家を出て、2002年からシェルターなどで生活。居場所を知られる危険性があり、06年に夫が死亡するまで、生活費請求や離婚の手続きができなかったという。
夫の死後、女性は県内の社会保険事務所で遺族年金の支給を申請した。だが、別居していて生活費の支払いもなく、受給条件を満たさないとして「不支給」と裁定された。
そこで不服申し立てをしたところ、厚生労働省の社会保険審査会は、関係機関の相談記録や家族の陳述書などから、DVがあり、同一の生計を維持できないのはやむを得なかったと認定。07年9月、遺族年金の支給が認められた。
女性は「何もかもなくして家を出るのはつらいが、一緒にいられない状況だった。それなのに『生計が同一でない』との理由で遺族年金が支払われないのはおかしいと感じた」と不服申し立てに臨んだ心の内を明かす。
08年、DV防止法が改正された。これに基づく「基本方針」に、DV被害者の遺族年金に関する項目が盛り込まれた。被害者が避難している間に加害者が死亡した場合を想定し「遺族年金の裁定請求の際、社会保険事務所においてその旨を相談すること」と明記。救済の可能性を広げた。
DV被害者の支援団体「S・ぱーぷるリボン」(同市)の梛尾和枝協同代表は「長い間暴力を受けると、それが当然と思うようになってしまう。高齢者の場合、DVの認識が低い時代に『私さえ我慢すれば』と考え続け、DVと気づいていない人もいる」と分析。高齢者だから施設入所というだけでなく、自立も含めた多様な選択ができる情報提供が必要とした上で「被害者がどんな情報、支援を必要としているのか、行政の窓口に座る人まで共通認識を持つことも重要だ」と指摘している。
遺族年金
国民年金に加入中の人が亡くなった場合、子のある妻か子は「遺族基礎年金」を受給できる。「子」は、18歳に達する年度末までの子か、20歳未満の障害者。厚生年金の加入者だった場合は、加えて遺族に「遺族厚生年金」が支給される。いずれも死亡時に、亡くなった人によって生計が維持されていたことが受給の条件。
西日本新聞